佐々木 昭一郎 (映画監督)
映画『ミンヨン 倍音の法則』公開によせて
創りつづけるということ【3/4】
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2014年10月11日(土)より岩波ホール他 全国順次ロードショー
(聞き手・構成:佐野 亨)
突発的なひらめきと自然体の演技者たち
そうしてシノプシスをまとめるうちに、はらださんが当初僕にやらせようとしていた長崎の話が絡んできたりして、内容がふくらんでいきました。
さらにある日の会合で、戦時中の僕の体験を話したところ、秀さん(吉田秀夫)が「それはぜひ作品に盛り込むべきだ」と。つまり、この件に関しては秀さんが犯人なんです(笑)。あと、神父にああいう十字架を持たせたのも秀さんのアイデア。「なにか持たせたほうがいい」というので、秀さんが持ってきた大きな十字架に現場で時計をくくりつけました。
出演者はミンヨン以外はほとんど決まってなくて、現場の思いつきで配役していったんですよ。旦部(辰徳)くんはミンヨンと同じゼミの学生だった青年だし、少年(高原勇大)が決まったのも製作が動き出してしばらく経ってから。「編集長役は誰がいいかな」と考えた末、高原さんのお父さんに出てもらったり。
全体のシノプシスは決まっていても、具体的な内容は撮影が始まってみないとわからないので、だいたい朝の5時くらいに撮影台本をスタッフにメールするんです。僕は作品をつくっているときは、眠っていても頭は起きているんですね。朝起きると、ふとひらめいて携帯電話にその内容を書き留めるんです。ただ、それもまた現場の思いつきでどんどん変わっていく。
ミンヨンが英語で会話しているところに少年が近づいていって、「英語でしゃべってる!」と言ってくれ、とかね。ああいうことは、全部現場で思いついた演出なんですよ。彼(高原)はこれまでまったく演技経験がないんですが、僕は子どもに接するときでも絶対に子ども扱いしないんです。「高原さん」と呼んで、必ず敬語で話しかける。これはすごく大切なことですね。武藤(英明)さんが今回、市立船橋高校の吹奏楽部を指揮してくれたんですが、彼も演奏者には必ず敬語で話しかけます。「そこ、そんなんじゃ駄目だ!」とか、そういう言葉遣いは一切しない。丁寧な言葉で接すると、相手も必ず丁寧に応えてくれるものですよ。「バカ、俺の言ったとおりやれ!」なんて言ってると、全部パターンの演技になってしまって面白くない。いかにその人の豊かさを引き出すか、ということが大事なのであってね。
「こういう演技をしてくれ」ということも僕は一切言いません。ただ、撮影の内容だけを伝えて、あとはその人がそれを飲み込んで、自分の考えで動いてくれればいい。たとえば、「さすらい」の安仁ひろしや友川かずきだったら、画面に映っている彼らの姿に、はっきりと彼らという人間、彼らの生活がにじみ出ているんです。僕がプロの俳優を使わない理由もそこで、常日頃「こういう演技をしてくれ」と言われつづけていると、俳優は本当にそういう演技しかできなくなるんですよ。あと、映画の助監督なんかにしても、「本番!」とか気違いじみた声を出すでしょう。あれでは演技者は委縮してしまいますね。僕はカメラのうしろには絶対人を立たせないようにしています。僕すら立たないですよ。撮影の間はなるべくそっぽ向くようにしてる(笑)。撮影の秀さんもすごく柔軟な撮り方をする人で、カメラを自由にぐるぐる回したりするから、そばにスタッフがいると映り込んじゃうんです。今回、渋谷の雑踏のなかでああいう撮影ができたのも、僕らは離れた場所にいて、カメラマンと演技者だけがあの場にいたからできたことなんじゃないかな。そういえば、今年の1月にこの映画の編集を始めた際、これは『シェルブールの雨傘』だな、と思ったんです。あの渋谷のスクランブル交差点の風景は、僕にとっては、雨傘のように広がる凱旋門なんですよ。あの放射状の風景のなかで、登場人物のさまざまな心理がぶつかりあい、混ざり合い、さらにはあそこを中心として、日本中に回路が張り巡らされていく。そういう意味で非常に地政学的な物語でもあるんです。
出演:ミンヨン ユンヨン 武藤英明 旦部辰徳 高原勇大 ほか
監督・脚本:佐々木昭一郎 撮影:吉田秀夫 音響:岩崎進 編集:松本哲夫 録音:仲田良平 音楽:後藤浩明
吹奏楽編曲:金山徹 助監督:黒川幸則 指揮:武藤英明 演奏:チェコ・フィルハーモニー管弦楽団、船橋市立船橋高等学校吹奏楽部 ピアノ:佐々木秋子 ギター:加藤早紀 音楽録音:村田崇夫、井口啓三
企画・プロデュース:はらだ たけひで 製作:山上徹二郎、佐々木昭一郎 製作:シグロ、SASAKI FILMS
製作協力:岩波ホール 配給:シグロ ©2014 SIGLO/SASAKIFILMS
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