ロウ・イエ (監督) 映画『二重生活』について
公式サイト 公式twitter 公式Facebook2015年1月24日(土)より、新宿K's cinema、渋谷アップリンクほかにて公開中、全国順次公開
(取材:後河大貴)
――本作の特徴として、主要キャラクター3人の心の在りようをジャッジせず、“ただ描いている”ことが挙げられると思います。これは、人間が抱えるエゴや矛盾を肯定していると考えてよいのでしょうか?
ロウ・イエ 私は、監督がキャラクターに白黒つけてはいけないと思います。それを判断するのは、映画を観た観客ひとりひとりです。私自身の考えは、この映画を観てもらえばお分かりいただけるはずです。それは、先ほどもお話したように、私の態度が“アンチ・ジャンル”だということですね。この映画のラストに絡めて言えば、私も悲観的であるとは思いますが、悲劇を記憶することで、“人間は人間らしさを保てる”という態度ですね。
――日本には、主要キャラクターと同様に若い世代で、愛について困惑している人が大勢います。本作を拝見して、「愛について説明しようとするから困惑してしまうのではないか」と思いました。
ロウ・イエ その通りだと思います。現代では、誰もが心が満たされず、不安定な状況に置かれています。そんな状況だからこそ、絶えず新しい刺激を求めてしまうのでしょう。ただ、私は、困惑そのものが愛のひとつのかたちだと言えるのではないかと思います。例えば本作のなかで、ヨンチャオは、本妻のルー・ジエ(ハオ・レイ)と別れて、愛人のサン・チー(チー・シー)の家に行く車のなかで愛を感じている。またルー・ジエの立場から見ると、ある日、スーパーマーケットから出てくるサン・チーの家族を目撃したさいに、ヨンチャオへの愛を感じている。愛は、そういう瞬間に生まれるわけですね。逆に、サン・チーと対面したヨンチャオには、愛はないのかもしれない。車中では愛があっても、実際に会ったときは、既に愛は消えているかもしれないのです。愛というものがどういうものかは分かりませんけども、そういういろんな瞬間に生まれるのだと思いますし、逆に、生まれるべきところに愛はないのかもしれません。
――愛は突き詰めえると、どんどん複雑になっていくと?
ロウ・イエ 私は、困惑のなかにこそ、惑いの瞬間にこそ愛があると思います。もちろん、全部がそうだとは言えませんけども。
――ルー・ジエとサン・チーが求める愛は、それぞれ異なるのでしょうか。或いは、階級や環境によって、求める愛に違いがあると思われますか。
ロウ・イエ 愛に対する思いは、人それぞれ千差万別です。ルー・ジエとサン・チーは、愛に対する考え方も、どういうふうに愛を理解しているかに関しても、ぜんぜん違っていると思います。ルー・ジエは未来のサン・チーかもしれないし、サン・チーは過去のルー・ジエかもしれない。ルー・ジエもかつては、サン・チーと同様に、愛に対して強い思いを抱いていたのかもしれません。
――「愛は絶対的なものではない」と仰いましたが、本作では“悪”についても同様で、一元的には規定されていません。事実、あらゆる人物が相対化されていく――そういうドラマ作りになっていると思います。シナリオのメイ・フォンさんとは、どういったやりとりを?
ロウ・イエ シナリオ執筆中は、メイ・フォンとは、そういった概念的なことではなく、ごくごく具体的なことについて話を進めていきました。例えば、ヨンチャオがルー・ジエに対して、その段階でどういった気持ちでいるのかということ。妻であっても愛していないのか、それともまだ愛はあるのか、そうしたことについてひとつひとつ進めていきました。
――ロウ・イエ監督の映画に登場するキャラクターは、みな一様に苦悩しているように見受けられます。一方、日本の場合は、楽観的であることが幸福への近道であると短絡されがちです。こうした風潮に対して、どう思われますか?
ロウ・イエ 確かに、楽観的な態度こそが幸福を得る近道だと思います。でも、人間ってずっと楽観的であることは不可能なので。ある瞬間は悲観的であり、また別の瞬間は楽観的である――こうした瞬間の変化が、人間の真実なのではないでしょうか。私も悲観的になったときは、「悲観的な気分はずっと続くものじゃないから、また楽観的になるだろう」と思うようにしています。「これは、時間が解決する」と。それから、私は映画作家なので、悲観的な気分はすべて作品に塗り込んでいるんです(笑)。
( 取材:後河大貴 )
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監督・脚本:ロウ・イエ 脚本:メイ・フォン,ユ・ファン 撮影:ツォン・ジエン 編集:シモン・ジャケ
音楽:ペイマン・ヤズダニアン
出演:ハオ・レイ,チン・ハオ,チー・シー,ズー・フォン,ジョウ・イエワン,チャン・ファンユアン,チュー・イン
配給・宣伝:アップリンク
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2015年1月24日(土)より、新宿K's cinema、渋谷アップリンクほか
にて公開中、全国順次公開
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