インタビュー
ミシェル・フランコ監督/『母という名の女』

ミシェル・フランコ (監督)
公式インタビュー
映画『母という名の女』について
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2018年6月16日(土)より、ユーロスペースほか全国順次ロードショー

二人で暮らす姉妹が妹の妊娠出産を機に、長い間疎遠だった母親を呼び寄せるが、母親は生まれた子を独占し始めて……緊張感に満ちた母娘の関係を通して母親や家族という幻想にメスを入れて、第70回カンヌ国際映画祭ある視点部門審査員賞を受賞した映画『母という名の女』の日本公開に合わせ、ミシェル・フランコ監督の公式インタビューをお届けする。
ミシェル・フランコ 1979年メキシコシティ生まれ。脚本家、監督、プロデューサーとして活躍。監督作として、第68回カンヌ国際映画祭コンペティション部門で脚本賞を受賞した『或る終焉』(15)、第65回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門でグランプリを受賞した『父の秘密』(12)がある。プロデュース作として、第65回ベルリン国際映画祭パノラマ部門で初監督作品賞を受賞したガブリエル・リプスタイン監督の『600マイルズ』(15)、第72回ヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞を受賞したロレンソ・ビガス監督の『彼方から』(15)などがある。自身の製作会社であるLucía Filmsで現在も複数の映画企画を進めている。監督作品『或る終焉』(15)『A Los Ojos』(13・未)『父の秘密』(12)『Daniel and Ana』(09・未)
STORY
母性などない。あるのは欲望だけ――隣にいるのは母ではなく、女という怪物だった……。
海沿いの家に二人で暮らす姉妹。17歳の妹・バレリアは妊娠しており、姉・クララは離れて暮らしている母親・アブリルを電話で呼び寄せる。お腹の中の子供の父親は、クララが経営する印刷所でアルバイトしていた17歳の少年・マテオ。姉妹の元に訪ねてきたアブリルは、クララやマテオと会話を重ね、バレリアの不安を和らげるように接し、母親に不信感を抱いていたバレリアも徐々に母を信用し、そして無事に女の子が生まれ、カレンと名付けられる。バレリアの代わりにカレンの世話をしているうちに独占欲がアブリルの中に芽生える。カレンを自分の管理下に置こうとするアブリルに反発しはじめるバレリア。娘との関係が悪化していく中、ついにアブリルは深い欲望を忠実に遂行していく。

女性は必ずしも全員が母に向いているとは限らない。

ミシェル・フランコ監督1
――この映画のインスピレーションは?

ミシェル・フランコ監督 数年前、私はある妊娠したティーンエイジの女の子を見かけました。それはメキシコではとても一般的な風景です。ただ、その女の子に私は強い興味を持ち、どのようにして彼女が自分自身をその状況に陥らせたのか、彼女の赤ん坊に何が起きるのか、彼女自身には…。そんなことを考えました。彼女は満たされているようにも苦悩しているようにも見え、未来への希望に溢れていながら、同時に不安に押しつぶされそうになっている…。あの幼い妊婦が見せたそんな心のグラデーションが、この物語の起源です。
加えて、私は非常に多くの男女が彼らの子どもたちとの係わり合いの中で、いつの間にか互いに対抗心を抱いてしまうという点に心魅かれています。もう自分たちが20歳だった時代はとっくに過ぎたと言うのに、それが受け入れられない…。家庭内のパワーバランスが移り変わっていく過程でのそんな拒否反応が、混沌を引き起こすのです。これら2つの要素から、この映画は生まれました。

―― 脚本の執筆方法は?

ミシェル・フランコ監督 2012年に祖母の家を訪れたときに祖母が脳梗塞に見舞われ、やってきた看護師に「家族の方は部屋の外に出てください」と言われました。言葉を発することができないから祖母が望んでいることなのかは分からなかったけれど、仕方がないので父親や兄弟と部屋の外に出て待ちました。そして、このことを映画にしたいとその時に思いました。そこから物語にするまでに2年かかり、更にそこから脚本作業を始めて1年半くらい、だからいわゆる脚本という実際にパソコンと向き合う作業までには頭の中で相当長い間、考えたり、関連本を読んだりという準備の時間があります。この脚本の段階が孤独で苦しく、私にとって一番辛い作業です。

――いつも衝撃的なラストシーンですが、観客を驚かせるのは好きですか?

ミシェル・フランコ監督 好きです。ただ、重要なのはサプライズの為の驚きにならないことです。観客には驚きと同時に「あぁ、なるほど」と腑に落ちてもらえるものでなくてはなりません。心理的な部分が描けているからこそ成立する、だけどサプライズとして立ち現れる時には思わず驚いてしまうような、そういうものでなければいけないと意識しています。
自分が観客の立場でも、自分の予想をいい意味で裏切ってくれるようなサプライズが好きです。

――演出方法と現場の雰囲気を教えてください。

『母という名の女』ミシェル・フランコ監督  肝心なのは出演者たちに完全な信頼を置き、彼らに役に入り込む十分な時間ときっかけを与えることです。例えば、エマ、バレリア、そしてホアナはバジャルタにある家に撮影スタッフや私の干渉なしで一週間共に過ごし、互いのことをわかり合い絆を深めました。撮影に入ればどんな時でも彼らの方が私なんかよりも、それぞれが演じるキャラクターやそのバックグラウンドを把握していて、驚くことに各々のアイデンティティーの在り処を私に説明してくれるのです。画面上での化学反応はその1週間の間に培われたもので、そして撮影を完全に順撮りで進めていくことでそれはより強化されました。この手法は、特に説明的でない作品の場合において俳優たちに有効のようです。

――この映画を作る過程で何を学びましたか?

ミシェル・フランコ監督 4つもの視点を積み重ねていくのは非常に複雑でした。以前の作品では私は常に1つか2つの主要な視点に限定して製作していましたから。それぞれのキャラクターに主張を持たせつつ、そのバランスを保つよう編集するのは大変でした。カメラワークもまた、私の慣れ親しんだ撮り方よりも難しく、またそれが面白くもありました。物語の時系列順に撮影することや現場で編集することは、沢山のテイクを重ねていくことを、また同時に物語に様々な角度から、時間をかけてアプローチしていくことを可能にしました。

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母という名の女 (2017年/メキシコ/スペイン語/カラー/ビスタサイズ/103分/PG12/
原題:Las Hijas de Abril/英題:April’s Daughter)
監督・脚本・製作・編集:ミシェル・フランコ (『父の秘密』(12)、『或る終焉』(15))
撮影:イヴ・カープ(『ホーリー・モーターズ』(12)、『或る終焉』(15))
出演:エマ・スアレス(『ジュリエッタ』(16))、アナ・バレリア・ベセリル、エンリケ・アリソン、ホアナ・ラレキ、エルナン・メンドーサ
© Lucía Films S. de R.L de C.V. 2017 後援:在日メキシコ大使館 配給:彩プロ
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2018/06/05/20:31 | トラックバック (0)
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