塚本 晋也 (映画監督) 映画『野火』について【3/5】
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2015年7月25日(土)より、ユーロスペースほか全国公開
(取材:深谷直子)
舞台挨拶/リリー・フランキー、石川忠(音楽)――味方ばかりの閉ざされた中で疑心暗鬼になっていくというのがとても不気味でした。突然起こる爆撃などの仕掛けもすごい迫力でしたが、こういう体制ではそれも大変だったのではないかと思いますが。
塚本 本当に危ないシーンは『ヒルコ/妖怪ハンター』(91)から特殊効果をやってもらっている鳴海(聡)さんにやってもらっています。病院の大爆発のシーンと、自爆してしまう兵隊さんのシーンの2発だけをプロの方にやってもらっているんですけど、ほかの銃撃や小さい爆発、撃たれてバーッと血が噴き出すところなんかも、ボランティアのスタッフと僕らの工夫でやってますね。結構面白いですよね、みんなで工夫すると。すごく面白いことを考え出しますよ。
――ああ、現場はやはりとても楽しまれたんですね。
塚本 メイキングに撮ってますけど、可愛いですよ。兵士が撃たれたあと、ポヤーンとした若者たちが「大丈夫だったかな?」って出てくるのをワンカットで撮っているのがあって、可愛い坊やたちがみんな出てきて(笑)。
――(笑)。それはぜひ見たいですね。塚本監督の現場というのは、みんなで夢中になって創意工夫する楽しさにも溢れているんだろうなという気がします。
塚本 そうですね。自分の頭の中もいまだにプロフェッショナルじゃないから、ボランティアスタッフともみんな同じレベルで「どうする?」って考えてやっていってる感じですね。
――プロのスタッフは最小限だったとのことですが、ツイッターなどで募られていたボランティアは最終的には大勢の方に集まっていただけたようですね。
塚本 スタッフもキャストも含めて結構集まってくれましたね。キャストにはかなり痩せてひげも伸ばして、お芝居もいい人がたくさん集まりました。映画になると太って映ってしまうので痩せて見えるのは大変なんですけど、みなさん協力的にダイエットしてくれましたね。リリーさんや中村さんもがんばってくださいましたし、ボランティアの人も1年ぐらいかけて痩せてひげも伸ばしてくれて。毎月2回ぐらいずつ写真を送ってもらったんですけど、「もっと痩せて!」とか言いながら準備をしていきました。
――作品では冒頭のシーンも印象的でした。塚本監督演じる田村が「病院に行け」と命じられ、行ったり来たりを繰り返すのを、かなりきっちりと細かく撮っていますよね。戦場の異様さをあそこでまずじわじわと味わいました。今にも通じる部分でもあるようにも思いますし。会社の言いなりになるしかないような現代人もああいう感じですよね。
塚本 会社もそうですし、お役所に行くとああいう感じですよね。昔の……、『生きる』(52)とおんなじですね! 今初めて思い出しました。『生きる』の導入と同じだ。「それは生活課です、公園課です」とか言われながらおばさんたちがゾロゾロと。あのギャグですね(笑)。
――(笑)。確かに同じことをやられていますね。この作品だとさすがに観ているときに笑いはしませんでしたが、繰り返しの無為さに呆れてしまうようなところがありました。やっぱり皮肉を込めてああいうシュールな撮り方にしているんですか?
塚本 ちょっとギャグのようにやりたい気持ちがありました。あそこには最初のフィックスコンテが反映されていますね。ある種記号的に見えるように、時間は経っているんですけどいつも同じアングルでまた戻ってくるようにしようと。本当だったらもうちょっと時間経過が分かるようにアングルを変えたりだとか工夫を凝らしてやればいいんでしょうけど、同じに撮っているのが見え見えで、その記号みたいにやりたいというところにフィックスの余韻が残っていますね。
――工夫はとても凝らされていると思います。そういう淡々とした描写があるから突発的に起こる暴力シーンがとても衝撃的で。暴力的な描写は凄まじく、映画を観ている感じではなくて、その場で悪夢のような体験をしているようになっていました。
塚本 戦争のひどさを描くのが狙いでしたから。暴力の描写が激しいので吉と出るか凶と出るかと思っていたんですが、今回日本で初めて一般のお客さんに観ていただいて、今のところはそこを理解してくださる方が多いのでありがたいです。僕は暴力シーンが足りないんじゃないかと思って心配していたんですよ。編集していて「足りないなあ、戦争ってこんなものじゃないしなあ」と思って、手がちぎれたりするシーンはあとで追加して撮ったんです。聞いた話はもっと全然すごかったので、「足りない足りない!」と思っていました(笑)。
原作:大岡昇平「野火」
出演:塚本晋也、リリー・フランキー、中村達也 監督・脚本・編集・撮影・製作:塚本晋也
配給:海獣シアター © Shinya Tsukamoto/海獣シアター
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