芳賀 俊 (監督) 映画『おろかもの』について【3/4】
2020年12月4日(金)~10日(木) テアトル新宿にて、
12月18日(金)~21日(月)シネ・リーブル梅田にて公開
公式twitter 公式Facebook (取材:深谷直子)
――芳賀監督は撮影もされているんですよね。「用意、スタート」と言ってそのままカメラを回す感じですか?
芳賀 そうですね、スタートのかけ声は鈴木くんにかけてもらって、カットは僕がかけることもあって。カットというか、「最高!」とか「超カワイイ!」とか言ってますね(笑)。いろいろな作品を撮影してきましたが、カメラマンって映画の最初の観客だと思っていて、シーンの断片を見ている僕が感動しなかったら観客も感動しないだろうと思うんです。今回は監督としてシーンがいいか悪いか判断する役でもあったので責任は重いんですけど、でもいちばん楽しい場所でもあって。自分が想定していたものを役者が超えてきて「OK!」って判断する瞬間がすごく楽しくて、監督をやってカメラもやるというのは役得だなと思いましたね。
――撮影は手持ちが多かったのでしょうか?
芳賀 手持ちはほとんどないんですけど、ドリーショットがすごく多かったですね。沼田くんが今回特機もやってくれて、脚本を書きながらドリーを押したりするという(笑)。そういうことをやっているので気持ちがグッと入って、役者も応えてくれるわけです。想像もしなかったすごいシーンが生まれてくるので、芝居を見ながら右目と左目で交互に「おお、すごいことが起きてるな。ファインダーを通すともっとすごいことになってるな」って(笑)。
――それは楽しそうですね(笑)。
芳賀 僕が尊敬するリドリー・スコット監督もずっと自分でカメラをやりながら監督をしていたんです。最近はやっていないですけど、フィルム撮影のときは後ろのモニターゾーンに引っ込んでいたら役者とコミュニケーションを取るのにも時間がかかるので、最前線でファインダーを見ながら演出して。そうすれば役者のことも目で見てコミュニケーションが取れるだろう、ということを2001年ぐらいに言っていて。僕が中一のときで「すごくカッコイイな」と影響を受けていました。
――洋子が家で果歩に手紙を渡すシーンは、カメラが静かに移動ながら3人に代わる代わるピントを合わせていく長回しの撮影が印象的で。とても不穏な感じがしました。
芳賀 ドリーで移動しながらズームレンズで撮りました。電動ズームが故障して手動でズームしなければならなくて(苦笑)、でもおかげですごく自分の気持ちも伝わるようなシーンになったと。やっぱり観客と共犯関係を結びたいので。最初テレビを見ている健治と果歩が映って、カメラが横に動いていくとテーブルの上の郵便物が映って、そこに洋子の手が入ってきて……という縦の構図になっていて、10カット分ぐらいに割れるのを一つのカットにすることで緊張感が生まれ、自分もその場にいるような連帯感を観客にも味わってほしいなと思ってああいう変わったカメラワークになりました。
――俳優が予想を超えた演技を見せてくれたというシーンは、例えばどれですか?
芳賀 全シーン全カットそうなんですが、特にすごいなと思ったのは撮影2日目に撮った墓参りのシーンです。洋子と健治が両親の墓の前で言い合うあのシーンは、もともと20ぐらいのカットがあって、二人の視線とか健治のクセだとかいろいろな情報を観客に伝えるシーンなんですが、通し演技を見たときに、僕らが料理人だとしたら調理する必要がまったくないものが出てきたんです。例えると”刺身”と言いますか、焼いたり味付けしたりして人に出すんじゃなく、生だからこそ美味しいという。僕らがやるところが何もなく、ワンカットでOKとなるすごいものを二人が産んでくれた。七海さんが花を投げ付けたりするのは脚本には書かれていなかったんです。でも彼女は役を生きる女優なので、あの場でああいう動きが出て、僕らの想像や脚本を超えた瞬間でした。
――そうなんですか。村田さんも、美沙が健治のベッドから髪の毛をつまみ上げるというお芝居はあの場の即興だそうですよね。
芳賀 そうですね、村田さんがあんな動きをするとは思わなかったので、撮りながら「何だこれ!」とビックリして。でもあとで話を聞いたら鈴木くんが裏で暗躍していて。村田さんに「ちょっと髪をバラまいておいたから好きにやってください」と。そんなことやってたんだ、すごいなあと思いました。
――なるほど。鈴木さんはそういう演出をされるんですね。
芳賀 そうですね、「どうするかわからないけど何か面白いことをするだろうな」というのでいろいろ仕込んでいたりしていました。先ほど話した墓参りのシーンでも、洋子に花を持たせたのは鈴木くんで、「多分持たせたら何かするだろうから持たせた」と言っていました。
――ロケーションも印象的な場所がいろいろあって。健治と果歩が池でデートするシーンは、きれいな画なのに場所が地味なので妙に笑えるような。
芳賀 あれは僕の地元にある場所で、名所でも観光スポットでもないんですが、特別な場所じゃなくても満足できちゃう二人、それに嫉妬する美沙を描こうと。僕には美沙と同じような境遇の友達がいて、彼女に届いたらいいなと思いながらこの映画を撮っていたんですね。彼女からいろいろ話を聞いていたんですが、なんてことがないことで幸せになったり愕然としたりする子で、あのとき手をつないでくれたのがすごく嬉しかったとか、高級なレストランじゃなくても二人でいられれば幸せなんだけど、それがなかなかできないだとか。”なんてことのない場所でも幸せにしている二人”というのが何よりも美沙の心を燃え上がらせる情景なんだろうなと思ってああいうロケ地になりました。
――他にもいろんなところでロケをしていて、高校のシーンは仙台育英学園を使っているんですよね。
芳賀 そうです。高校の撮影許可を取るのは結構大変で、僕の父が高校教師で育英学園に勤めていたことがあるので使わせてもらえました。最初に脚本を読んだとき、自分の地元をイメージしていたところがあって、ロケハンに地方も入れることにしました。都内だと概して狭くて日当たりが悪く、照明に苦労することも多いですし、自分の見知った好きな道や公園を撮りたいなと思って映画の半分は仙台でロケしました。あと、鈴木くんのお母さんも強力なロケーションコーディネーターみたいな感じで活躍してくれて。結婚式場と交渉してくれたり、エキストラもバンバン集めてくれたり。お墓のシーンも鈴木家のみなさんに協力してもらって撮れました。ありがたかったですね。
――そうなんですか。結婚式のシーンは本当の結婚式のようにリアルでした。洋子と美沙のドレスが素敵ですね。
芳賀 洋子の青のドレスと美沙の赤のドレスはお互いの心境を象徴するものになっています。青いドレスは七海さんと僕で選んで、赤いドレスは鈴木くんが選びました。脚本にも「赤いドレス」って書いてあって、いい赤いドレスを探すのに奔走しました。
――美沙が乱入してからの溜めが長いなあと。何が起こるのかスリリングでした。
芳賀 セリフがない、すごくチャレンジングなシーンです。視線劇というか、誰が何を見ているか、誰がどう見られているか、そういうのだけで100カットぐらいあって、それぞれの心情をセリフなしで表現している。役者がしっかり裏側の感情も体現してくれていたのでうまくいったシーンだなという気がしますね。
出演:笠松七海,村田唯,イワゴウサトシ, 猫目はち,葉媚, 広木健太,林田沙希絵,南久松真奈
監督:芳賀俊・鈴木祥 脚本:沼田真隆 主題歌:「kaleidoscope」円庭鈴子
配給・宣伝:MAP+Cinemago © 2019「おろかもの」制作チーム
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