インタビュー
片山享監督/『轟音』

片山 享 (監督)
映画『轟音』について【1/4】

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2020年2月15日(土)より池袋シネマロサにて単独公開ほか順次全国公開

インディ系映画からテレビドラマやメジャー作品まで、俳優として幅広い活動を重ねてきた片山享の初の長編監督作品『轟音』が、2月15日より池袋シネマ・ロサ他にて公開される。出身地である福井を舞台に、兄の犯罪によって家族が崩壊し、自暴自棄になった青年と、社会から見捨てられ暴力の世界で生きる浮浪者との交流を通して、複雑で繊細な人間の姿を見せる渾身のヒューマンドラマだ。主演は、盟友であり、話題作『1人のダンス』の監督も務めた安楽涼。俳優発信の映画が日本映画界を豊かにしていく嬉しい予感とともに、ぜひ多くの人に観てほしい。片山享監督にお話をうかがった。 (取材:深谷直子)
片山 享 1980年福井県鯖江市生まれ。大学卒業後から俳優活動を始める。主にインディーズ、単館系映画にて多く出演を重ね、主演も果たしている。舞台では賞レースを賑わせたトラッシュマスターズに多く客演。安定感のある演技力を武器に着実にメジャー作品にも進出しつつある。これまで監督した短編映画は国内の多数の映画祭で評価され、2019年に公開された『1人のダンス』(監督:安楽涼)では脚本を務める。近年の主な出演作は『22年目の告白-私が殺人犯です-』(監督:入江悠)、『リングサイド・ストーリー』(監督:武正晴)、『DEVOTE』主演(監督:田島基博)
作品歴 (監督作品) ■短編映画『いっちょらい』25min ※福井駅前短編映画祭スピンオフ作品、長岡インディーズムービーコレクション / 準グランプリ、はままつ映画祭2018 上映 『名操縦士』8min ※長岡インディーズムービーコレクション / 監督賞、立川名画座通り映画祭 / 審査員特別賞
STORY ある日、誠(安楽涼)の兄が犯罪を犯した。それを苦にした父は自殺し、誠は母親に助けを求めたが、母は助けてはくれなかった。誠は家を飛び出し、自分を傷つけてくれるものを探した。そして、一人の浮浪者に出会う。彼との出会いをきっかけに、誠の生と向き合う音が静かに響き始める。
片山享監督画像1 『轟音』画像画像1
――片山監督の初めての長編監督作は、監督の出身地である福井を舞台に、地方の閉塞感の中でもがく人々を描いた濃密な人間ドラマになりました。ストーリーの着想は?

片山 いろいろあるんですけど、まず僕はご当地映画があまり好きではなくて。というのは、土地のいいところだけを描いてもよさは伝わらないんじゃないのかな?と。地元の人が参加したりお金を出してくれるとなると暗い部分はなかなか描けないんですけど、でもそれをしないと地方のよさというのは見えてこないと思うんです。この映画には、福井の悪いところというか、自分が福井に住んでいたときに経験してきたこともたくさん入っているんですが、そういうのを入れて話を作ろうと思ったのが書き始めです。また、僕は”普通賛美”で、普通がいちばん幸せだなと思っていて。普段の生活の中ではそんなことは感じないけど、風邪をひいたり怪我したときに「早く治りたいな」と思うのは、イコール「普通に戻りたいな」ということで、普通って実は愛おしいことなんですよね。生きているだけで素晴らしい、それを描きたいと思ったんですが、でも当たり前のことをいいと伝えるには、逆に振り切らないと伝わらない気がしたんです。

――普通が実は幸せなことだということには、震災を経験したことで多くの人が気づいたと思うんですが、監督がそういう考えを持つことになったきっかけはどんなものだったんですか?

片山 明確には覚えていないですけど、昔からですね。僕が25歳のときに両親が病気になって、地元福井から東京に連れてきたことも大きいかもしれません。親にしたら50年以上も暮らしていた故郷を離れるのは大変なことで、そのときにいろいろありました。いろんな見たくないものを見ました。いろんな体験もしました。でも、誰も死ななかったんです。そのとき「生きていればなんとかなるんだな、人間ってすごいな」とすごく思いました。それがすごく大きいかもしれないです。

――主人公の誠や浮浪者の男も家族に対してそれぞれの想いを抱えていますね。他の作品でも、介護など家族の問題を描いているものが多いようですが。

片山 そうですね。でもそれをテーマにして撮り続けているというわけでもないです。まだ監督をやり始めて2年ですから必死です。だから2年で12本映画を撮りました。ただでさえ監督を始めたのが遅いので、経験を積まなきゃと思って。

――2年で12本はすごいですね。俳優から監督へというキャリアも興味深いです。まず俳優になろうとしたのはなぜですか?

片山 変な話で恥ずかしいんですけど、役者にはもともとなるもんだと思っていたという。なぜそんなことを思うようになったのか、その理由がよくわからないんですが、もう小学生のときから決まってて、「自分は東京に出て役者になるんだ」と思ってました。

『轟音』画像画像2 『轟音』場面画像3
――天職だと(笑)。テレビ俳優とか映画俳優とかの具体的なイメージはあったんでしょうか?

片山 まったくないですね。特に映画を観ていた少年というわけでもなかったですし。親父は映画好きでしたけどね。始まりが唯一あるとしたら、まあどうでもいいんですけど、僕が保育園児だったころ「太陽にほえろ!」の渡辺徹さんに似ていたらしくて、母親から「俳優さんにでもなったらいいのにね」と言われた記憶がなんとなくあるのでそれかなと。母は適当に言っていただけだと思いますけど。福井の山あいの片田舎に住んでいたわけですからそんなの別世界で。でも僕は俳優になることに何の疑問も持っていなかったんです。

――ずっと役者一筋で、そこからスムーズになれたんでしょうか?

片山 いえいえ。いまだに大変ですけど、最初のころなんて鳴かず飛ばずで。養成所に入って、その終わりぎわ、23歳ぐらいのときに自分で自分の営業をし始めて、そこから何となく仕事がもらえるようになりました。自主映画に初めて出たときに編集する人がいなくて、「お前はセンスがある。やってみろ」と、まあ適当にだと思うんですけど言われて、それでやってみたら「あ、これ向いているな」と。そこから俳優部と編集部の仕事を並行してやるというわけのわからない活動の仕方をしているんです。まったくの独学ですけど、編集も16年ぐらいしています。

――そうなんですか。確かに『轟音』は編集のセンスが光る作品だと思います。そこから監督をすることになったのは?

片山 役者でこのままやっていけるなと思っていた時期もあったんですよね。いろいろ仕事が来て、「この映画にこの番手で出れたんだ」とかいうのがあったんですけど、35歳のときに「自分の年齢を倍にしたら70だな」と思って。35年なんてあっという間だったから、あと一度これを繰り返したらもうあんまりあとがないぐらいまで行ってしまうんだな……と考えたら、好きなことをやろうという気持ちが湧いて。それと、この映画の主演の安楽涼が僕より1年半早く監督を始めて、「あいつが始めたんだ」というのもどこかであったんだと思います。編集のソフトをあげたりして一緒にいろいろやっていたんですが、自分も監督をやりたいというのがあったから。安楽とは7年ぐらい前に舞台で共演して知り合ったんです。その舞台が終わった次の日から僕は映画の現場があったんですが、キャストがもう1人必要になったので安楽を紹介して。その監督の佐々木友紀と僕はもともと仲がよかったんですが、安楽も仲がよくなって、彼の作品に一緒に出たりしました。その後、佐々木は海外に行ってしまったんですが、彼のことは天才だと思っていて、彼がいなかったら僕も安楽も監督をやっていなかったかもしれません。

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轟音 (2019/日本/99分/カラー/16:9/ステレオ/DCP)
出演:安楽涼,太田美恵,大宮将司,岸茉莉,中山卓也,柳谷一成,松林慎司,片山享,宮田和夫 他
プロデューサー:夏井祐矢・宮田耕輔 撮影/照明:深谷祐次 録音:マツバラカオリ
特殊メイク:北風敬子 サウンドディレクター:三井慎介 カラリスト:安楽涼
監督・脚本・編集:片山享
© Ryo Katayama Film
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2020年2月15日(土)池袋シネマロサにて単独公開
ほか順次全国公開

2020/02/13/17:41 | トラックバック (0)
深谷直子 ,インタビュー

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