『野火』外国特派員協会記者会見(塚本晋也監督 & 森優作)

塚本晋也監督 & 森優作
映画『野火』外国特派員協会記者会見レポート

2015年7月25日(土)より、ユーロスペースほか全国公開

(取材:深谷直子)

『野火』外国特派員協会記者会見(塚本晋也監督 & 森優作)2――監督と若い俳優さんお二人への質問であり、自分に向かって問いかけることでもありますが、人間の肉を食べるという異常な状況のことを考えることはできますか?

森 塚本監督が先ほどおっしゃられたように、日本の社会の状況というのが戦争に向かっているんじゃないかというのがあって、もちろん食べたくはないですけど、もし自分が招集されて戦場に行かされてしまったら、そういう状況があるんじゃないかって思います。そんなことを考えるだけですごく怖いんですけど、自分はそういうことが絶対に起こらないようにしてほしいなと思います。

塚本 原作では人間の肉を食べるか食べないかというのを、神の問題まで持ち出して悩む主人公が描かれているんですけど、僕の映画では、かなり原作に忠実に描いていながら、食べるか食べないかを悩むというのはあんまり描かれていないんです。というのは、10年前に戦争体験者のお話を聞いたときに、食べるか食べないかなどということに悩むゆとりもない、理性的なことは考えられないほどに恐ろしい状況にあるので、そういうシチュエーションだったらもう食べざるを得ないというぐらいの気持ちになってしまうという体験を聞いていたものですから。僕がフィリピンのレイテ島(での遺骨収集)に一緒に行ったことでやっと口を開いてくださった方のお話なんですけど、……それでも「自分が」ということではなかなか言ってくださらないんですけど、「友達」の話として、自分の身体から湧き出してきたウジを食べたらしいということをお聞きしました。もうその時点で食べるか食べないかを悩むというのが難しくて、肉が口の前にあれば自然に口が動くという状態で。……最初のうちはレイテ島には水牛がいたんですけど、それは日本兵によって完全に骨だけになるまで食べられてやがていなくなって、その次は現地の人の家に非常に乱暴な方法で入って略奪をして、そうすると現地の人も警戒して簡単には入れないようにして。そうすると最後には日本兵は放浪して山の奥に逃げていって、それでも「生きていよう」という強い意志を持っている人にとっては、生きるということは動いているものはすべて食べ物に見えてしまうという状態になるので、そこで選択の余地はなくなってしまう。そこは歴史のいちばん嫌なところなので、日本に帰ってからその方々がそのことをしゃべらないでお墓まで持っていこうとするのもだんだんうなずけてくるんですけど。ただ「自分は?」って考えたときに、自分が死ぬのを確信していたら、親友の兵隊さんがいたら食べてもらったほうがいいなとか、完全に死んでいる人がいたら、焼いたりして食べるんじゃないかなとさえ思ったので、そこに大きな悩みは実はなかったですね。ただ、自分でも死んだ人のお肉は食べていいって決めていても、「ほとんど死んでいるけど、ちょっと動いているけど食べちゃおうか」とか、「かなり動いているけどいずれ死ぬから食べてもいいか」とか判断があいまいになっていって、結局元気に動いている人もこの映画のように食べてしまうということになる、それが戦争の恐ろしさなので。今森くんが言ったように、とにかくそういう状況にならないように、事前に食い止めるというのが今できることなので。戦争をするのは王様の白紙委任じゃないので、最後の判断は国民に委ねられているので、本当に今のような状況を早く止めてほしい、恐ろしい時代になるのを止めてもらわないと困る、とつくづく思っています。

『野火』字幕版チラシ『野火』英語字幕版は、渋谷ユーロスペースで毎日最終回に上映されるほか、立川シネマシティ、CINEMA AMIGO(神奈川)、シネモンド(石川)、別府ブルーバード劇場(大分)での上映が現在のところ決定している。詳細は『野火』HP劇場情報にて。

( 2015年7月14日 有楽町・日本外国特派員協会で 取材:深谷直子)

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野火 (日本 / 2014 / 87分)
原作:大岡昇平「野火」
出演:塚本晋也、リリー・フランキー、中村達也 監督・脚本・編集・撮影・製作:塚本晋也
配給:海獣シアター © Shinya Tsukamoto/海獣シアター
公式サイト 公式Facebook

2015年7月25日(土)より、ユーロスペースほか全国公開

2015/07/18/19:43 | トラックバック (0)
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