――その後キラは樹の家族に謝罪をしに行くのですが、実は何に謝りたいのか彼自身わかっていないし、樹の家族にもやはり伝わっていきません。

内藤　ワークショップでは、加害者が被害者家族に謝罪に行く事例を紹介して話し合ったりもしましたが、何をしたら被害者家族に受け入れられるかというのはすごく難しいことで、正解はないのだと思います。加害者として贖罪のあり方を自分なりに見つけて続けていくことが大事だろうなと。僕が教員として子どもと接していたときも、問題行動を起こす子どもが少なからずいましたが、その反省、更生をするというのはすごく長い道のりで、長期的に取り組まないとうまくいかないんです。近くで接している教員からすると本人なりに努力しているところが見えても、外部からは「あいつは謝る気がない、一生反省しないやつだ」とか言われることもあって、「がんばってるところなんで、もう少し長い目で見守って下さい……」って思ったんです。キラは謝罪しようという気持ちまでは行ったけど、十分ではない。でももう少し時間をかければ被害者家族が受け止めてくれるレベルに行けたかもしれないな……と、あり得たかもしれない道を提示したくて、それを緑夢くんの行為で描きました。彼は彼なりに献花台をきれいにして、キラが放り投げる花束を何度も拾うことで贖罪の道を歩んでいくと。

――ラストシーンのキラと母の姿が予想外でした。まさに”一生反省しないやつら”に見えましたが、複雑な思いもこみ上げます。

内藤　この映画の撮影は前半の”夏編”と後半の”冬編”に分けて行い、脚本も前半で区切ったものをまず製本していました。その時点で後半の脚本もありましたが、結末は今のものと違っていて、自分ではしっくりしていなかったので、前半を撮り終えた後にスタッフと一緒に再度考えました。今のラストは、前半を撮ったことで思い浮かんだラストです。キラが新たな罪を犯すという展開も考えたんですが、それだと理に落ちすぎているなと。実際の少年事件を調べたりする中で僕が感じた恐ろしさや嫌な感じ、それをそのまま送り出したいと思いました。この映画には、食事のシーンがたびたび出てきますが、食べ物にはピザやコーラやロールキャベツなど赤い色のものを選んでいて、それは死を連想させるため前半のキラはなかなか食が進まないんです。でも最後はいちごのワッフルをモリモリ食べる。その変化が観る人をぞくっとさせるんじゃないかなと思います。

――観客に問題提起している映画だと思います。今現在の社会の問題に重なる部分も多いので、公開と反響が楽しみですね。

内藤　作品をどういった形で受け止められるかというのは監督にはコントロールできないんですが、だからこそ作品を届ける価値やよさがあるのだと思います。作品には監督が抱えている無意識レベルのものも表れて、いい面も出るし、自分自身が気づいていなかった問題に気づかせてもらう機会になることもある。『先生を流産させる会 』のご批判も、自分が抱えている問題と向き合うきっかけになって感謝しています。だからこの作品を発表して、僕とは違う捉え方、僕が知らない価値観に出遭うことを歓迎します。いじめや少年犯罪の話ではありますけど、不寛容なバッシングとか家父長制などの日本社会が抱える問題が背景として見えてくるものになっていると思いますので、少年問題に関わりがない方にも観ていただけたらと思います。