吉川久岳(監督)×宮崎大祐(脚本)/『ひ・き・こ 降臨』

吉川 久岳(監督) × 宮崎 大祐(脚本)
映画『ひ・き・こ 降臨』について【3/7】

公式サイト

2014年11月29日(土)~12月4日(木)、シネ・リーブル池袋にて6日間限定レイトショー!

(聞き手:後河大貴)

宮崎大祐(脚本)宮崎大祐(脚本)――ニコには、儚さというか、少女のまま時が止まっちゃったような純真さがありますよね。で、そのまま陰惨極まりない凶行に及んでいく。そこが面白かったし、リアリティを感じました。

吉川 地下駐車場で、ニコが“ある言葉”を繰り返し呟きながら、レイプ疑惑のある男を引きずる場面があるんですが――あんなに感情的な芝居は想定していなかったですね。テストとは全く違うお芝居だったので、やっぱり小宮さんのなかから出てきちゃったものなんだろうと。もう、縋りつくように引きずっていきますから。あれは、祈りに近いものなんじゃないかと思いました。

宮崎 それはせつないな。

――で、引きずった後のニコがまた、凄く憂いを帯びた表情でゆかりを見つめますよね。あれ、ドキッとしました。

吉川 あの瞬間は、現場で芝居を見ていて「きた!」って感触がありましたね。

宮崎 ちょっとヘドラを思い出しましたね。川崎の工業地帯から生まれたヘドロのお化け。

――たぶん、あそこがミッドポイントになっていると思うんです。以降、人間ニコよりも人神ヒキコの比重が大きくなっていくと。

宮崎 レイプしたかもしれない男を、レイプされたかもしれない女がしばくっていうね(笑)。

吉川 あれを撮ってるときにふと思ったんですけど、劇中のメインキャラクターの女の子3人は、おそらく男性経験が無いんじゃないか、と。“復讐代行”においても、基本的に男をしばいてるしね(笑)。

――ニコが鉄パイプで男をしばくのが示唆的ですよね。というのも、劇中に登場する男たちは、なにかと棒状のモノを持ってます。刑事のタバコとか、ゆかりの父親が爪楊枝を咥えていたりとか。逆に、無菌的な共同体のなかで感情を激発させた女の子たちも、棒状のモノで男をしばく(笑)。

宮崎 ラストの包丁もそうですよね。日本的未成熟さと裏腹な天皇制的男根支配反対、みたいな。

吉川 そこまで言っちゃう(笑)。

――ちなみに、“ある言葉”は「ルカ福音書」からの引用で、ある男に憑いていた悪霊が、イエスに対して救いを求めるセリフです。ニコは反復強迫的に男をしばくんだけど、一方で、どこか「自分を止めてほしい」と希求している、と。

『ひ・き・こ 降臨』場面6 『ひ・き・こ 降臨』場面7吉川 もともとの脚本には、女の子たちが復讐した相手に復讐し返されるシーケンスがあったんです。でないと、一方的に暴力を振るっておいて、報復は受けないというご都合主義になってしまいますから。で、ゆかりはニコに助けられたことで、逆に逃れられなくなってしまう、と。そのシーケンスでは、ニコのゆかりに対する愛情の様なものがかなり明確に示されるシーンがあったのですが、スケジュール的に限界を超えていたので、泣く泣く落とさざるをえなかった。そこで、前述の地下駐車場の場面に、その要素も入れなければならなくなったのですが、予想以上に小宮さんのお芝居が感情的だった。結果的に、ニコの愛情と、それゆえにゆかりが凶行から逃れられなくなっていく感じが出せたのではないかと思います。

――愛情ということでいくと、紀里子(サイボーグかおり)の母親への愛情も大きなポイントですね。本作のメインキャラ3人は三者三様に親との関係に強く規定されていますが、キリコだけが母親との関係に強く規定されている。そしてそれが、ラストへの大きな布石になっています。母性愛をキリスト教的な道徳律に読み換えるっていうのは、宮崎さんのなかで一貫したモチーフですよね。

宮崎 そうですね、いつの日からかそうなっていました。父親だとどうしても問題が連続するだけになってしまうからでしょうか。ともあれ、キャラクターを作るうえでは当然、親子関係が重要になってきますよね。で、紀里子に関してはお母さんっ子なんだと。

吉川 最初のほうの稿では、紀里子が母親を世話しているシーンも結構あって。で、宮崎君的にはかなり思い入れがあったと思うんだけど、でも、「じゃあ、その場面は誰が見ているの」となっちゃうから。

宮崎 「これはドラマなんだ」と割り切っちゃうことになりますもんね。それはそれで良いとは思ったんですが……。当初は、団地住まいの紀里子が、体の不自由な母親を介護しているシーンを書いていたんです。

吉川 そのシーンは前述の理由で落としたんですが、母への愛というモチーフが重要なのは理解できたので、居酒屋のシーンに紀里子と母親をめぐるエピソードは生かしました。

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ひ・き・こ 降臨 2014年/日本/88分/ビスタサイズ/ステレオ/カラー
編集・監督:吉川久岳 脚本:宮崎大祐
出演:秋月三佳,小宮一葉,サイボーグかおり,針原滋,正木佐和,松本来夢,石橋征太郎,広瀬彰勇,西地修哉,末次政貴,河野良祐,加藤大騎,菅沼もにか,芦原健介,恒吉梨絵(友情出演)
プロデューサー:小田泰之 撮影:御木茂則 照明:松隈信一 録音:西岡正巳 効果:丹 雄二
衣裳:碓井章訓 ヘアメイク:佐々木愛 助監督:山下和徳 制作担当:牧 信介
製作・配給:アムモ98 © 2014 amumo 98
公式サイト

2014年11月29日(土)~12月4日(木)
シネ・リーブル池袋にて6日間限定レイトショー!

2014/11/28/17:23 | トラックバック (0)
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