吉川 久岳(監督) ×
宮崎 大祐(脚本)
映画『ひ・き・こ 降臨』について【5/7】
公式サイト
2014年11月29日(土)~12月4日(木)、シネ・リーブル池袋にて6日間限定レイトショー!
(聞き手:後河大貴)
――撮影日数は、5日間だと聞いています。作品のクオリティからすると、俄かには信じがたいですが。カット数もかなりありますし。
吉川 内容的には宮崎君が壮絶なラストシーンを書いてくれて、「いけるんじゃないか」という手応えはありました。ただ、予算とスケジュールがメチャクチャにハードだったので、薄氷を踏むような状況でしたね。例えば、制作部の誰かが寝てなくて、制作車が事故って現場に予定通り到着できず、2時間押すと、「そのシーンは撮れません」みたいな(笑)。
宮崎 現場に遊びに行ったら、もう、みんな異常な緊張でプルプルしているような状態でやっていましたね(笑)。
吉川 そんな状況で一定のクオリティを達成できたのは、カメラマンが御木(茂則)さん、照明が松隈(信一)さんだったというのが大きい。おふたりは言わずもがなのベテランなので、すべてのスケジュールを把握して現場で動いてくれた。例えば、こちらが「この場所で分量がこれぐらいがあれば1時間半でいけるんじゃないか」と思っていても、おふたりはのっけから焦って、ピリピリしている。それは、おふたりが、建物の構造とか陽の回りとかを勘案して、「1時間半はない」と読んでいるからなんです。で、確かにそのとおりになる。そういう点では、本当に勉強になりました。とくに御木さんは、時間がないなかでの瞬発力がもの凄い。
宮崎 御木さんとは僕も一緒にやってますが、画面内のレイヤーの作り方も凄いですよね。本人に伝えたら、「一応、僕はレイヤーには自信があるんですよ」と(笑)。
――加えて、物語に奉仕する視覚性への配慮が凄かったです。例えば取調室でも、刑事と対面したゆかりが感じる圧迫感を出すために、机の角の対角線上に入ったり。あと、3人が車に乗る場面で、ニコだけがバックミラーに反映していたり。
吉川 そのあたりは、かなり考えてやって下さっていますね。駅での待ち合わせシーンで、ニコの圧迫感を出すために後頭部を大きく撮ったりとか。あと、喫茶店でニコとキリコが児童虐待のメールを読むシーンで、ふたりに挟まれたゆかりに対して、ちょっと俯瞰めに入ったりとかね。ああいうところの視覚的な表現は、本当に信頼して任せられる方です。
宮崎 ポジションとかアングルに関しては、御木さんが決めていたんですか?
吉川 基本的にはね。もちろん、こちらで狙いを伝えてはいますけど。
宮崎 駅前、喫茶店、取調室――景色としてはのっぺりしている場所が、妙に印象深いイメージに変わるのは、カメラワークとカッティングの力ですよね。もちろん、演出の力も大いにあるんですけど。或いは、唐突に異様なカットが入ってきたり。あれをその場で思いついていたらちょっと凄すぎるけど、たぶん、計算してやってるんでしょう(笑)。
吉川 御木さんに先にカメラを置かれたことで、自分が考えていた演出プランだと緊張感が出ないと思って、変更することも結構ありましたね。ラストの取調室のシーンでも、刑事が鍵を閉めにいくところなんかは、当初、あそこまでの引き絵を入れるつもりはなかったんです。でも、御木さんにドーンと引かれちゃったから、「机の周辺だけで完結する芝居では面白くないな」と。で、フレームにあわせて芝居を変更したりとか。
――フリージャズのセッションじゃないけど、吉川さんと御木さんの間で、水面下での探り合いがあったと。
吉川 そうそう(笑)。5日間を通して、ぶつかり合いもありましたけどね。僕は僕で、まずは芝居を見ていますから。今回は演技経験の少ない若い子たちが中心だということもあって、フレームに芝居を合わせるような方向性は避けたかったんです。一方で、御木さんは「このセリフはこのアングルから」とプランがかっちり決まっている。仰っていることは正論なんですよ。でも、僕としては「やっぱり芝居が成立しないと……」みたいなね。周囲からはそう見えなかったと思いますが、水面下ではそんな応酬もあって(笑)。
宮崎 凄いですね。僕はすぐ顔に出てしまいます(笑)。
吉川 そういう緊張感の出し方もあると思うんですけど、スケジュール自体が緊張感を強いてくる状況だったから(笑)。少なくとも演者さんに、ピリピリした雰囲気が伝染してしまうのは避けたかったんです。それでパフォーマンスが向上する人もいるんでしょうけど、そんなふうに尻を叩かなくても、メインの3人は十分、意識が高かったから。なので、「必要以上に現場の雰囲気が悪くならないように」っていうのは、気をつけていました。それに、少々のミスがあって1時間とか現場が押したぐらいで、助監督や制作部を怒鳴る気にはなれません。悪条件のもとでやってくれているのを知っていますし。
編集・監督:吉川久岳 脚本:宮崎大祐
出演:秋月三佳,小宮一葉,サイボーグかおり,針原滋,正木佐和,松本来夢,石橋征太郎,広瀬彰勇,西地修哉,末次政貴,河野良祐,加藤大騎,菅沼もにか,芦原健介,恒吉梨絵(友情出演)
プロデューサー:小田泰之 撮影:御木茂則 照明:松隈信一 録音:西岡正巳 効果:丹 雄二
衣裳:碓井章訓 ヘアメイク:佐々木愛 助監督:山下和徳 制作担当:牧 信介
製作・配給:アムモ98 © 2014 amumo 98
公式サイト