芳賀 俊 (監督) 映画『おろかもの』について【2/4】
2020年12月4日(金)~10日(木) テアトル新宿にて、
12月18日(金)~21日(月)シネ・リーブル梅田にて公開
公式twitter 公式Facebook (取材:深谷直子)
――笠松七海さん、村田唯さんを主演に面白い映画を作りたいという想いが今回の原動力となったとのことですが、洋子を演じた笠松さんはどんなところに魅力を感じるのですか?
芳賀 笠松七海さんは、以前一緒になった作品にとても魅力的な役で出ていて、その役は何かを理解するとき「見る」ことが重要になる設定だったんです。彼女が見るのを撮ることがめちゃくちゃ面白くて。映画って見ることの連続で、観客がまずスクリーンを見て、スクリーンの中では誰が何を見てどう感じたか、常に動いている視点が重要で、その「見る」ということを描く映画を撮りたいと思っていました。沼田くんが書いた脚本も「見ている」というシーンから始まって、撮影して「見る」ということをどんどん突き詰めていくうちに、七海さんはさらに素晴らしい女優だなと思いました。観察者としての才覚に優れているというか、現場でもいろんなことを見て、すごく考えていました。それがたまらないなあと。
――美沙役の村田唯さんのほうは同じ日芸出身なんですよね。
芳賀 村田さんも日芸の同期で、彼女は演技コースでした。昔からすごくいい女優だなと思っていたんですけど、在学中に作品に出てもらったことはなくて、卒業後に彼女が監督・主演をした『密かな吐息』(16)という作品に僕と沼田くんと鈴木くんの3人が召集されて一緒に映画を作ったという関係性があって。あらためてすごい女優だと思い、彼女を主演に面白い映画を作りたいという思いが生まれました。
――才能豊かな方ですね。他二人の重要な女性キャラクターを演じた猫目はちさんと葉媚さんは、村田さんとの共演や村田さんの監督作への出演の経歴があって、みんなつながりがあるんですよね。
芳賀 そうですね、自分たちが参加してきた作品の集大成というか、今まで関わってきたいい役者、好きな役者で埋め尽くしたいと思ったので、端役まで自分がファンである役者を呼んだという感じです。
――脚本は当て書きで書いていったんですか?
芳賀 基本的には当て書きなんですけど、本人の人柄をそのまま反映させて書いたわけではなく、こういう役を演じたら輝くだろうなとキャラクターを作りました。
――笠松さんが演じた洋子は女子高生らしくなく、落ち着いていてしっかりした女の子ですね。
芳賀 脚本家の沼田くんがキャピキャピした女子の映画に対して疑問を感じているところがあって。僕もこの間ワークショップで女子中学生にお会いしたんですけど、みんなすごく聡明で、僕よりもずっと大人だというような子も結構いました。映画に描かれる女子高生というとキャピキャピしていて若さを謳歌しているというイメージだけど、そうじゃない子もたくさんいて、もっと大人なんじゃないかと。女の子ではなく一人の女性、人間として描きたいという想いがあってこういう役になっていきました。
――どの役も人物造形が深くできていて、あれこれ想像を凝らしながら観ました。洋子と兄の婚約者の果歩って髪型や真面目そうな人柄が似ていますよね。だから兄の健治ってシスコンなのかな?とか。
芳賀 ああ、すごく秩序正しいという点では彼女たちは似ているかもしれないですね。洋子が美沙に惹かれていくのは、彼女が秩序とは違うところにいるから。彼女の無秩序感、アナーキーさに惹かれるわけです。一方、結婚式や貞淑な妻像というのは秩序の権化であって、果歩はそれを選択するけど、彼女たちの間ではとんでもないことが起きていて、それも全部認めている果歩が誰よりも強くていちばんおろかものなのかもしれないなと、そういうキャラクターに作りました。この3人の女性が主軸になって、表面だけではわからないことがどんどんわかっていく。人ってみんな多重人格なんです。そういったいろんな側面を描いて、人の愚かさを肯定する作品にしたいなと思いました。
――浮気をしている兄の健治が女性たちの掌の上で転がされているような。
芳賀 そうですね、健治のまわりで世界が激変しているのに、彼自身は結婚式まで気づかないという。それって下手すると観客にストレスを与えてしまうことなんです。観客はわかっているのにこの人はまだ知らないの?という。健治が憎まれ役になる可能性もあって、そうならないためにイワゴウサトシさんに演じてもらいました。イワゴウさんがもしも何か嫌なことを言ったとしても、5秒後に笑っていたら僕は許してしまう。そういう憎めない、人たらしな魅力のある役者なので。この役はある種の賭けというか、この映画の男性批判という部分が底の浅いものに捉えられる可能性もあったので、そのハードルを越えてくれるだろうと思ってキャスティングしました。
――葉媚さんが演じた小梅は、日本語を勉強している留学生という設定が面白かったですね。コミカルな演技もよかったです。
芳賀 この役のポジションには葉媚さんがいいんじゃないか?と思い付いて、もともと日本人だったキャラクターを葉媚さんに合わせて留学生の設定に書き変えました。葉媚さん本人もマンガが好きで、自由で面白い部分がある方なんです。この映画は、健治を中心に人間関係にがんじがらめになっている描写が多く、いろんなことに耐えたり傷ついたりして生きている人が結構多く出てくる中に、まったく関係ない傍観者として作品の緊張感を緩和させる存在が必要だなと思ったので。彼女の魅力で観客を少しホッとさせられたらいいなと思ってこういうキャラクターになりました。
出演:笠松七海,村田唯,イワゴウサトシ, 猫目はち,葉媚, 広木健太,林田沙希絵,南久松真奈
監督:芳賀俊・鈴木祥 脚本:沼田真隆 主題歌:「kaleidoscope」円庭鈴子
配給・宣伝:MAP+Cinemago © 2019「おろかもの」制作チーム
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