『野火』爆激上映&轟音ライブイベント
PART 1
リリー・フランキー × 塚本晋也監督 トークショーレポート
(取材:深谷直子 撮影:渡邉俊夫)
さらにリリーが「今は映画も血が出ちゃダメとか言って、事実じゃない部分しか撮れなくなっているんですよね」と映画界の規制の多さへの疑問を口にすると、塚本監督は「大体映画では人が死ぬシーンはヒロイズムをあおるようにしていますけど、実際は話を聞くと死ぬって甘美なものではなくて人がモノに変わってしまうということだと思うので、造形には本当に力を入れて、死体はモノを並べて、後ろのほうにちょっと俳優さんにもいてもらってという感じでした」と暴力や死をリアルに見せるための映画ならではの挑戦を明かした。
一方でリリーは撮影中にやせ細った身体で相方として長く過ごし、今はトークショーのタイムキーパーとしての任務に必死な森優作にもあたたかく話を振っていく。「初めての映画でベネチアのレッド・カーペットを歩いて、シンデレラ・ボーイだなと思ったら、将来は『通訳になりたい』なんて言うので、そこも香ばしいなと思いましたね(笑)。でもお父さんもお母さんも喜んでくれたんでしょ?」と尋ねると、森は「今もそうですけど、フラフラして何者にもなっていないって思われていましたからね」と振り返る。するとリリーは「プーだと思っていたらいきなりベネチアのレッド・カーペットだから、わけ分からないのも親の範疇を超えているよね(笑)。でもこれでオヤジになってスナックやるときに『スナックベネチア』って看板出せるからね。写真とか飾って」と、会場を笑いに包みながらも森の遂げた大きな功績を讃えていた。
楽しいトークも終了の時間が近づき、リリーが「こんなにお客さんに入っていただいて、塚本さんのファンはやっぱり信頼できますよね。規制もある中この映画が完成して公開されるというのは塚本さんにしかできないことだし、痛快な気分がしました」としみじみ語ると、塚本監督はこれからいよいよ旅立つ映画への率直な思いを口にした。「最初に試写をしたときもみんな暗い顔をしていたので『これはダメだったかな』と思っていたんですが、そんな中、映画祭(東京フィルメックス)の方が暗い顔のまま僕のところに来てくれて、『私たちの映画祭のオープニング上映作品にさせてください』って言ってくださったので、『暗い顔は悪いわけじゃないんだ』と思いました。まだみなさんがどう思ってくださっているのかは探っている最中です。作るのも非常に作りづらい状況でしたが、完成してからは応援してくださる方がだいぶ現れてくださって、劇場も40館以上が名乗りを上げてくださって。ありがたい希望を感じています」との感謝の言葉でトークは締めくくられた。
このあとの轟音ライブに引き続いて行われた爆激上映終了後の観客の反応はものすごいもの。映画の重い余韻に浸りたい思いから何とか抜け出すようにしながら、この圧倒的な作品を作り上げた塚本監督に対して割れんばかりの拍手が贈られた。監督をはじめとするこの日の参加者が再度ステージに登壇し、それぞれに万感の思いを噛み締めながらも、映画を届けていこうという決意をあらたにしたようだった。
PART2 石川忠 × 中村達也 轟音ライブ レポートに続く
( 2015年7月1日 取材:深谷直子 撮影:渡邉俊夫)
1 2
原作:大岡昇平「野火」
出演:塚本晋也、リリー・フランキー、中村達也 監督・脚本・編集・撮影・製作:塚本晋也
配給:海獣シアター © Shinya Tsukamoto/海獣シアター
公式サイト 公式Facebook