『サイド・バイ・サイド:フィルムからデジタルへ』イベントレポート
『桐島』をデジタルで撮った吉田監督と、
『苦役列車』をフィルムで撮った山下監督白熱トーク
「〈カニカマ感〉の強い昔のビデオカメラは、ずっと観ていられるのが怖かった」(吉田大八監督)
「デジタルになればなるほど、偶然を自分で作り出していかなければいけない」(山下敦弘監督)
キアヌ・リーブスが製作総指揮を務め、映画のデジタル化を巡る問題をハリウッドの著名映画監督やスタッフに聞き、シネマの未来を探るドキュメンタリー『サイド・バイ・サイド:フィルムからデジタルシネマへ』が現在公開中。1月11日 (金)渋谷アップリンク・ファクトリーにおいて吉田大八監督、山下敦弘監督を迎えてのトークイベントが開催された。
昨年大ヒットを記録した『桐島、部活やめるってよ』では、ALEXA そして REDというデジタルカメラで撮影をしながら、8ミリカメラにこだわる映画部を描いた吉田監督。一方、山下監督は『マイ・バック・ページ』そして最新作の『苦役列車』を16ミリでのフィルム撮影で挑んでいる。
吉田監督は『桐島』のなかで神木隆之介演じる映画部の主人公が、ビデオよりもフィルムがいいことを力説するシーンについて「あれは、神木くんもなぜフィルムがいいか分からないんです。何かこだわりを拠り所にしないと自分を保てないとこがある人物として考えている。でも、僕はそれをビデオで撮ってますからね」と笑い、「僕としてはフィルムとデジタルどっちでもいいと思ってるんです」と明かした。
それに対し山下監督は「カメラよりも映写の面でデジタル化の影響は大きい」と上映面での急激なデジタル化にとまどいながらも、「『苦役列車』をフィルムと DCPでの上映を観比べて、フィルムのほうがまろやかな感じがした。フィルムの質感で救われているところもあった」と自身の経験を語り、「カメラが小さくなって威圧感がなくなれば、役者の緊張感は変わってくるかもしれない」と演出面での変化についても解説した。
また編集作業については「フィルムはひとつのカット割りを決めるのにすごく時間がかかったけれど、デジタルはとりあえずやってみよう、とアイディアをいろいろ試せる」(山下)、「プリントでの編集は、ひとつの決定が重い。『サイド・バイ・サイド』で『選択肢が増えるのは最悪だ』という言葉があったけれど、ほんとうにそう思う」(吉田)と、デジタルの機動力が一長一短であることをそれぞれ述べた。
フィルムかデジタルかは、信頼の置けるカメラマンが薦めてくれるものを選ぶというスタンスだという吉田監督は 「はっきりと『これはカニじゃない』と分かるカニカマのような、〈カニカマ感〉の強い昔のビデオカメラであったら、観客にずっと観ていられるのが怖かったので、できるだけカットを細かく割ろうとしたり、カメラを振り回そうと思ったこともありました」と振り返った。長く活動してきた CMの世界でも、主流は 35ミリからビデオに移行しており、それでもフィルムで撮るためにプロデューサーを説得する理由として「前後の CMを出し抜きたいから。映画は一度観客を引込めばいいけれど、CMは連続しているので、ひとつフィルムが挟って絵のトーンが変わることで、見ている人に強い印象を与えることができる」と証言した。
また山下監督は「常に完璧に作りたいと思っているけれど、デジタルになればなるほど偶然を自分で作り出していかなければいけない」とフィルムでの制作が経験値としても現在の糧になっていると発言。フィルム派/デジタル派と単純に二極化して語ることのできない、両監督の映画に対する複雑かつ深い思いが語られた夜となった。
『サイド・バイ・サイド:フィルムからデジタルシネマへ』
キアヌ・リーブスが企画製作しナビゲーターを務めるシネマの現在と未来を探るドキュメンタリー。
【作品紹介】 およそ 100 年間の映画史において、唯一の記録フォーマットはフィルムだった。だが、過去 20 年間のデジタルシネマの台頭により、今やフィルムは消えつつある。本作は、デジタルとアナログが肩を並べ──side by sideで──併存する現在を俯瞰しながら、映画におけるデジタル革命を検証していく。これは、「デジタルシネマ」の未来についての映画ではなく、モノクロからカラーへ、サイレントからトーキーへと、技術とともに変化し続ける「シネマの未来」の映画である。
監督:クリス・ケニーリー
プロデューサー:キアヌ・リーブス、ジャスティン・スラザ 撮影監督:クリス・キャシディ
出演:キアヌ・リーブス、マーティン・スコセッシ、ジョージ・ルーカス、ジェームズ・キャメロン、デヴィッド・フィンチャー、デヴィッド・リンチ、クリストファー・ノーラン、スティーヴン・ソダーバーグ、ラナ&アンディ・ウォシャウスキー、ラース・フォン・トリアー、ダニー・ボイル、ウォルター・マーチ、ヴィットリオ・ストラーロ、レナ・ダナム、ほか
配給・宣伝:アップリンク (2012 年/アメリカ/99 分/HD/16:9/5.1ch)
©2012 Company Films LLC all rights reserved.
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渋谷アップリンク、新宿シネマカリテにて公開中、全国順次公開
- 監督:山下敦弘
- 出演:森山未來, 高良健吾, 前田敦子
- 発売日:2013/01/11
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- 監督:吉田大八
- 出演:神木隆之介, 橋本愛, 大後寿々花
- 発売日:2013/02/15
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