塚本晋也 (監督)
映画「KOTOKO」について
2012年4月7日(土)よりロードショー!
テアトル新宿、シネ・リーブル梅田、名古屋シネマスコーレ、KBCシネマ1・2 他全国順次
塚本晋也監督が沖縄出身のアーティストCoccoを主演に据えて撮り上げた最新作『KOTOKO』。映画制作においてひとり何役もこなす才人として知られ、完璧に統制された映像美学を見せてきた塚本監督だが、今作ではCoccoと密接に協力し合って、彼女の精神、そして“母性”への敬愛を描いており、そのパーソナルな新境地が各国の映画祭でも絶賛を浴びている。Coccoの内面を探る深遠な旅のような脚本作りや、震災の影響を受けながらの撮影などについて語っていただいた。(取材:深谷直子)
第68回ベネチア国際映画祭
オリゾンティ部門グランプリ受賞時の塚本監督――沖縄の家族の役はCoccoさんのお知合いなのだろうと思うのですが、プロの俳優は出ていないんですか?
塚本 どうしても、というところに信頼できる俳優さんに出ていただいていますが、ほかはCoccoさんが居心地いいように、Coccoさんの身内の方とか、仲良しとか、あるいは僕のスタッフでとても信用できる助監督とか、そういう人ばかりに出てもらいました。
――あとはもちろん塚本監督が演じる田中が強烈でした。献身的で見ていて切ない役なんですけど、Coccoさんは生き生きと演技をぶつけて輝いていましたね。でもかなり謎めいた存在でもありました。
塚本 初めは僕がやるとはまったく考えていませんでした。当然釣り合いが取れませんから。Coccoさんに指名されて、その後、役の重要性と役の二面性を考え、また、塚本、カメラ、田中が一体となってCoccoさんに寄り添い、Coccoさんをサーチしていくのがシンプルで最も正しいやり方と感じ、がんばることにしました。いつもの自分がやる役は絶対俺、なのですが、そういう始まり方ではなかったです。引いて引いて引きまくりながら、寄り添って寄り添って掴んで入り込んでいくという役でした。映画の作り方と同じです。
――『KOTOKO』というタイトルはシンプルでインパクトがありますが、どなたのアイディアですか?
塚本 確か主人公の名前を考えるときに、Coccoさんから琴子ではどうか、と出たんだと思います。そのままタイトルにするのは最初はどうかと思ったんですが、男の主人公が“鉄男”なら、女性は“KOTOKO”だったら愛されるだろうって。オープニング・タイトルの『KOTOKO』っていう字もCoccoさんに3秒ぐらいで書いてもらいました。僕はいつもタイトルには時間をかけるのですが、このたびは3秒でした。
――Coccoさんはすごく映画に入れ込んで、99%の力は制作に使ったと言っていますよね。演技は1%だけで。
塚本 それも悲しいんですけどね(苦笑)。もうちょっとあったと思うんですけど、2度言ったから本当にそうなんだろうなあ……。
――でもCoccoさんも自分のアーティストとしての力を注いで一緒に作ったと強く感じているんでしょうね。
塚本 本当にそうですね。部屋の飾り付けなどは全部自分の持ち物を持ってきてくれていますからね。制作的なことも力を出してくれました。一緒に作っている意識があったからです。
――以前ライヴでも沖縄のレコーディング・スタジオをステージの上に再現して、とてもアット・ホームな空間で演奏したことがありました。
塚本 ええ、映画の前はそのことが分からなかったけど、あれもみんなCoccoさんの持ち物なんだなあと。Coccoさんはすごく物を大事に持っているんですよ。聞くと全部「これは誰々さんからいつもらったもの」っていうようなゆかりのある大事なものをたくさん持ってきてくれていましたね。
――初期のCDのジャケットにも使われていたピンクの象のぬいぐるみを見つけて嬉しかったです。子供時代からの思い出の品がたくさん出てくるんですね。
塚本 ええ、あとは手作りの小道具もたくさん用意してくれて、物理的にもこの映画に本当に力をくれました。
――Coccoさんのファンも映画ファンもとても楽しみにしている作品だと思いますが、最後にみなさんにメッセージをお願いします。
塚本 『KOTOKO』はちょっと極端な例として描いてはいますけど、子供を育てるお母さんの心情としてはかなりリアリティのある話で、お母さんの気持ちイコール琴子の気持ちだと思うんです。子供を育てることは大変なことで、特に去年地震があって放射能の恐怖にさらされていることでお母さんの心配は爆発して、病的なほどになっている人もいる。僕の中でも、悩みを抱えるお母さんに寄り添いたい気持ちと、子供を守っていくのが大変なこんな世の中になってどうしたらいいんだろう?っていう思いと、様々な思いがあります。子供が安心して未来を迎えられるように自分たちがしていかないとえらいことになってしまうぞということを投げかけたくてこの映画を撮ったのだと思います。映画に出てくる折り鶴は、そういうすべてを集約したCoccoさんの祈りの結晶です。Coccoさんのファンには観てもらいたいですし、幅広くいろいろな方に観てもらいたいですね。
( 2012年1月22日 赤坂・アルゴ・ピクチャーズで 取材:深谷直子 )