佐々木 昭一郎 (映画監督)
映画『ミンヨン 倍音の法則』公開によせて
創りつづけるということ
▶公式サイト ▶公式twitter ▶公式Facebook
2014年10月11日(土)より岩波ホール他 全国順次ロードショー
(聞き手・構成:佐野 亨)
佐々木 昭一郎
立教大学経済学部卒業後、1960年にNHKに入局。ラジオドラマの演出を手がけ、66年に寺山修司脚本の『コメット・イケヤ』でイタリア賞グランプリ、『おはよう、インディア』で芸術祭大賞を受賞。その後、テレビドラマ部へ。『マザー』『夢の島少女』『四季・ユートピアノ』などの作品を発表し、国内外の賞を多数受賞。
ミンヨンという大いなる知性との出会い
今回の映画づくりのきっかけは、ミンヨンに出会ったことです。僕はその直前まで、もう映像の世界から足を洗おうと思っていたんですよ。どこでもそうですが、いまの社会では会社組織を辞めたら、ただの人になってしまう。それで過去にもらった賞状やトロフィーの類は全部捨てて、大学の先生になったんですが、心のどこかに作品をつくりたいという気持ちがあったことはたしかです。新作のシナリオはいつも頭のなかで書いていました。
そんななか、1990年代後半くらいから、あちこちで上映会が頻繁に開かれるようになったんです。2001年には多摩映画祭で「RESPECT佐々木昭一郎」という大々的な回顧上映がおこなわれ、是枝裕和さんと対談しました。そのときの対談のシメで是枝さんが「新作を期待します」とおっしゃったんですが、私としてはすでに映像の世界から離れて、まったく違う人間になってしまったという認識があるので、きっぱり「もうつくりません」とお答えしたんです。それでも会場から盛大な拍手が沸き起こったので、思わず「じゃあ、つくります」と嘘をついてしまったんですが(笑)。
宣言したからには作品をつくりたいけれど、さて、どうしたらいいかわからない。そんなときミンヨンに出会ったんです。2004年のことでした。彼女は早稲田大学の政治経済学部の留学生で、高橋世織さんのゼミでおこなった「夢の島少女」の上映を手伝っていました。同じ年に横浜の放送ライブラリーで今野勉さんの企画で開催された上映会があったんですが、そこに政経学部の中島奨くんという青年が観客として来ていて、「佐々木さんの『夢の島少女』を高校生のときに観て、大変感銘を受けました」と真剣な顔つきで言われたんです。それで同年暮れに早稲田で上映会をすることになり、その会場でミンヨンと出会いました。上映が終わったあと、彼女が質問をしたんですが、その声の響き、日本語の美しさにとても感心したんです。さらにそのあとゼミ生たちと移動した近くの喫茶店で、彼女の話を聞きました。ミンヨンは小学生のときから日本で暮らしていて、「日本に来て、周りの同級生が自分の判断で物事を決めていることに驚きました。私はそれまで神様に相談して物事を決めていたんです。以来、私も自分の判断で物事を決めるようになりました。だから日本人には感謝しています」という話をしたんです。なんて頭がよくて、温かい人なんだろうと思いました。大げさに言えば、母なる偉大さというか、大いなる知性を持った人だなと。これは中尾(幸世)さんも含め、いままで経験したことのない感覚でした。
出演:ミンヨン ユンヨン 武藤英明 旦部辰徳 高原勇大 ほか
監督・脚本:佐々木昭一郎 撮影:吉田秀夫 音響:岩崎進 編集:松本哲夫 録音:仲田良平 音楽:後藤浩明
吹奏楽編曲:金山徹 助監督:黒川幸則 指揮:武藤英明 演奏:チェコ・フィルハーモニー管弦楽団、船橋市立船橋高等学校吹奏楽部 ピアノ:佐々木秋子 ギター:加藤早紀 音楽録音:村田崇夫、井口啓三
企画・プロデュース:はらだ たけひで 製作:山上徹二郎、佐々木昭一郎 製作:シグロ、SASAKI FILMS
製作協力:岩波ホール 配給:シグロ ©2014 SIGLO/SASAKIFILMS
▶公式サイト ▶公式twitter ▶公式Facebook