内藤 瑛亮 (監督)
映画『許された子どもたち』について【2/4】
2020年6月1日(月)よりユーロスペース他にて全国順次公開
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――映画の中で加害者家族が受ける暴力の容赦のなさに震撼しました。
内藤 加害者家族への世間の反応というのは、日本と海外とでだいぶ違うようです。例えば1998年に起きたアーカンソー州ウェストサイド中学校での銃乱射事件のときに、加害者の親のところに手紙がいっぱい来たそうなんですが、日本だったら多分、非難する内容のものになると思うんですよね。でもそうではなく、「あなたに罪はありません。あなたが子どもを支えることで社会がよくなっていきます。がんばってください」という支援の言葉が多かったんです。加害者が罪に向き合うためには家族の支えがあった方がいいし、それをまわりから支援していくことが再発防止につながり、社会にプラスになる。そういう考えがアメリカなどにはありますが、日本では責任を家族になすりつけ、加害者本人の贖罪や更生から目をそむけてバッシングに注力する。キラの母親の真理役を演じた黒岩よしさんと、キラ役の上村侑くんに、映画の後半バッシングを受けて逃亡するシーンでどんな気持になるか訊いたら、「被害者の顔が全然思い浮かばなくなる」と言っていました。「自分たちに向けられる攻撃からとにかく逃げなきゃという思いだけで必死になって、事件のことや被害者のことは忘れてしまう。自分の子どもを守ることに集中してしまう」と。バッシングは被害者の救済にはならないし、加害者の贖罪への道を遠ざけてしまう。そういう問題をはらんでいると思います。
――バッシングの描写が本当に恐ろしかったですが、ネットバッシングってこのとおりのことが起こっているんですよね。あっという間に個人を特定して社会的に抹殺するまでやめない。どうすればよいと考えますか?
内藤 コロナ禍によってバッシングの怖さを今もよく感じます。自粛要請に応えていない人や店に過剰な制裁を加えることが横行しています。ネット上の議論というのは、白黒をはっきりつけた極論の方が好まれるんですが、あらゆる物事には冷静に見つめれば見つめるだけいろんな面があって、白黒をつけられないところがあると思うんですよね。川崎の事件だって、加害少年たちは当然悪いんですけど、家庭環境だとかかつていじめを受けていたとかの問題を抱えていて、やはり本来はそういう問題を考えていかなければいけないんです。映画は白黒をはっきりつけるものではなく、多くの視点を提示して、白と黒の間を描いていくものだと思っています。この作品に描かれるバッシングは、もちろん被害者の救済になっていないし、加害者の贖罪への道を遠ざけてしまっている。バッシングによって加害者がより凶悪なモンスターになっていることに気づいてほしいという思いをこめて描いています。
――キラ役の上村侑さんはどのように選ばれたんですか?
内藤 出演を希望する子どもを対象に、約2ヶ月の間に8回のワークショップを行い、その中で役を考えていきました。キラはもともといじめの被害者だったところから加害者に転じていくという役柄です。上村くんはすごくガタイがいいんですが、以前は小柄で、あるときグンと大きくなって、それに対する戸惑いがあって学校に通えなくなっていた時期があったそうで、攻撃的な雰囲気の中にすごく繊細な面も持ち合わせているというところがキラ役にピタッとハマっているなと。他の子たちも、ある程度本人に合わせて役柄を変えたり、役を増やしたりして、その子の人となりを反映したような役にしていきました。
――加害者グループが少年4人組というのが『スタンド・バイ・ミー』(86)ふうですが、最初からそうしようと?
内藤 そうですね、最初から4人にしようと思っていました。序盤のシーンでかかしを壊したりして、ワルいのはワルいんですけど牧歌的な雰囲気も出して、『スタンド・バイ・ミー』程度の”ちょっと悪さをしている子ども”にも見えるようにしようと思っていて。先ほども話したように、今はいわゆるわかりやすい不良が犯罪を起こすのではなく、普通っぽい子が罪を犯してしまいます。川崎市中1男子生徒殺害事件の加害者も、アニメとゲームが好きなオタク気質の子で、川崎の不良社会の中ではだいぶカーストが低かったらしいです。そういうむしろ弱い立場にいるような子がときに暴走をしてしまうというイメージで彼らを描きました。
――ワークショップではどんなことをしたんですか?
内藤 いちばん印象に残ったのはいじめに関するロールプレイです。みんなに「アイスクリームさん」みたいな抽象的な役名をつけて、「お前甘いんだよ」とか「溶けるんじゃねえよ」とか名前に沿ったことで罵倒するというものなんですが、やっているうちにいかに面白いフレーズでののしるかというところがポイントになってきて、「アイスクリームってうんこみたいな形しているな。お前うんこかよ!」とか言うとドッと笑いが起きると。そうすると本人たちも高揚感があって、すごく楽しくなってきてしまう。いじめってそういうものなんです。いじめの内容は不条理だし、理屈なんてめちゃくちゃだけど、攻撃することで場が湧くから高揚してどんどんエスカレートする。ロールプレイが終わったあと、みんなで話し合うと「今のは結構怖いことだったね。他人を傷つけることで喜んでいた。こういう攻撃性をみんな持っているよね」という気づきの言葉があがりました。単純にいじめが悪いというのではなく、いじめをある種のエンターテインメントとして楽しんでしまう面があるということを子どもたちに体験してもらい、それは作品の中にも反映しています。クラスで討論をする場面がありますけど、あれは子どもたちに自由に議論してもらっているのをドキュメンタリー的に撮影しているんですね。やはりやっているうちに楽しくなってきて、彼ら自身から出てくる言葉や子どもたちだけのノリの面白さ、空気感が表れています。あれはセリフを書くよりも子どもたち自身でゼロからやった方が出るなと思ってワークショップから反映した部分ですね。
――討論会のシーンは生っぽくて面白かったです。ののしることで攻撃性が引き出されるという体験は子どもたちにとって怖いものだったと思いますが。監督としてはそういう反応が出てくることを想定してやってもらっているわけですよね?
内藤 そうですね、でも予想以上に盛り上がってしまって「大丈夫かな?」と怖くなったところがあります。そういう危険性があると事前に思っていたので、社会学者の土井隆義先生に少年法や現代の子どもたちが抱える問題について講義してもらうという勉強的なこともワークショップで行いましたし、ワークショップをしている方にどんなふうに子どもの心のケアをしたらいいか相談していて、ロールプレイでは、「アイスクリーム」という役名をテープで貼って行い、最後に剥がして「この役は終わりました」というのを自分にもみんなにも見せ、握手して終わるというように、区切りがつけられるようにやっていました。
――ワークショップだけではなく撮影中も気を遣われたのでしょうね。
内藤 リハーサル中からカウンセラーの方に入ってもらい、子どもたちにも「辛かったらやめてもいいし、監督に言いにくいことは自分の親やカウンセラーに話していいよ」ということを事前に言っておいて。素人の子どもが多かったので常に「大丈夫かな?」と目を配っていました。実際に心配な場面もありました。休憩時間に加害者役の子たちが被害者役の子たちにキツく当たるというか、ジョークなんだけど強いなというのがあって。スタッフで話し合って、間に入って距離を取り、カウンセラーの人に見てもらったりしました。あんまり演技に慣れていない子たちなので役がすぐに抜けず、加害者のノリを日常まで引っ張ってしまうんですね。それはちゃんと切らなきゃいけないと。実際のいじめも、こうして起こることがあるかもしれないな、とも思いました。この子はイジる役、イジられる役と軽く決めて演技することで関係性を作っていくことがあるんですけど、演じていたつもりがエスカレートして、「役」から離れられなくなっていじめに発展することが結構あるのかもな、というのを体感しました。
主演:上村侑 出演:黒岩よし,名倉雪乃,阿部匠晟,池田朱那,大嶋康太,清水 凌,住川龍珠,津田 茜,西川ゆず,
野呈安見,春名柊夜,日野友和,美輪ひまり,茂木拓也,矢口凜華,山崎汐南,地曵豪,門田麻衣子,三原哲郎,相馬絵美
監督:内藤瑛亮 プロデューサー:内藤瑛亮,田坂公章,牛山拓二 脚本:内藤瑛亮,山形哲生
撮影監督:伊集守忠 照明:加藤大輝,山口峰寛 録音・整音:根本飛鳥 録音:小牧将人,南川淳,黄永昌,川口陽一 編集:冨永圭祐,内藤瑛亮
音楽:有田尚史 サウンドデザイン:浜田洋輔,劉逸筠 助監督:中村洋介 制作:泉田圭舗,佐野真規,山形哲生
配給:SPACE SHOWER FILMS ©2020「許された子どもたち」製作委員会
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