塚本晋也監督/『野火』

塚本 晋也 (映画監督) 映画『野火』について【2/5】

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第15回東京フィルメックス オープニング作品
2015年7月25日(土)より、ユーロスペースほか全国公開

(取材:深谷直子)

舞台挨拶 塚本晋也監督、森優作舞台挨拶/塚本晋也監督、森優作――塚本監督がインタビューをされた寺嶋芳彦さんは今おいくつぐらいなのですか?

塚本 90歳を越えられて、体調がお悪いようなので試写にも来ていただけない状況です。でも娘さんが大変協力的で、完成試写を観ていただいたのですが相当喜んでくださって、スピーチをして「戦争は絶対起こってはいけないことです」と強い言葉で訴えてくださいました。娘さんとは寺嶋さんともどもフィリピンで亡くなった方の遺骨収集にもご一緒しました。

――そうやって実際に取材をし、しかも塚本監督の手法で撮られた映画は、本当に生々しいものでした。私はジャングルの映像が鮮やかであることにまず驚いてしまって。この時代の戦争を描く映画というと、記録映像のように風化した色調で撮ったものを思い浮かべてしまうので。

塚本 大体戦争映画というと、少し脱色したりするのが『プライベート・ライアン』(98)以降の主流のようになってしまっていますが、そういう過去のものという感じにはしたくなかったですね。元々が原色の美しい大自然の中で、なぜ人間だけがこんなボロボロのことをしているのか?というコントラストをやりたいと思っていたので、原色で撮ろうというのは初めから変わらなかったです。

――そうですね。私も最初は意表を突かれたのですが、ジャングルの風景というのは70年前もその前の古代からもずっと変わっていないはずで、これが兵士たちが実際に目にしたリアルな風景だったんだと。

塚本 昔からきれいなままなんですよね。戦争が始まるときって、暗雲が立ち込めているようにみなさん思っていると思うんですけど、ある晴れた日に突然弾が降ってくるものだと思うんですよ。「今日はいい天気だなあ」と思っているときに恐ろしいことが起こって、一瞬のうちに焼け焦げた身体になっちゃっていると思うんです。

――ロケはいろいろな場所でされたようですね。

塚本 いちばんメインの風景はフィリピンで撮っています。ニッパヤシという独特の屋根の家だとかはフィリピンとか南国にしかないので。でも実際にはフィリピンもトタン屋根ばかりになってしまって、もうほとんどないんですけどね。だから必死になって探して、あとでっかいヤシの木があるような風景ですね。そういうものは僕と小編成のスタッフでフィリピンに行って撮りました。リリー(・フランキー)さんや中村(達也)さんたちが出て、お芝居もするけど風景もほしいところは沖縄で撮っています。爆発とか仕掛けが要るシーンは、スタッフを沖縄に大勢連れていくのは大変なので東京近郊で撮っています。パズルのようでしたね。「このシーンはフィリピンで僕一人だけ、沖縄では仕掛けとかは無しで戦場の人間関係を見せて、仕掛けものは全部近郊で」と、映画を成立させるために結構難しいパズルを組み立てていたような感じでした。

――とてもダイナミックで、手持ち撮影の臨場感も随所で際立つ映像ですが、企画が行き詰る中で、監督は自分とカメラ1台だけでも撮ろうとお考えだったそうですね。その場合はどういうふうに撮るおつもりだったのですか?

塚本 昔みたいにフィルムじゃなくてビデオですから、カメラを据えてボタンを押して演じようと。フィックスの『野火』を考えていたんですよね。

――それは今の作品とだいぶ違いますよね。

塚本 でもコンテは最初から最後までフィックスでできているんですよ。それはベースのコンテとしてあって、のちにカメラマン兼助監督のスタッフも加わってくれたので、ロケハンをして場所を決めてからはカメラも動くことに変えたんです。ただそれでも本当に必要最小限なものでできています。ポイントだけでできているので、ギリギリだなという思いもあれば、うまく言えばそれで強さが出たかもしれないなとも思っています。背景があんまり描かれていないので、でもいかにも戦争が起こっているというふうに描くのは大変だから、密室劇にしたいというのが自分の中にはあって。空間に突然弾が飛んでくる恐怖を描きたいと。でもそれはお金があってもそうしようと思っていたんです。敵の戦車や兵隊は一切描かない、味方しか出てこなくて、突発的に弾が飛んできたりするけれど敵がどこにいるのか分からないし、味方のボスが誰なのかも分からない。「パロンポンに行けば助かるぞ」というのも、一応言われているから行くけどそれ本当?という話でもありますし。その感じの不確かさ、彷徨いみたいなことを描きたいという狙いは最初からはっきりしていました。

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野火 日本 / 2014 / 87分
原作:大岡昇平「野火」
出演:塚本晋也、リリー・フランキー、中村達也 監督・脚本・編集・撮影・製作:塚本晋也
配給:海獣シアター © Shinya Tsukamoto/海獣シアター
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2015年7月25日(土)より、ユーロスペースほか全国公開

2014/12/09/22:22 | トラックバック (0)
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