インタビュー
塚本晋也監督/『野火』

塚本 晋也 (映画監督)
映画『野火』について

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第15回東京フィルメックス オープニング作品
2015年7月25日(土)より、ユーロスペースほか全国公開

第15回東京フィルメックスのオープニング作品として、塚本晋也監督の新作『野火』が上映された。フィリピン・レイテ島での戦争体験を元にした大岡昇平の同名小説の映画化であるが、塚本監督は時代背景の説明も抜きに観る者を極彩色のジャングルに放り込み、姿の見えない強大な敵の攻撃と、もっと切実な「飢え」に怯えるごく普通の男の目で戦争の異常さを見せていく。容赦のない暴力表現にもそれを体験させられた人たちへの哀悼を込め、二度と起こすまいと訴える痛烈な反戦映画だ。塚本監督に10代で読んだ原作への思いや、困難を乗り越えての映画作りについて伺った。終戦70周年を迎える2015年夏の公開が決まった本作をぜひ多くの方に観ていただき、“奇跡の70年”を未来へ延ばす方法をともに探っていきたいと思う。(取材:深谷直子)
塚本 晋也 1960年1月1日生まれ。東京出身。14歳で初めて8mmカメラを手にし、88年に『電柱小僧の冒険』(87)がPFFアワードでグランプリを受賞。劇場映画デビュー作となった『鉄男』(88)が、ローマ国際ファンタスティック映画祭でグランプリを獲得し、以降、国際映画祭の常連となる。中でもベネチア国際映画祭との縁が深く、『六月の蛇』(02)はコントロコレンテ部門(のちのオリゾンティ部門)で審査員特別大賞、『KOTOKO』(11)はオリゾンティ部門で最高賞のオリゾンティ賞を受賞。さらに97年と05年の2度、コンペティション部門の審査員を務め、第70年大会時には記念特別プログラム「Venezia70-Future Reloaded」の為に短編『捨てられた怪獣』を制作している。その長年の功績を讃え、09年にはスペインのシッチェス・カタロニア国際映画祭から名誉賞、14年にはモントリオール・ヌーヴォー映画祭から功労賞が授与された。俳優としても活躍しており、02年には『クロエ』、『殺し屋1』、『溺れる人』、『とらばいゆ』の演技で毎日映画コンクール男優助演賞を受賞。ほか、NHK朝の連続テレビ小説「カーネーション」(11-12)などにも出演している。
塚本晋也監督――『野火』のジャパンプレミア上映は見事な大盛況となりましたね。おめでとうございます。

塚本 ありがとうございます。本当によかったです。600人もの方に来ていただけて。

――コンペ出品されたベネチア国際映画祭でも話題の中心になっていて、連日のニュースにとても興奮していました。監督の映画を撮られる心構えとしても、20年も前から長い間あたためてきた作品ということで、今までの作品とは違っていたのではないかと思うのですが。

塚本 むしろあたためている期間が長過ぎたというのがあるかもしれないですね。他の企画は、あたためてはいるんですが、「今かな?」というときに脚本を書いて自分がゴーをすれば行けちゃうんですよね。規模も小さいですし、またテーマとしても都市だとか身体が機械になってしまうだとか独特なので、企画を出してどうのこうのというよりも自分で作ってしまおうという自主ならではの感じだったのですが、今回はやはり出資をしていただかないと無理だということを思っていたものですから、それで長くなってしまったという感じで。20年の間に、ポイントポイントで力強く働きかけた箇所が2、3回あったんですが、そのたびにダメになってしまいましたね、最終的には。

――それでついに塚本監督がご自分でお金を出して撮られることになったのですね。残念なことですが、そこまでしても撮りたい作品だったということですよね。塚本監督は戦争の映画を撮りたいということをずっと言われていましたし、『野火』の原作に昔から感銘を受けていたというお話も伺っていましたが、『野火』そのものを映画化しようというふうにずっと考えていらしたんですか?

塚本 『野火』そのものをずっと作りたかったですね。一度原作を取るのが難しいかもしれないなということを感じた時期があって。原作料さえ自分たちには敷居が高く感じてしまって。元々お金はないわけですし、何も『野火』でなくても、実際にフィリピンに行かれた戦争体験者の方へのインタビューもかなりしましたので、そのお話を繋いでオリジナルでもいいかなと思ったこともあったんですけど、やっぱりそれは違うなあと。あくまでも厳然とある、10代の頃に読んで強いインパクトを受けた『野火』に寄り添いたい、実際に戦争に行かれた方の追体験を自分でしてみたいと思ったんです。それに『野火』は僕がちょっとオリジナルのストーリーを書くなどということでは済まされない、幅広くいろんなものが含まれている気がしたから、『野火』の旅をしたいと思ったんですよね。作りながらその謎を解いていくということをするのが『野火』であるし、理屈で思い付いたことも感覚で思い付いたこともみんな『野火』には含まれていた感じがするので、やはりこれがいちばんやりたいなと思ったんです。

――ご自分で主演もされましたが、本当はやりたくなかったということを舞台挨拶でおっしゃっていましたね。大勢の方に観てもらえるように、有名な俳優さんを起用したかったと。

塚本 それでお金がほしかったんですよね。多くの方が観に来るような映画をずっと考えていたので。でも、前はただ漠然とお金がなかったんですけど、今やこういう内容の映画にお金は出さないという感じがだんだん出てきて、いろんな意味でもう無理になってきたから、だったら自分でやるしかないと。先のことはあまり深く考えずに、目の前のできることから細かく始めていって、やがて多くの協力者の方が現れてという感じですね。

『野火』――「今、この映画を撮らなければ」と監督を強く突き動かしたものは、戦争を体験した方がこれからどんどんいなくなってしまうという焦りの気持ちなのですか?

塚本 はい。それを思ったのが10年前ですね。焦りを非常に覚えて、体験者の方にインタビューをして、でも条件が全く整わなくて。「今」と思ったのは、映画ができたらその方々に観ていただきたいと思っていたんですけど、本当に高齢になり、お呼びしても来ていただけないような状況になってきてしまったので。戦争を体験して肉体に具体的な戦争の痛みを知っている人の目が黒いうちは、戦争をしたい人たちの意志も叩かれていたんですけど、そういう方がいなくなると、人間の本能の中にあるのかどうかは分からないんですけど、ムズムズとしたものが騒ぎ出して、また戦争をやろうやろうとなっていく気がしてきたんです。自分にとっては子供のときから戦争がないのが当たり前のことでしたが、NHKの大河ドラマを見てもそうであるように戦争は累々と繰り返されてきたもので、そう考えるとこの戦争のない70年というのはむしろ奇跡的な70年なのかもしれないですよね。でもせっかく奇跡の70年があるのに、どんな形であれ未来のほうに延ばしていくんじゃなくて、なんか懐古趣味的に過去に戻って戦争のほうに向かっていくような気が僕的にはするんです。兵器とかが変わっているので戦争の方法が昔とは違うとよく言われますけど、「お国のために献身することも必要なんです」という教育さえありそうな雰囲気になっていることを考えると、機械同士が戦えば済むところにも人が行くようなこともあり得るんじゃないかという気がしていて。今はまだ「嫌だ」と言う人がいるから政治家も言葉に気を付けたりしているけど、いろいろな計画だとかを見て結び付けたら戦争をやりたいのは明らかですから。

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野火 日本 / 2014 / 87分
原作:大岡昇平「野火」
出演:塚本晋也、リリー・フランキー、中村達也 監督・脚本・編集・撮影・製作:塚本晋也
配給:海獣シアター © Shinya Tsukamoto/海獣シアター
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2015年7月25日(土)より、ユーロスペースほか全国公開

2014/12/09/22:21 | トラックバック (0)
深谷直子 ,インタビュー

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