内藤 瑛亮 (監督)
映画『許された子どもたち』について【3/4】
2020年6月1日(月)よりユーロスペース他にて全国順次公開
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――子どもだからこその大変さがありますね。私はこの作品を観て、若松孝二監督の『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程 』(08)を想起することが結構あったんですが、あの作品では役の上下関係を保つために、幹部役と下っ端役の俳優を休憩時間も引き離して過ごさせていたそうですよね。それとは逆の気遣いをしたと。
内藤 地曵豪さんをキャスティングする時点で、僕もなんか「『連合赤軍』とつなげられるな」ということは考えましたね。で、加害者役と被害者役が休憩時間に一緒にいないようにしようというふうにはしたんです。やっぱり変に仲よくなっちゃいけないと演出の面も伝えつつ、過剰なことが起こらないように注意を払いました。
――なるほど。監督もいろいろ試行錯誤をしながら。
内藤 そうですね。僕のほうでのもうひとつの気づきは、いじめを原因とする事件が実際に起きたときに、学校側が「いじめではなく遊んでいるだけだと思っていました」と弁明して「教師ならわかったはずだ」と非難されることがよくありますが、「いや、微妙なラインだな」と。普通にノリで遊んでいるようにも見えるし、変に介入して子どもたちの関係性が悪くなるのも嫌だなと、見極めの難しさを感じました。距離はある程度保ちつつも、大人が声をかけていくことが必要だなと。バランスですね。
――映画では家庭内の様々な問題も描かれています。キラ母子は友達のような関係で、母は確かに息子を深く愛していると思うのですが、彼の本質は見ていないし、子どもっぽいですよね。
内藤 キラの家にはぬいぐるみがいっぱいあるんですけど、母親が自分の子どもを人形のように愛してしまっているという意味を込めて置いています。保護者はときにいい子である子どもしか見ていないときがあって、それは子どもからすると「自分の本質を見ていないんじゃないか?」と親の愛情に不信感を抱くことになるんですよね。小さい子どもがわがままを言ったりしてたくさん問題を起こすのは、「問題を起こしている僕も受け入れてほしい」というアピールで、それを受け入れてくれることに安心を覚え、逆にいい子でいるときしか認めてもらえないと親からの愛を冷たく感じてしまうんです。これは阿部恭子さんの著書にも度々出てくる指摘で、他人に迷惑をかけないように育てていた家庭で犯罪が起こるケースが少なくない。それは子どもが本質的には受け入れられていないと感じ、その反発から罪を犯してしまうのだと。親が子どもを愛するがゆえに目を曇らせてしまうことは往々にしてあって、子どもが犯罪の加害者になったときに「何か誤解があるんじゃないですか?」となかなか受け入れられないのも同じ心理です。さらに日本の場合は、母親の負担が重くなる部分があるだろうなと。教育やしつけは母親がやるものという価値観に縛られている人がまだ多く、母親は孤立し追い詰められてしまう。キラの母は、見ていて「おいおい」と思うような極端な言動をたくさん取りますけど、その背景には無責任で協力的ではない父親や、しつけは母親がするものだと決めつける社会全体の冷たさがある。「モンスターペアレント」とか「毒親」とか言葉で括らず、どうしてモンスターになってしまうのか、母親が置かれている状況に思いを馳せるべきだと思います。
――キラの母親を演じた黒岩よしさんはアスリートだそうですね。バッシングに果敢に抵抗するパワフルな母親役にピッタリのキャスティングでした。
内藤 黒岩さんはソウルオリンピックにも参加されたプロスイマーです。そのキャリアを役に反映させて、運動をしているシーンはそれで取り入れました。とはいえ真理としての強さというのは内面的なものだと思っています。個人がしっかりあって、世間から間違いだと言われることであっても、自分が正しいと思う信念に向かって突き進む、そういう人物が好きで描いています。
――もう一人重要な女性キャラクターが、キラが転校先で出会う桃子です。彼女との関わりの中で、キラの心にも変化が表れますね。
内藤 桃子のイメージの元としてあったのは、古谷実さんの作品に出てくるようなヒロインです。『ヒミズ 』の茶沢さんもそうですが、主人公が犯した罪とは直接関係ない存在で、主人公を客観的な視点で見つめ、お互い惹かれ合っていくという。キラは映画の後半、「母親を選ぶのか? 桃子を選ぶのか?」という選択肢を突きつけられることになります。母親は理想化した自分しか認めてくれないけど、どうやら桃子は悪いことをしてしまった自分も受け入れてくれる。一方で桃子はいじめの被害者であって、それはキラにとって自分の過去であり、自分が死なせてしまった樹くんでもある。キラは桃子に対してほのかな恋愛感情を感じているけれど、桃子を選ぶことは弱い自分、悪い自分を受け入れることにもなると。そういう苦しい葛藤を描こうと思って桃子というキャラクターを入れました。……ちなみに桃子のロリータファッションは演じた名倉雪乃さん本人のものです。ああいう格好でワークショップに参加していたんですね。彼女自身も学校生活にあんまりいい思い出がなくて、彼女が抱えてきた学校への鬱屈をそのまま役に反映できるなと思ってキャスティングしました。衣装も「いつも着ている服で来てほしい」と言って。クラスから自然と浮いてしまうし、彼女なりの強い信念を持っていることが伝わるだろうと。
――超然としつつ母性も持ち合わせたような桃子も素敵な女の子でした。二人の関係が成就されてほしかったのですが、中学生って結局生活を自分で選べなくて無力ということなのかなあと……。
内藤 普通に少年の成長を描く物語だったら、母親ではなく桃子を選ぶと思うんですね。そうすることで擬似的な親殺しをして、親から自立して成長すると。でもこの物語は親殺しに失敗する、成長できないという物語だと思っていて。そういう親子が今は多いと思います。反抗期がなくてずっと仲がいいままだとか。仲がいいのに越したことはないんですけど、社会から閉じて家族関係の共同体の中で完結してしまっているという形が少なくないだろうなと思ってああいうことにしています。
主演:上村侑 出演:黒岩よし,名倉雪乃,阿部匠晟,池田朱那,大嶋康太,清水 凌,住川龍珠,津田 茜,西川ゆず,
野呈安見,春名柊夜,日野友和,美輪ひまり,茂木拓也,矢口凜華,山崎汐南,地曵豪,門田麻衣子,三原哲郎,相馬絵美
監督:内藤瑛亮 プロデューサー:内藤瑛亮,田坂公章,牛山拓二 脚本:内藤瑛亮,山形哲生
撮影監督:伊集守忠 照明:加藤大輝,山口峰寛 録音・整音:根本飛鳥 録音:小牧将人,南川淳,黄永昌,川口陽一 編集:冨永圭祐,内藤瑛亮
音楽:有田尚史 サウンドデザイン:浜田洋輔,劉逸筠 助監督:中村洋介 制作:泉田圭舗,佐野真規,山形哲生
配給:SPACE SHOWER FILMS ©2020「許された子どもたち」製作委員会
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