吉川 久岳(監督)
宮崎 大祐(脚本)
映画『ひ・き・こ 降臨』について【1/7】
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2014年11月29日(土)~12月4日(木)、シネ・リーブル池袋にて6日間限定レイトショー!
2000年代初頭、十代後半だった筆者の心を捉えて離さなかったのは、同時代のアメリカ映画でも日本のメジャー映画でもなく、国映のピンク映画だった。とりわけ瀬々敬久氏と井土紀州氏コンビの手になる一連の犯罪映画――傑作『雷魚』(97)を頂点とする――には大いに刺激を受け、また、慰撫された。荒涼たる郊外を彷徨する孤独な魂に、テレクラを介した行きずりの殺人に、手に余る暗い情念を仮託していたのだろう。思えば、現実と映画のあいだに、自己享受を許しうる距離があった。10年が経過した現在、均質化が亢進した郊外はさらに寂寞とし、テレクラはSNSに取って代わった。いまや、ネットを介して、誰もが親指一本で凶行に加担しうる。広島LINE殺人事件のように。少女の凶行を後押しした言葉の応酬は、とても他人事とは思えない。ただ、犯罪の様相は変われど、問題の本質は変わらない。『ひ・き・こ 降臨』は、その本質を凝然と見つめようとする。装いこそB級ホラーだが、『雷魚』の問題系を真っ向から引き継ぎ、息苦しいまでに現在を捉えた傑作だ。日本の犯罪映画史が更新される瞬間を、是非、スクリーンで体感して頂きたい。(聞き手:後河大貴)
宮崎大祐(脚本) 1980年、神奈川県出身。20代半ばで劇映画に目覚め、2008年に黒沢清監督作品『トウキョウソナタ』に助監督としたことをきっかけにフリーの助監督として活動。初監督した『夜が終わる場所』(12)がサンパウロ国際映画祭のニュー・ディレクターズ・コンペティション部門やモントリオール・ヌーボーシネマ国際映画祭のインターナショナル・パースペクティブ部門に正式招待され、トロント新世代映画祭では特別賞を受賞する。脚本家としても活動しており、代表作には筒井武文監督作『孤独な惑星』(09)などがある。新作は日本・中国・タイ・シンガポール共同制作によるオムニバス映画『Five to Nine』。
<ストーリー> SNSを通じて同窓会を企画したゆかり(秋月三佳)は、10年ぶりに小学生時代の同級生、紀里子(サイボーグかおり)に再会する。遅れてニコ(小宮一葉)もやってきて、3人は一気に意気投合、以来行動をともにするようになる。いじめっ子グループに嫌な思いをさせられていた3人は、ある出来事をきっかけに、警察が裁くことの出来ない罪人に復讐する為のサイトを立ち上げる。覗き魔やストーカーに復讐しては、その様子を動画共有サイトにアップする3人。視聴者数は伸びてゆき、賛同者も多数現れるが、それに伴い過激な暴力へと傾倒してゆくニコと紀里子。ふたりの行動に次第に違和感を覚え始めたゆかりは、ニコの身辺を調べ始める。すると、ニコという名前のクラスメイトがいなかったことが判明、さらにニコによく似た“ひきこ”という名前のクラスメイトがいたことを思い出す。そんなとき、ゆかりの身に悲劇が襲いかかる――。
吉川久岳監督――前作の『ひきこさんの惨劇』から1年余を経た本作は、“ひきこさん”の起源に遡る内容になっています。企画成立までの経緯は?
吉川 『ひきこさんの惨劇』の数字がそこそこ良かったこともあり、制作プロダクションのアムモ98から、「“ひきこさんモノ”でなにかやってよ」というオファーがあったんです。「続編でもいいし、ひきこが登場すれば続編じゃなくてもいいよ」と。「じゃあ、せっかく話が来たし、やるか……」といったような、ふわふわした感じで企画がスタートして。すぐに宮崎君と会って話をしたんですけど、「続編となると、ただでさえ少ない視聴者を、さらに限定してしまう恐れがあるな」と。そこで、「じゃあ、なにか新しいことをやろうか」ということになった。当初は、「“ひきこ視点”でやろうか」みたいな話も出ていましたね(笑)。
宮崎 「全編“幽霊主観”とかどうですか」みたいな(笑)。
吉川 そんな具合に話を進めるうちに、「広島LINE殺人事件に代表される近年のネット犯罪を絡めつつ、ビギニングじゃないけど、“ひきこ誕生譚”でいこう」と。で、宮崎君が「わかりました」と持ち帰って、数日後に一発目のプロットが送られてきたんですが――これがまた、ほとんどひきこと関係ない内容で(笑)。地方在住の女の子たちが、色恋沙汰の果てに互いを殺し合うみたいな、かなり陰惨な話だったんですね。一応、申し訳程度にひきこもちょろっと登場するんだけど、「どうしたものか……」と(笑)。
宮崎 ただ、僕なりの目算はあって。というのも、ひきこっていわゆるJホラー的な、雰囲気系の怖さではないわけですよ。破壊したり、引きずったりというような、物理的でフィジカルな恐怖がポイントなんですね。それを成立させるには、ある程度の予算がないと厳しいんじゃないか、と。『ひきこさんの惨劇』はフェイクドキュメントだったこともあり、そこはいい按配にクリアできた。ただ、ドラマとして成立させるとなると、フィジカルな恐怖で勝負しても勝ち目は薄い。ならば、一般に“心の闇”と呼ばれるようなポイントに焦点を合わせて勝負しよう、と。ひきこを前面に押し出さずとも、「物語の構造自体がひきこなるものの本質を捉えていればいいんじゃないか」と考えたんです。
吉川 でも、いくら「自由にやっていい」と言われていたとはいえ、さすがに“ひきこモノ”としてパッケージするのはまずいだろうと。一方で、低予算で勝負する以上は、当たり前のことをしてもつまらないな、という思いはあったんです。そこで、宮崎君のエッセンスを取り入れつつ、バランスをとりながらプロットを調整していきました。
――その段階で、“ネットを介した復讐代行”といったモチーフは出てきていた?
吉川 大枠では撮影稿と同じですけど、もっと鋭角的でゴツゴツしていましたね。で、プロットの段階で叩いても、プロデューサーの小田(泰之)さんと共有するのが難しいんじゃないかと考えて、すぐに第一稿を作ったんです。シーンの具体的なディティールがあったほうがわかりやすいだろう、と。でも、脚本にしたら、より難解になっていた(笑)。
――本編は、女の子たちが惹起した一連の事件の事後から始まって、主人公・ゆかり(秋月三佳)が刑事の取調べに応答していく、という構成になっています。いわゆる帰納的な語りを採用した理由は?
宮崎 第一に、低予算ホラーで勝負するなら、捻りがあったほうがいいだろう、と。次いで、「あの事件を見ていたのは誰なのか」という問題がありました。関与した人間が全て死んでしまったのであれば、事件が語られることはないですから。かつ、物語的にもストレスを強いる場面が続くので、緩衝材というか、時間軸が違う映像が入ったほうがいいのかな、と。
吉川 一方で、それが仇となって、ラストシーンをどうするのか悩むことになった。ゆかりは事件の語り手ではあるんですけど、「じゃあ、なぜ彼女は生かされたのか」と。都合よく生かされて、都合よく語り手になったというのは避けたかったんです。 宮崎 そのあたりはかなり応酬がありましたよね。で、メインの3人が終盤の決定的な凶行に至る前にもっと泳がせて、世間に悪意を拡散させるという展開を作ったんです。
編集・監督:吉川久岳 脚本:宮崎大祐
出演:秋月三佳,小宮一葉,サイボーグかおり,針原滋,正木佐和,松本来夢,石橋征太郎,広瀬彰勇,西地修哉,末次政貴,河野良祐,加藤大騎,菅沼もにか,芦原健介,恒吉梨絵(友情出演)
プロデューサー:小田泰之 撮影:御木茂則 照明:松隈信一 録音:西岡正巳 効果:丹 雄二
衣裳:碓井章訓 ヘアメイク:佐々木愛 助監督:山下和徳 制作担当:牧 信介
製作・配給:アムモ98 © 2014 amumo 98
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