塚本晋也 (監督)
映画「KOTOKO」について
2012年4月7日(土)よりロードショー!
テアトル新宿、シネ・リーブル梅田、名古屋シネマスコーレ、KBCシネマ1・2 他全国順次
塚本晋也監督が沖縄出身のアーティストCoccoを主演に据えて撮り上げた最新作『KOTOKO』。映画制作においてひとり何役もこなす才人として知られ、完璧に統制された映像美学を見せてきた塚本監督だが、今作ではCoccoと密接に協力し合って、彼女の精神、そして“母性”への敬愛を描いており、そのパーソナルな新境地が各国の映画祭でも絶賛を浴びている。Coccoの内面を探る深遠な旅のような脚本作りや、震災の影響を受けながらの撮影などについて語っていただいた。(取材:深谷直子)
――Coccoさんは今まで塚本監督の映画は観ていたんでしょうか。
塚本 僕の映画だけでなく映画というものを観ないということだったので、映画を撮ることが決まってからDVD-BOXを渡しました。片っ端から観てくれました。
――ほかの塚本監督の作品と同様、暴力の描写が激しいですが、『Inspired Movies』を気に入ってのお話だとすると出演することになってから「こんなこともやるの?」と躊躇するようなことはなかったのでしょうか。
塚本 過激なシーンだからとダメ出しをされることはなかったです。むしろ僕のほうが少し抑えにかかりそうになったときに、そんな抑えなんて絶対にしないっていう感じでした。ふたりに共通していたのは“暴力の絶対否定”でしたから。手ぬるい描写は中途半端に暴力を肯定していることになると思いました。
――塚本監督にはCoccoさんが雨の中で踊るシーンを撮りたいという思いが強くあったということですが、この作品で実現させ、とても素晴らしいシーンになりましたね。
塚本 翼が折れてしまったずぶ濡れのヒロインが、きちんと踊れないんだけど一生懸命踊ってる、というようなラストシーン。Coccoさんでそれを撮らないとちょっと一生を終えられないなあ、くらいの気持ちがありました。で、今回はこんなに急なタイミングではあるけれど、人生いつどうなってしまうか分からないのでやれるときに何でもやっておこうと思って、あのラストシーンをとにかく用意しました。そこにインタビューしたこととかをどんどん並べていき、必要な物語を加え、Coccoファンとしてのインスピレーションを働かせながら、ストーリーを有機的にしていきました。
――Coccoさんの歌には雨がよく出てきますよね。大体天気雨の優しいイメージで。あと、子供の頃の大切な思い出として、雨の中踊ったのが気持ちよかったということをインタビューで語っていたこともあって、Coccoさんにとってもこのシーンは撮りたかったものではないかと思います。
塚本 そうですね、Coccoさんの雨についての歌詞や文章は僕も読んでいました。雨のシーンをやりたいと言ったときには、何で踊るのかということをCoccoさんと考えました。「私がもし踊るとしたら、こういうとき、こういうとき」というディスカッションがあって、それはすぐにはこのシーンに結び付くものではなかったのですが、この映画での場合をじっくり考えていくうち、やがて「今まであった現実が、実は全部ないものだと分かったときに私は踊るかもしれない」というようなことがヒントになり、それも筋には大きく作用しました。もちろんその踊りは楽しさに溢れた踊りではありません。
――あのシーンは映画のメイン・ビジュアルにもなっていますが、とても美しいシーンだと思います。場所が印象的ですね。明るくて清浄なイメージで。
塚本 あの場所は見つけるのに苦労しました。最後の撮影だったんですけど、なかなかなかったですね。Coccoさんがイギリスに留学していたときに見た病院のイメージを聞いていて、冷たい場所って言うよりは木にリスかなんかがいるようなイメージの場所だと言っていたので、それは絶対に崩したくないなあと思って一生懸命探しました。Coccoさんにとって、歌とはまた別に踊るということはとても大切なことでしたので、気合いが入りました。
――一方で映画には戦争や原発のイメージも入ってきます。
塚本 それはCoccoさんに限りなく近寄る作業の中で、自分の中にボコッと浮上してきた大事なテーマです。戦争だとか、大切な人を守るのが難しい世の中になっていくということが自分にとっての最近の大事なテーマであり、Coccoさんに近付いていったときにそのテーマとの合体感があったんですね。それでこの映画を発動させる力がものすごく高まったんです。
――9.11や3.11があって、通り魔的な暴力だけではなく、大きな暴力がいつ降りかかってくるか分からない世の中になってしまいました。
塚本 考えれば考えるほど恐ろしいです。
――クランクインの直前に大震災が起こりましたね。最初に撮ったという沖縄のシーンはすごくリラックスしているように見えるのですが。
塚本 原発事故があり、東京は特に子役にとって放射能が心配だったので、先に沖縄の琴子の実家のシーンから撮ろうということになりました。Coccoさんに近づく旅は脚本だけでなく撮影においてもでしたので、非常に少ないスタッフ編成でしかあり得ないと思っていました。ですが沖縄のシーンでいきなり大勢が出演するシーンを撮ることになったので、まだ体勢も定まらず、皆さんにご心配をおかけしてしまいました。他のシーンに比べても、Coccoさんの自由演技が一際素晴らしいシーンです。自由でありながら大変な計算が行き届いています。