佐々木 昭一郎 (映画監督)
映画『ミンヨン 倍音の法則』公開によせて
創りつづけるということ【2/4】
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2014年10月11日(土)より岩波ホール他 全国順次ロードショー
(聞き手・構成:佐野 亨)
佐々木丸、出航!
ミンヨンで映画をつくりたい。ただ、TVに売り込む気はないし、かといって映画の創り方なんかわからない。どうしようもなくて悶々としていたところ、岩波ホールで『ポー川のひかり』(06)というイタリア映画が上映され、「川の流れはバイオリンの音」のコーディネーターを務めた、クレモナ在住の石井髙さんから「観てほしい」と言われたんです。それで観に行ったら、「川の流れはバイオリンの音」の川岸の村人たちが出演していて、「このエルマンノ・オルミというやつは俺の作品を真似たんじゃないか」と思いもしましたが(笑)、キリスト教批評の映画としてよくできていました。そのあとで石井さんと遠藤利男さんが「佐々木昭一郎が『ポー川のひかり』をどうとらえるか楽しみだ」というメールをくれたんですが、そこに岩波ホールのはらだ(たけひで)さんのアドレスが書かれていたんです。それではらださんに感想をメールしたところ、びっくりした返事が来てね。どうやら僕が死んでいるものと思っていたらしい(笑)。はらださんは10代のときに「さすらい」を観て以来、僕の作品をずっと観てくれていたんですね。それでさっそくお会いしたところ、映画の企画の話をもらったんですよ。『被爆のマリア』という物語で、はらださんが長崎という土地に対する思いからずっと温めていた企画だったんです。僕は即座にこれはできないと思いました。それでもはらださんは山上(徹二郎)さんというプロデューサーを探し出してきて、映画を進めようとしていた。僕は僕でミンヨンで映画が撮れないかと考えていましたが、そんなこと言ったらスポンサーに逃げられちゃうから(笑)、そのときは黙っていたんです。
その後、撮影の吉田秀夫、音響の岩崎進、編集の松本哲夫というかつてのメンバーに声をかけたところ、「佐々木さんが映画をつくるなんてすごいことだ!」と言って参加を快諾してくれました。そして、山上さんも加わった企画会議の席で、初めてミンヨンのことを話したんです。そうしたら皆、喜んでくれてね。「主役がもう決まっているなんてすごい!」と。「佐々木丸、出航!」と盛り上がりました。
人生を賭けた映画づくり
実はそのときにはミンヨン本人の出演承諾は取りつけていなかったんですよ。ミンヨンが2006年に韓国へ帰国する際、僕に会いに来てくれたんですが、実はそのとき交換したメールアドレスに映画のストーリーを送っていたんです。「素晴らしい!」という返事をくれたので、僕は勝手に出演をOKしてくれたものと思い込んでいたんですね(笑)。彼女からしたら、まさか自分が主演だとは思ってもみなかったんでしょう。それでいざ本当に映画が動き出して、あらためて出演依頼をしたら、「ノー」という返事がかえってきた。ちょうど僕の親友が亡くなって、プラハでお葬式をしていた最中でした。それで「日本へ帰る途中にソウルへ寄るから、とにかく一度話を聞いてほしい」と彼女に頼み込んで、会いに行ったんです。ミンヨンは妹のユンヨンと一緒に出迎えてくれました。でも、映画出演に関しては、「いまインターンをやりながら卒論を進めていて、しかも就職に向けて活動しているところなので、全然時間がありません」と。「そこをなんとか……」と頼み込んで別れたんですが、10分もしないうちにメールが来て、「やっぱり無理です」と。落胆して日本へ帰ってきたんですが、あきらめきれずその後も何度かソウルに足を運びました。ソウルの就職戦線が大変なことになっているのは知っていたから申し訳ない気持ちもあるけれど、僕としてはなんとしても彼女で撮りたい、と。ほかの人を使うことは考えられなかったですね。はらださんや山上さんは代わりの人を見つけようといろいろ努力してくれたんですが。そのときには、僕はこの映画に人生を賭けるつもりでいました。とにかくミンヨンという素晴らしい人間を映画で見せたい、と。
それで、どうして断られたのだろうと僕なりに考えて、「そうだ、ご両親の顔を立てなければ」とまたソウルに飛んで、ミンヨンのお父さんにお会いしたんです。あれこれお話ししたあとにお父さんが「最後に決めるのは娘だ」とおっしゃった。それでいったん家族で話し合ってもらい、翌朝ホテルで会ったんですが、やはり「無理です」と断られてしまった。それでもあきらめず、何日か経ったあとに手紙を書いて、もういちど会いに行きました。そのときにはお父さんは僕の味方になってくれていたんです。それで二人で話したあと、お父さんはまた「家へ帰って相談します。返事は明日までお待ちください」と。翌日ホテルの部屋で悶々としながら待っていたら、ご両親二人がロビーにやって来て、「佐々木さん、娘はOKしてくれました」とおっしゃった。本当に嬉しくて、心のなかでバンザイしましたね。それで家族そろって日本へ来てくれることになり、妹のユンヨンも映画に出てくれることになりました。
出演:ミンヨン ユンヨン 武藤英明 旦部辰徳 高原勇大 ほか
監督・脚本:佐々木昭一郎 撮影:吉田秀夫 音響:岩崎進 編集:松本哲夫 録音:仲田良平 音楽:後藤浩明
吹奏楽編曲:金山徹 助監督:黒川幸則 指揮:武藤英明 演奏:チェコ・フィルハーモニー管弦楽団、船橋市立船橋高等学校吹奏楽部 ピアノ:佐々木秋子 ギター:加藤早紀 音楽録音:村田崇夫、井口啓三
企画・プロデュース:はらだ たけひで 製作:山上徹二郎、佐々木昭一郎 製作:シグロ、SASAKI FILMS
製作協力:岩波ホール 配給:シグロ ©2014 SIGLO/SASAKIFILMS
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