金馬奨 主演女優賞を史上最年少受賞
金馬奨審査員長アン・リー監督が “天才” と呼んだ オードリー・リン主演
トラブル・ガール
2025年1月17日(金)よりシネマート新宿他にて全国公開
ADHD の少女シャオシャオと、周囲の人々を繊細かつ現実的に描いたヒューマンドラマ
自分だけの世界を持ち生きる少女、シャオシャオ。
学校では、孤立しクラスメートからいじめを受けている。
家では、母親から厄介者扱いされ、海外で働く父親は不在がちで、身近な存在でありながら他人のよう。そんな彼女の感情を理解し和らげてくれるのは、担任のポール先生だけだった。
しかし、ある嵐の日、彼女は母親とポールが不倫していることを知ってしまう。シャオシャオは困惑しながらも、複雑な関係に適応しようとするが――。
ADHD の少女シャオシャオと、彼女を取り巻く人々を繊細かつ現実的に描き出したヒューマンドラマ。 監督は、テレビ映画『A Cold Summer Day(英題)』で第 54 回金鐘奨脚本賞を受賞したジン・ジアフア。 新進気鋭の監督が、「普通の子どもたちよりも一見強く見られてしまう、シャオシャオのような子どもたちへも関心が集まり、理解される」ことを願いながら、初の長編に挑んだ。
主演に抜擢されたのは『アメリカから来た少女』のオードリー・リン。感情を抑えるのが苦手な少女シャオシャオを演じ切り、歴代最年少の 12 歳で金馬奨主演女優賞に輝いた。その母親を演じたのは、『悲しみより、もっと悲しい物語』の台湾の人気女優アイヴィー・チェン。不在がちな父親と問題ばかり起こす娘に悩まされる母親という難役を全うし、今作で金馬獎の最優秀助演女優賞にノミネート、台北映画祭で受賞を果たした。そして、担任の英語教師ポールを、国内外で実力が高く評価されている香港の若手俳優テレンス・ラウが演じる。『Beyond the Dream(英題)』にて第 57 回金馬獎最優秀新人賞のノミネートを受けた、今注目の新世代俳優だ。本作は第 60 回金馬奨にて最優秀主演女優賞を史上最年少で受賞、 6 部門にノミネートされるなど、各国の映画祭で注目を集めた話題作。
――映画監督を目指されたきっかけはどのようなものでしたか?
©Taipei Golden Horse Film Festival Executive Committee最初にそのような考えを持ったのは、高校の演劇部で寺山修司監督の『田園に死す』を観たときでした。内容を完全には理解できなかったものの、自由や反抗的といったものが持つ美しさに触れたことで、その後の人生にも何かしらの影響がありました。それはもうずいぶん前の話ではありますが、素晴らしい作品は時空を超えて人々の心に残るものです。そしてこれが、長年広告ディレクターとして活動する中でも脚本を書くことを諦めなかった理由でもあります。何かを残せたらいいな、と思い続けていました。今では機材の進化により、映画制作の可能性や利便性が広がりましたが、心に残る良い作品はそういったことに左右されません。それらは美しいほどのシンプルさを持ち、そこから生み出される崇高さこそが、遠い存在でありながらも、憧れを抱かせるのです。
――監督にとって初長編作となる本作ですが、 ADHD の少女について描こうと思った理由を教えてください。また製作にあたり、なにか参考にした、影響を受けた作品はありますか?
これは、私が初めて完成させた長編脚本です。執筆したのは、ちょうど子どもが小学校に上がった頃で、子どもが集団にどう溶け込んでいくかという過程が、当時の私にとって身近な体験であったと同時に、社会を理解するための拡大鏡のように感じられました。 ADHD の特徴の 1 つとして、医学界でそれが「病気」と呼べるのか議論が続いているという点があります。これはまるで『裸の王様』のように、周囲の人々が真実を無視するような様子を浮き彫りにしています。
脚本を練り上げる過程で、ダルデンヌ兄弟の映画や相米慎二の見事な長回しからも多くのインスピレーションを得ました。
――母と子どもの関係、そして教師ポールとの 3 人の関係を描く際に、大切にされていたことはありますか?
母娘はお互い鏡のような存在です。 ADHD の少女を演じたオードリー・リンは実際にはとても落ち着いており、一方で母親役のアイヴィー・チェンはエネルギー溢れる俳優です。
2 人の気質を入れ替えても物語は成立しますが、この組み合わせであることで、問題を抱えているのは子どもなのか、それとも周りの人々なのかを客観的に考えさせられます。教師は第三者でありながら母娘の問題を解決することは出来ず、むしろ自分自身の方がより多くの問題に悩まされているかもしれません。最初のプールのシーンで、教師は少女に泳ぎ方を教える際に嘘をつきますが、少女は結果的にそのおかげで泳ぎ方を習得します。これは、私たちが教育を受ける過程が、ある意味で嘘に順応する状態であることへの暗示でもあります。この物語は、教育システムの中ではみ出し者となった 3 人が家族を築こうとし、互いに温め合いますが、最終的には失敗に終わってしまうのです。
――主演のオードリー・リンさんは、オーディションで 200 人ほどの中から抜擢されたとのことですが、決め手は何だったのでしょうか。また、映画出演 2 作品目にして金馬奨の主演女優賞史上最年少受賞されたことで話題になりましたが、演技に関して監督からアドバイスされたことはありますか?
わたしたちは、多くの児童劇団やアマチュアの方々の中から探して、シャオシャオのクラスメイトを演じるにふさわしい才能のある子どもたちを見つけました。シャオシャオ役は、その後に金馬映画祭で遠くからオードリー・リンの姿を見かけ、「この子だ!」と直感で思いました。彼女は ADHD についてたくさんの本を読み、理解しようとしました。その時はちょうどパンデミックの期間で、私は彼女に ADHD の子どもたちに関する情報をいくつか送ったりしました。そして彼女は生活習慣を変えるために努力をしました。自分の部屋を ADHD の人々が実際に暮らすような部屋に変えたり、数日おきに私とビデオ通話で話し合ったり、また歯を磨きながら他のことを同時にしようと試みるなど、生活習慣を変えるために努力し続けました。彼女は準備も撮影も、いつも非常に集中して取り組んでいました。彼女の努力と才能が、今回の栄誉を勝ち取ることにつながったのです。
――撮影時に一番印象に残ったシーン、また撮影時のエピソードについてお聞かせください。
私は特に、シャオシャオが母親に学校から家に連れ戻されて叱られるシーンが好きです。母と娘は会話をしながらそれぞれ手に持った物で音を立てるのですが、その音が会話の中で自然に調和のとれたリズムを作ります。 2 人は口論しているはずなのに、その音がまるで和解しているかのように響くのです。これは偶然生まれたもので、意図した演出ではありませんでした。
――今作では、複雑な親子関係の他、台湾の夫婦関係や教育など様々な問題に切り込まれている印象を受けました。映画を作るにあたって監督が大切にされていることや、今後描きたいことなど、差支え無い範囲でお話頂けますでしょうか。
キャラクターを大切にしています。今は映画にとって危機的な時代であり、音や光の効果で観客を映画館に引き戻すことはできないかもしれませんが、最終的に観客はやはり登場人物に引き寄せられて、物語に戻ってくると思っています。最初に『田園に死す』に魅了された私としては、どんなにメディア環境が変わっても、映画が自由であり続けることを願っています。パンデミック後、女性の状況や困難についての議論がより注目されるようになったので、今後は女性に関する題材の映画をもっと撮ろうと考えています。
ありがとう!