塚本 晋也 (映画監督) 映画『野火』について【5/5】
公式サイト 公式Facebook第15回東京フィルメックス オープニング作品
2015年7月25日(土)より、ユーロスペースほか全国公開
(取材:深谷直子)
――監督によって焦点とする部分はそれぞれですが、これは本当に塚本監督の『野火』になっていると思いました。女性を殺してしまうときのシーンでも、田村の葛藤が強烈に伝わってきました。こういう極限状態の人の変化というのは、塚本監督の今までの作品でもずっと描いてきていることですよね。もちろん今までの作品は想像力を凝らしたフィクション性の強いものなんですが、暴力に出遭ったごく普通の人の中に、自分でも抑えられない衝動が湧いて、加害者側というか暴力の世界に入り込んでいく恐怖を描いていて、『野火』は現実の話でありながらまさにそういう物語だなと。私には若いときに読まれた『野火』が塚本監督の原点だったのでは?と思えてしまうほどで。もちろん他にもいろいろなものの影響があると思いますし、元々監督の中に同じ思いがあったから『野火』に惹かれたのだとも思いますが。
塚本 そうかもしれないですね。高校のときから読んでいるわけですから。いろんなものがありましたけど結構入っているかもしれないですね。同じ時期に『黒い雨』も読んだんですけど、それもものすごくインパクトが強かったんです。でも『黒い雨』は自分が描きたいということは全然思わなかったですね。現に今村昌平監督のすごい作品ができていましたし、『野火』も市川崑監督のができていましたけど、この作品に関してはやっぱり自分がまだ作りたいなと。『黒い雨』の被害者目線というのは自分で描くつもりはないんですよね。被害者側から描くのは、お客さんにいちばん戦争の悲惨さを訴えやすいんですけど、やった人というのもいるわけで、そういう人をただ「嫌だな」と無関係なものとして描くのは自分には向かない。どちらかというと戦争に行って自分が加害者になる恐怖のほうを描きたいというか、描くべきという気がして。
――その恐ろしさが本当に実感できる作品でした。
塚本 『野火』があって、若いときに出会えて本当によかったなと思います。戦争のことを隠さずにリアルに書いてくれて。『野火』がなかったら「戦争が昔あったんだなあ」という感じだったと思いますが、これのおかげで本当に生々しく感じることができたので。
――これからは塚本監督の『野火』がまたその役割を果たしてくれそうですね。
塚本 できたらそういう目的で観てもらえたらいいなと思いますね。
――戦争をしようとしている人たちにも観てほしいと思います。
塚本 そういう人は何を見せても……(苦笑)。どうせ自分には関係ないと思っているので。どちらかというとそれに参加しなきゃいけない人がたくさん観て、全体で引きずりおろしていければなと思います。
――森優作さんの演じた役は、もっと狡猾そうな人がやるのが合いそうに思ったのですが、とても純朴な感じの若い方がやることで怖さが増しました。
塚本 戦争に行くとこういうことになっちゃうということをいちばん感じてもらいたい世代の代表として描きました。森くんも最初はヘロヘロ泣いていたんですけど、いちばん元気で逞しくなってくれましたね。
――エキストラでも若い方がたくさん参加されたと思いますが、撮影を経ての感想などは聞かれましたか?
塚本 意外と上映が終わるとみんな暗い顔になってしまって。初号試写のあとも暗い顔のまま乾杯していたのであまり意見とかは聞けなかったんですけど、でもフェイスブックですごくやんちゃなことばかり書いていた兵士役の人が、急に戦争のことを語り始めて、友達に「どうしたのお前?」ってコメントで突っ込まれたりしていましたよ(笑)。
――衝撃も大きいし、じわじわと考えさせられて何か言いたくなる作品ですよね。今回のフィルメックスで観た方は限られていますが、ツイッターなどでの反響は大きいですし。大勢の方にぜひ観ていただきたいと思います。今日はどうもありがとうございました。
( 2014年11月24日 有楽町・朝日ホールにて 取材:深谷直子 )
原作:大岡昇平「野火」
出演:塚本晋也、リリー・フランキー、中村達也 監督・脚本・編集・撮影・製作:塚本晋也
配給:海獣シアター © Shinya Tsukamoto/海獣シアター
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第15回東京フィルメックス オープニング作品
2015年7月25日(土)より、ユーロスペースほか全国公開
- 映画原作
- (著):大岡昇平
- 発売日:2013/12/27
- おすすめ度:
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