インタビュー
ロウ・イエ監督/『二重生活』

ロウ・イエ (監督)
映画『二重生活』について

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2015年1月24日(土)より、新宿K's cinema、渋谷アップリンクほかにて公開中、全国順次公開

“愛と孤独に揺れる心”を描き続けてきた映画界の詩人ロウ・イエが、中国大手BBSサイトに投稿された夫の浮気に苦しむ女性の話をヒントに、盟友メイ・フォン(『スプリング・フィーバー』脚本)、チン・ハオ(『スプリング・フィーバー』主演)、ハオ・レイ(『天安門、恋人たち』主演)らと作り上げた本作は、第65回カンヌ国際映画祭ある視点部門のオープニング作品として上映され、その複雑で予測できない人間模様と、時に笑いを誘うほどの大胆な展開で会場を驚きの渦に巻き込み、熱狂的に支持された。「中国では二重生活をしている人が多くいる」と監督が語るように、現代中国社会のダブルスタンダードや、一人っ子政策の弊害という問題をも浮き彫りにしつつも、激しい感情のぶつかり合いをロウ・イエ作品独特の漂うようなカメラワークで描き、一流のエンタテインメントに仕立て上げた。(※インタビューは他ネットサイトと合同で行われましたが、文責はすべて筆者にあります。 取材:後河大貴)
ロウ・イエ (監督/脚本) 1965年劇団員の両親のもと、上海に生まれる。1985年北京電影学院映画学科監督科に入学。『ふたりの人魚』(00)は中国国内で上映を禁止されながらも、ロッテルダム映画祭、TOKYO FILMeX2000でグランプリを獲得。1989年の天安門事件にまつわる出来事を扱った『天安門、恋人たち』(06)は、2006年カンヌ国際映画祭で上映された結果、5年間の映画製作・上映禁止処分となる。禁止処分の最中に、中国では未だタブー視されている同性愛を描いた『スプリング・フィーバー』が、第62回カンヌ国際映画祭で脚本賞を受賞。パリを舞台に、北京からやってきた教師と、タハール・ラヒム演じる建設工の恋愛を描いた『パリ、ただよう花』は第68回ヴェネツィア国際映画祭のヴェニス・デイズ、および第36回トロント国際映画祭ヴァンガード部門に正式出品された。
2011年に電影局の禁令が解け、中国本土に戻って撮影された本作『二重生活』は、第65回カンヌ国際映画祭ある視点部門に正式招待。ほか、第7回アジア映画大賞(アジアン・フィルム・アワード)で最優秀作品賞ほか3部門を受賞。中国現代文学の代表的作家でありロウ・イエと親しい友人でもあるピー・フェイウー(畢飛宇)の小説を原作にした『ブラインド・マッサージ(英題:Blind Massage/原題:推拿)』は第64回ベルリン国際映画祭銀熊賞(芸術貢献賞)を受賞。日本では2014年9月にアジアフォーカス・福岡国際映画祭にて先行上映された。
<ストーリー> 優しい夫と可愛い娘――夫婦で共同経営する会社も好調で、なにも不自由ない満ち足りた生活を送る女ルー・ジエ。愛人として息子と慎ましく生活しながらも、いつかは本妻に、と願う女サン・チー。流されるまま2人の女性とそれぞれの家庭を作り、2つの家庭で生活する男ヨンチャオ。いびつながらも平穏に見えたそれぞれの日常は、ほんの少しの出来事でいとも簡単に崩壊し、その事件は起きた。“二重生活”が原因で巻き起こる事件、さらにそれが新たな事件を生み、事態は複雑になっていく。3人の男女、事件を追う刑事、そして死んだ女。それぞれの思惑と事情が何層にも重なりあい、物語はスリリングに進んでいく。
ロウ・イエ監督――今回、“二重生活”をテーマに選んだ理由は?

ロウ・イエ 物語の原型となったのは、インターネットのコミュニティサイトに投稿された、夫の浮気に悩む女性の話です。その話をベースにして、シナリオを膨らませていきました。

――中国では、そういったことをインターネットに書いている人は多いのですか?

ロウ・イエ もの凄い数の人が投稿していますね。膨大な投稿のなかで、最もアクセス数が多い話から目を通していきました。なかには根も葉もない嘘もあり、女性を装っていても、実際には男性が書いているものもあります。インターネットというのは、そういうものですよね。顔が見えませんから。ですので、シナリオを書くうえで最初にした仕事は、ブログの作者が本人なのかどうか、会って確かめる作業だったんです。スタッフが作者の女性に会ったんですが、彼女にとって事件は既に解決しており、「新しい生活をしているのでその件にはタッチされたくない」という感じでした。そこで、私の映画を観てもらったんです。彼女はそれまで、私の映画を観たことがなかったそうですが、観賞後は、「この話を使ってもいい」と同意してくれました。私の映画が好きになったみたい。恐らく、自分好みの映画でなければ、彼女は「ダメだ」と言ったんじゃないかと思います(笑)。

――現代中国の恋愛事情を教えてください。本作のように、二重生活を送っている人は多いのでしょうか?

ロウ・イエ ひと昔前の中国では、男女の自由な恋愛は抑圧されていましたが、解放後、一気に自由恋愛の状況ができていきました。現状、政府はポルノその他を制限していますが、人々はインターネットで様々なものを自由に閲覧しています。また、ピンクサロンのようなところも存在します。ですから、恋愛の状況はじつに多様で、他の国と大差はないと思います。映画に登場するヨンチャオ(チン・ハオ)はお金持ちで、ミドルクラスに属すると言っていいと思いますが、彼は恋愛を自由に行っています。本妻がいるのに愛人を作り、さらに他の女の子とも浮気をしている。ただ彼は、好き勝手な振る舞いをしても、ちっとも充足感を覚えていません。お金の自由はすなわち本当の幸福かというと、決してそうではないのです。そこに大きな誤りがあるのです。

――シナリオを2、3稿までお書きになった段階で、“ミステリー”――ジャンル映画へと舵を切られたそうですね。現代中国を描くにあたって、なぜミステリーが相応しいと考えられたんでしょうか?

ロウ・イエ 先ほどもお話したように、この物語は、ネットコミュニティサイトに投稿された話からできていますが、いち個人の実体験を描くにあたって、ミステリーのほうが相応しいと思ったんです。ただ、私個人としては、ミステリーというアメリカ風のジャンル区分に関しては、あまり賛同できません。ジャンルでもって、現代中国社会のある物語を描くことは不可能だからです。ですから、アメリカで作られたミステリーというジャンル、或いはフィルム・ノワールというジャンルには、とても収まらない物語であると考えました。制作の過程で、“現実の生活をリアルに描く”ことを優先するか、或いは“ミステリーというジャンル”を優先するかという二者択一を迫られたさいは、必ず現実をリアルに描き出す方向を選択しました。そのようにして、この物語ができあがっていきましたが、完成した映画には、いわゆるミステリーというジャンルの部分、或いはまったくそうではない部分が混在していると思います。例えば、ラストは、被害者の女の子・シャオミン(チャン・ファンユアン)を殺した犯人――事件の加害者が誰なのか、判然としない状態になっています。つまり、通常のミステリーを逸脱するような描き方になっているのです。そういう意味では、誰もが加害者でないとも言えますし、誰もが加害者であるとも言える。『二重生活』メインイメージ『二重生活』メインイメージ2そして、事件に加担した者は、誰も処罰を受けることはないのです。こうした状況こそが、現代中国を反映しているのではないでしょうか。

――通常、ミステリーは謎を追う者が語り手になりますが、本作には特定の語り手が不在です。加えて、導入部分とラストには俯瞰(空撮)が挿入されており、また、シャオミン殺害場面の回想の主体も判然としません。こうしたことから察するに、本作の語り手はシャオミンの“亡霊”なのではないでしょうか。

ロウ・イエ その通りです。通常のミステリーというジャンル区分でいきますと、事件には必ず目撃者がいて、語り手としてストーリーを運んでいくわけですが、本作では、死んだ少女の視点で語っているわけですね。

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二重生活 2012年/中国、フランス/98分/1:1.85/DCP
監督・脚本:ロウ・イエ 脚本:メイ・フォン,ユ・ファン 撮影:ツォン・ジエン 編集:シモン・ジャケ
音楽:ペイマン・ヤズダニアン
出演:ハオ・レイ,チン・ハオ,チー・シー,ズー・フォン,ジョウ・イエワン,チャン・ファンユアン,チュー・イン
配給・宣伝:アップリンク
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2015年1月24日(土)より、新宿K's cinema、渋谷アップリンクほか
にて公開中、全国順次公開

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  • 監督:ロウ・イエ
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2015/02/05/17:01 | トラックバック (1)
後河大貴 ,インタビュー

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