安楽 涼 (監督)
映画『追い風』について【2/5】
2020年8月7日(金)よりアップリンク吉祥寺ほか全国順次公開!
公式サイト 公式twitter (取材:深谷直子)
――DEGさん、絶対成長したと思いますね。藤田さんとのセッションで最初に歌う「オーバーフェンス」という曲は前からある曲なんですか?
安楽 はい、前からある曲です。実際にDEGと藤田さんが一緒に作った曲ですね。
――そうなんですか。この曲の歌詞は、映画でのDEGさんの心情そのままのような言葉が続いていきますよね。「俺がお前でも俺を選ばない」とか、自虐的な。だから多分DEGさんの中にももともと劣等感や焦りがあって、抜け出したいともがいていたのかなと。
安楽 撮影前に一回DEGの気持ちを聞いたんですよ、DEGには内緒でボイスレコーダーを置いて、居酒屋で2人で飲んで、いろいろなことを聞いて。僕とDEGとRYUICHI って、20年以上ツルんでる親友3人組なんですが、すねかじりSTUDIOという映像ユニットを組んでいるDEGとは、多分RYUICHIよりも圧倒的に一緒に過ごす時間が長いんです。でも僕の劇場公開1作目となった『1人のダンス』はRYUICHIと僕の話で、それをどう思っていたのか?と訊いたら、やっぱりDEGは悔しかったと。そういう話がボロボロ出てきて「こんな俺でごめん、でも俺は俺のペースでやる」って、その会話とかを全部脚本に残していきました。
――長い付き合いでも見えていないことがあったんですね。でもあらためて向き合ったらちゃんと見せてくれた。
安楽 なんかどこかでいつも「感じていてくれよ」と思っていたんですよね。そしたらやっぱりあいつなりに思うことがずっとあったみたいです。
――そういう話をDEGさんから聞き出して、脚本を書いていくわけですが、共同脚本の片山享さんとはどんなふうに作業を進めたんですか?
安楽 僕が思うDEGを書いた大元の脚本を片山享さんに渡し、ボイスレコーダーで録った音声も共有して、「お願いします」と。今回片山さんとやってよかったなといちばん思うのは、片山さんは脚本を書きながら「この話はDEGが辛い」と言っていて、DEGに共感を覚えていたんですよね。僕は共感できないから映画を撮ろうとしてて、脚本も「お前ごまかしてるんじゃねぇよ」と思いながらずっと書いていたので、目線が根本的に違う。片山さんが入ったことで、僕には見えていなかったDEGのいろいろな面が引き出せました。自分が大元の脚本を書いて、いろいろ意見も出したけど、基本的には片山さんが書いたという感覚です。
――片山さん、素晴らしいですね! 『1人のダンス』では水中撮影のシーン、『追い風』ではDEGさんだけに見える「ごめんね」と言う少年と、幻想的な要素が入ってくるのも安楽監督の作品の特色と言えると思います。これはどちらのアイデアなんですか?
安楽 「ごめん」という言葉は片山さんの案ですが、子どものことは僕が大元の脚本に書いていました。僕は今29歳なんですけど、やっぱり大人になるにつれて言いたいことが言えなくなっていって、それが納得いかないから「やりたいことをやる」というのをテーマに映画を撮っているんですが、その中で「何を自分は大事にしたいんだろう?」と考えると、童心、”青くて澄んだ心”みたいなものだと思っていて。大人になって自分の気持ちをごまかすようになってしまったけど、昔は変な情報なく自分の意思だけで怒ったり泣いたりできていた。その気持ちって大事だなあ……と思うんですよね。だから子どもに言わせようと初めから書いていました。あと、非現実的な要素を入れるのは、僕の作品はドキュメンタリーのようなスタイルなんですけど、僕自身は圧倒的にフィクションに興味があって、今まで観てきた映画の影響が大きいですね。
――それは日本映画ですか?
安楽 日本映画ですね。そういう影響を受けているのは『アイデン&ティティ 』(03)とか、あと豊田利晃監督の映画で『ポルノスター 』(98)とか『青い春 』(01)とか。『アイデン&ティティ』はボブ・ディラン似の幻を見るギタリストの男の子の話です。『青い春』にも突然飛行機が出てきたりして、そういう象徴的なものを入れることで、人物の心情がより印象的に表現されると思います。僕もやっぱり映画を撮るからには映像表現としてそういうことをしたい。自分のまわりには魅力的な出来事がたくさんあるからそれを撮っているんですけど、そのままでは撮りたくなくて、そういう要素を毎回入れようと思っています。
――異質なものが入ってくると「これって何だろう?」と自分の頭で考えることになって、狭い世界のお話にも広がりが出てきますよね。この男の子、すごく謎だけど可愛くてよかったです。
安楽 このキャラについてみんないろんな意見を言ってくるんですけど、僕の考えでは単純にDEGの気持ちのいちばん純粋な部分だと思ってます。この子は片山さんの知り合いのお子さんです。子役の俳優さんも考えたんですが、俳優だとそれまでの経験で「こう演技しなきゃ」とか「カメラをちゃんと見なきゃ」とか入ってくるので。純粋さの象徴としてそういうのが全部なくなったものを撮りたかったので、それは素人でしか撮れないなと思って。DEGも素人みたいなものですからね。
――まあそうですよね。でもこの作品を経ていい役者になった気がします。最初に撮ったのはどのシーンですか?
安楽 友達カップルの前で演奏するライブシーンです。いちばんDEGが現れるシーンだなと思って。人の前で歌う、人を楽しませる、人の目ばかり気にしているDEGを映さないといけないなと思って、初日のこのシーンがいちばん時間がかかったんじゃないかな。夕方前から入って23時ぐらいまでやってました。短いシーンなんですけど、ゆるやかに始めたくなくて。DEGが28年生きてきた中での片鱗みたいなのを見せたいなあと思っていたので、初日に「俺はこういうスタンスでやるぞ」というのをDEGに示したくて。ひたすら言っていましたね、「お前悔しくないの?」とか(笑)。
――追い込みますね(笑)。厳しい演出をされるんですね。
安楽 僕は言いますかね。意外と。実は人をちゃんと演出するのは今回が初めてだったんですよ。スタッフにも言われたんですけど、映画を撮るスタンスが全然違っていました。
出演:DEG,安楽涼,片山享,柴田彪真,関口アナン,サトウヒロキ,大友律,大須みづほ,ユミコテラダンス,
柳谷一成,アベラヒデノブ,吉田芽吹,山本奈衣瑠,髙木直子,宮寺貴也,マックス,藤田義雄,木村昴,RYUICHI
監督:安楽涼 音楽:DEG 脚本:片山享,安楽涼 プロデューサー:山田雅也 撮影:深谷祐次
録音:坂元就,鈴木一貴,新井希望 助監督:太田達成,小林望,登り山智志 ヘアメイク:福田純子
ウェディングドレス制作:磯崎亜矢子 スチール:片山享 ハルプードル 装飾:JUN 題字・広告デザイン:広部志行
宣伝協力:髭野純 企画:直井卓俊 特別協賛:黒川和則 製作・配給:すねかじりSTUDIO
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