吉川 久岳(監督) ×
宮崎 大祐(脚本)
映画『ひ・き・こ 降臨』について【6/7】
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2014年11月29日(土)~12月4日(木)、シネ・リーブル池袋にて6日間限定レイトショー!
(聞き手:後河大貴)
――劇中に幾度か登場し、惨劇の舞台にもなる“空き地”が非常に印象的でした。宮崎さんは、負の記憶に塗れた“悪い場所”をよく使いますけど、今回、空き地へのこだわりは?
宮崎 むろん、こだわりはあるんですが――脚本上では、住宅街のど真ん中にあるような、匿名的な空き地を想定していたんです。
吉川 そうは言うけど、そもそも宮崎君、住宅街の真ん中で成立するようなシーンなんて書いてないから(笑)。だから、ロケハンの段階で、説得力のある空き地を探すのにかなり苦労しました。劇中に登場するのは、千葉県の某下水処理場なんですけど、自治体が将来の人口増加を見込んで買い上げて、しかし見込んでいたような事態にならず、休眠状態になっている土地なんですね。そこに、工場から漏れてくるヘドロの臭気が滞留している。そういうことも含めて、面白いんじゃないか、と。
宮崎 そこも脚本のライトモチーフとフラクタルになっていると(笑)。すぐ隣には工業地帯があり、抜けには呪われた中心である東京が微かに見える、まさに日本の近現代史を総括したような、じつに映画的な空き地を見つけてくれました。で、近隣の排泄物が流れ込む場所でもあるわけですね。まさにヘドラだな。
――『ひきこさんの惨劇』におけるひきこは、ネット空間に投稿された視聴者の情報によって、自然発生的に生成した現象だとされていました。一方、本作では、ひきこが空き地で惨劇を繰り広げる場面で、匿名的な視聴者自身が、リアルタイムで凶行に加担していきます。あれ、一番怖かったですね。
吉川 広島LINE殺人事件でもそうですけど、ネットを介した視聴者のメッセージに後押しされて、陰惨極まりない犯罪を犯してしまう。そういう局面に、親指一本でやすやすと繋がってしまう怖さを描きたかったというのはあります。逆に、この映画を見て「怖い」と思ってくれたとすれば、まだ救いがあるんじゃないか、と。
宮崎 繋がるという意味では、ネットと現実、過去と現在、善と悪など、あらゆる境界を なし崩しにして突き進み、お客さんをなんだかよくわからない地平まで運んでしまうのが、映画の面白さであり、可能性だと思っているので。そもそも、メイン3人も、ひとりずつの目的はぜんぜん違っている。にもかかわらず、ちょっとしたことを契機として、なにか抗いがたい力に引きずられるように、気づくと大きな罪を犯してしまっている。現実においても、そうだと思うんです。“人間が怖い”っていうのは当たり前の話じゃないですか。でも、人間を怖い存在にしてしまう、もっと恐ろしいなにかがある。本作では、その本質を突き詰めたかったというのはありますね。
吉川 本当にそうですね。作り手としてもそれを狙いましたし、宮崎君が言ったような恐怖を射程に収めた作品になっていれば、この世に存在する価値があるのかなって思います。
――“ひきこモノ”の続編になるか否かはわかりませんが、また吉川さんと宮崎さんのコンビ作が見られるといいな、と。
宮崎 ひきこシリーズは、ひきこという記号を与えられて、ジャンル映画でホラーであるという要件を満たしつつ、やる以上は「もう少し現代的にしましょう」とか、「映画的に面白い仕掛けを作ろう」といった志から始まっているんです。本作では、前作と同様に手持ちのフェイクドキュメントをやってもよかったんですが、あえて“ゼロ”に戻ったみたというか。だから僕としては、作品規模こそ違いますけど、『バットマン』と『ダークナイト』の関係に近いと思っていて。ファンの方からすると「こんなのひきこじゃない」となってしまうかもしれませんが、より現実を反映した恐怖、面白さになっていると自負しています。観客の方の実人生にダイレクトに突き刺さるような、飛躍を目指して作りました。そうした試みが許されるなら、またひきこを使ってなにかできたらいいですね。
吉川 既にパッケージ化された記号を与えられたなかで、どう野心的な作品を作るか――それが、低予算の勝負どころだと思います。面白いのは、ひきこという記号がカチッと固まっておらず、想像力が入り込む余地があるところ。だからこそ、ちょうどいい距離感が生まれて、コンテンポラリーな恐怖に繋がる可能性があるのでは、と。従来のホラー映画の怖さとはちょっと違うかもしれないけど、日本の不穏な現状を映す鏡のような恐怖映画になったと思います。宮崎君との協働ということで言えば、タイプが全く違うところがいいんじゃないか、と。宮崎君はガッチリ論理的に構築するタイプだけど、僕はエンタメ志向なので。そこに一緒になって入り込んじゃうと、意味がないのかな、と。だから今後は、宮崎君のゴツゴツしたイメージを、もう少しわかりやすいかたちにして、より多くのお客さんに届ける――そういうふうにやれたらいいな、と思いますね。
編集・監督:吉川久岳 脚本:宮崎大祐
出演:秋月三佳,小宮一葉,サイボーグかおり,針原滋,正木佐和,松本来夢,石橋征太郎,広瀬彰勇,西地修哉,末次政貴,河野良祐,加藤大騎,菅沼もにか,芦原健介,恒吉梨絵(友情出演)
プロデューサー:小田泰之 撮影:御木茂則 照明:松隈信一 録音:西岡正巳 効果:丹 雄二
衣裳:碓井章訓 ヘアメイク:佐々木愛 助監督:山下和徳 制作担当:牧 信介
製作・配給:アムモ98 © 2014 amumo 98
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