インタビュー
上西 雄大(監督・主演)/『ひとくず』

上西 雄大 (監督・主演)
映画『ひとくず』について【1/4】

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2020年3月14日(土)より 渋谷ユーロスペースほか全国順次公開

関西で劇団テンアンツを率いつつ、俳優・脚本家として幅広く活動し、近年は映画監督としての手腕も示す上西雄大の新作『ひとくず』が、3月14日より渋谷ユーロスペースにて公開される。社会からつまはじきにされ小さな罪を重ねながら生きる粗野な男・カネマサが、空き巣に入った家で虐待を受けている少女・鞠に出会い、人の道に外れた方法で救い出す。鞠の母・凛と悪態をつき合いつつ、家族の愛に飢えた者同士徐々に心を通わせ、笑顔を取り戻していく姿が胸を打つ、破天荒であたたかなヒューマン・ドラマだ。精神科医から聞いた虐待の実態に衝撃を受け、その抑止のために多くの人に関心を持ってほしい一心で脚本づくりや演技に力を注ぎ、ミラノ国際映画祭など多くの映画祭でグランプリや主演・助演俳優賞受賞の快進撃を続行中。なかなか世界に通用しなくなっている昨今の日本映画に欠けているものが本作にはある。助けを求める子供たちに周囲はどう関わるべきか、観たあとあらためて考えた。カネマサ役で主演も務めた上西雄大監督にお話を伺った。 (取材:深谷直子)
上西 雄大 1964年生まれ。大阪府出身。俳優・脚本家。芸能プロダクション10ANTS(テンアンツ)代表。2012年劇団テンアンツ発足後、関西の舞台を中心に活動を始める。また、他劇団への脚本依頼を受けた事を起点に、現在では劇映画・Vシネマ「コンフリクト」「日本極道戦争」シリーズの脚本などを手掛け、脚本家としての活動も並行して行う。2012年、短編集オムニバス映画「10匹の蟻」を手始めに映画製作を開始する。映画第2作「姉妹」が第5回ミラノ国際フィルムメイカー映画祭 外国語短編部門グランプリ受賞、監督賞ノミネート。第3作「恋する」で第4回賢島映画祭 準グランプリ、そして役者として主演男優賞受賞。短編「ZIZIY!」がゆうばり国際ファンタスティック映画祭にて上映へ進展。次回作「悪名」の撮影を控えている。
STORY 子供時代に母親の男から虐待されて育ち、夢も希望もなく暮らす男が空き 巣に入った家で出会ったのは、同じく母親の男から虐待され、育児放棄されている小学生の女の子だった。初めて守るべきものができた男は、少女の母親も、親の愛を受けずに育ったと気づき……。
上西 雄大監督画像
――虐待をテーマにした映画を作ろうと思ったのはなぜですか?

上西 実はこの次に撮った発達障害をテーマにした作品の企画が先にあって、その取材で精神科医の楠部知子先生にお会いしたんです。楠部先生は児童相談所の嘱託医をされていて、取材のあと、虐待のお話もしてくださいました。まざまざと話してくださる虐待の実態に、僕はすごくショックを受けて、聞いた話を心のどこに置いたらいいのかもわからないぐらい動揺して。日本の法律では、子供が「虐待されています」とはっきり訴えないと誰も助けることができないんですが、子供は親から「人に言っちゃダメ。そんなことをしたら引き離されて二度と会えなくなるよ」ということを言われて結局何も言えず、虐待されているのは明らかなのに外からは何も手出しができない……という話を聞いて、本当にいたたまれなくなって。その夜は眠ることもできなくて、いろんな考えが渦巻く中、「もし虐待を受けている子供を端的に助ける者がいるとしたら、どんな人だろうか?」と想像したんです。法律を守って決まったレールの上にいては手を出すことができず救えないんですが、法律を破って犯罪者になって助けることは、社会的地位や家族や仕事といった守るものを持っている人間ではできないだろう。だとしたら、社会的には破綻していて、ルールを守ることに重きを置かないような人間ならできるかな……?と思ったんですけど、そういう人間が他人のために何かするかな?という疑問が湧いてくるし。となると同じ痛みを持っている者ならかつての自分を救うような気持ちで手を差し出すようなことがあるんじゃないかな?と想像して、それがカネマサ(=主人公の金田匡郎)だったんです。そこから物語が始まって、どうすれば救いに届くのか?というのを自分の中で脚本として考えていって、一晩で書き上げました。話を聞いて受けたショックをそこに落として、ようやく少し落ち着いたみたいなところがありました。

――なるほど。虐待をテーマとし、主人公が中年の男性という物語はそうやって生まれたんですね。

上西 そうです。カネマサの人物像をそこから辿っていって、虐待を日常的に受ける環境にいたら人間が歪んでいくだろうし、刑務所を出たり入ったりしていたら学校で学ぶこともなく教養も身につかなくて、人にバカにされることに常に怯えている男だと僕は考えました。教養がないことや傷を負っていることを他人に悟られないように虚勢を張って、暴言を吐いたり突っかかったりしながら逃げるように生きている男が思い浮かびました。

――カネマサは女性の店員にしょっちゅう罵声を浴びせていますね。でも自分より弱い者にしかああいう態度を取れないということなんでしょうね。

『ひとくず』画像(小南希良梨、上西雄大) 『ひとくず』場面画像1(小南希良梨、税所篤彦)上西 カネマサにとっては女性の軽蔑するような眼差しはとても恐ろしいもので、そこから自分を守るために「ブス」とか言ってしまうんです。僕は役者として、人間を起こしてそこに自分が行くということをずっとやってきたので、カネマサの気持ちを自分の中で育てていき、カネマサを演じるときはそういったものでやっていました。

――監督が自分でカネマサ役をやることも最初から決めていたんですか?

上西 脚本は気持ちの整理をするために書いたもので、すぐに映画にするということは考えていなかったんですけど、楠部先生から「関心を持つことが虐待の抑止になる」ということを聞いていたので、ならばこの映画を世に出して、観ることで一人でも関心を持ってくれたら、役者でも世の役に立てるなあと思い、ぜひ作るべきだという使命感に駆られて、その時点でカネマサを自分でやろうと思っていました。それから数カ月間取材を重ねて決定稿ができ、2年前に撮影しました。

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ひとくず (2019/STEREO/日本/DCP/117分)
出演:上西雄大,小南希良梨,古川藍,徳竹未夏,城明男,税所篤彦,川合敏之,椿鮒子,空田浩志,中里ひろみ,
谷しげる,星川桂,美咲,西川莉子,中谷昌代,上村ゆきえ,工藤俊作,堀田眞三,飯島大介,田中要次,木下ほうか
監督・脚本・編集・プロデューサー:上西雄大
エグゼクティブ・プロデューサー:平野剛,中田徹 監修:楠部知子 撮影・照明:前田智広,川路哲也
録音:仁山裕斗,中谷昌代 音楽プロデューサー:Na Seung Chul 主題歌:吉村ビソー「Hitokuzu」
制作:テンアンツ 配給・宣伝:渋谷プロダクション
協賛:㈱リゾートライフ,ドリームクロス㈱,串カツだるま,カンサイ建装工業㈱,高橋鋭一,
平野マタニティクリニック,㈱エフアンドエム,㈱中島食品,ALEMO㈱,㈱USK,㈱ラフト
© YUDAI UENISHI
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2020年3月14日(土)より 渋谷ユーロスペースほか全国順次公開

2020/03/09/18:31 | トラックバック (0)
深谷直子 ,インタビュー

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