PFF アワード 2020 で 審査員特別賞 受賞
頭痛が痛い
勝手に測り、測られる 「死にたさ」の度合い
それぞれの「死にたさ」を擦り合わせようとする 少女同士が
心と傷の手当てをし、支え合う、シスターフッド ロード ムービー
2022年6月3日(金)よりアップリンク吉祥寺にて 他全国順次公開
「死にたい」って軽々しく使う奴がいるせいで
こういう声が埋もれちゃうんだよ
東京五輪に向けた新国立競技場の建設が進む 2018 年の東京。不登校気味の高校生・鳴海(せとらえと)はライブ配信を行うことにより、行き場の無さを埋めようとする。鳴海の同級生・いく(阿部百衣子)はいつも明るく振る舞う反面、形容しがたい憂鬱な気持ちを吐き出せずにいた。ある日いくは、梶井基次郎の『檸檬』のように、自分の遺書を赤の他人の家に投函することで憂鬱を晴らそうとする。その遺書を読んだ鳴海と、フリージャーナリストの直樹(鐘ヶ江佳太)は、いくが発する SOSを感じ……。
監督は、第 28 回新人シナリオコンクールに『幸福な LINE』に佳作 1 位に入選した守田悠人。本作は初監督作品となり、映画監督の登竜門であるぴあフィルムフェスティバルの PFF アワード 2020 で審査員特別賞を受賞した。審査講評では、画家・平松麻に「守田監督はいつもいくと鳴海の横にいるように私には見えました。ひとのいたみを分かったつもりでやり過ごしてしまう危うさに守田監督は向き合っていたのだと思います。」と評された。
いく役を、本作で映画デビューの阿部百衣子、鳴海役をフリーランスのモデル・俳優の せとらえと。いくの遺書を読み、正義感に突き動かされるフリージャーナリスト・直樹役を、『 JOINT 』の鐘ヶ江佳太。他、山本華世子、杉山宗賢、大友久志、ナツメが脇を固める。
――本作制作のきっかけをお教えください。
本作は、 2018 年に大学 4 年の時に作ったんですけれど、当時、高校生がライブ配信中に線路に飛び込むということが起きて、彼女の過去の配信映像だとかがネット上で拡散されました。その一連を見たときに自分の中に漂ってきたものをうやむやにしたくないと思いました。10 年後の自分がこのテーマで撮れるかわからないですし、「今しか撮れない」と思って撮りました。
――タイトルの「頭痛が痛い」に込めた想いをお教えください。
ちぐはぐな痛みというのを描きたくてこの映画を作りました。例えば、自分のしんどさを伝えたい時に「今、頭痛が痛くてしんどいんだよ」って言っても、「『頭痛が痛い』って言葉の使い方が間違っている」と言われて、まともに取り合ってもらえない。でも、こっちとしては今の自分のしんどさを他の言葉で形容できない、「頭痛が痛い」としか言えない、という、他人とのわかりあえなさや矛盾した痛みを含んだタイトルがいいなと思いました。
――いくと鳴海がさっきまでいたのに、次の瞬間いなくなっているというシーンがあって、命の儚さなどを感じましたが込めた想いはありますか?
ジャンプカットはラスト手前の、屋上に立つ誰かの足が不意に消えるというシーンにもリンクさせているんですけれど、雑踏の中でさっきまでそこに居た誰かが不意に消えていても認識できないのと同じように、人がこの世から消えてゆくことを認識できないですし、そのスピード感についていけない、処理が追いつかない、という感覚で使いました。
――いくの家のシーンがなかったりと、いくの境遇の描写が省かれている理由を教えてください。
「誰でも抱えうる憂鬱を持っている子」という風にしたく、原因を描いてそれと紐付けたくなかったというのが一番の理由です。
――いくの「私は死にたいんだと思うと、妙に腑に落ちて楽になる」というセリフがありますが、監督もそう思ったことがあるんですか?
僕もありますし、厳密に言うと僕はちょっと違う感じなんですけど、みんなそれぞれ憂鬱に対処する儀式みたいなものがあるんじゃないかなと思っています。僕の身の回りにいる人で、毎日「死にたい」と言いながらすごく健康的に生きている人がいて、めちゃくちゃかっこいいと思うので、それを肯定するためにこのセリフを書いたんだと思います。
――いく役を阿部百衣子さん、鳴海役をせとらえとさんをキャスティングした理由をお教えください。
阿部さんとせとらさんに共通するのは、オーディションで「この人のことを知りたい」と思ったからです。オーディションの際に、全員の方に「死にたいと思ったことはありますか?」という質問をしたんですが、阿部さんの答え方は、「皆あるんじゃないんですかね〜」と自分に当てられた焦点をすり変えているような交わし方をされたので、阿部さんという人間に興味が湧きました。せとらさんは、入ってきた瞬間の挙動が印象的で、ヒョウ柄のボトムスとすけすけのシャツを着ていたのも相まって、映画のオーディションに来る人ではない異様な感じがしました。それまで漠然としたイメージだった鳴海が、実際にせとらさんを見て、この子が鳴海だったんだと思いました。
――女子高生二人だけでも映画は成り立ったとは思いますが、フリージャーナリストの直樹の役を作った理由をお教えください。
いくが遺書という爆弾をばら撒くんですけれど、受け取った側にどう作用するかを描くと、爆弾に奥行きが出ると思いました。それで正義感が空回って欲しい、そういう存在が欲しいと思って、直樹のキャラクターを構築しました。
――撮影時のエピソードを教えてください。
いくのラブホでの援助交際のシーンはしんどい描写だったんですけれど、本番でカメラを回している最中に、いくの姿を見ながら「あ〜」と声が漏れてしまい、 NG を出したことがありました。
――本作の見どころはどこだと思いますか?
主演の 2 人のお芝居や、 2 人が持つそれぞれの強さ、いくと鳴海の関係性を見て欲しいです。
――読者にメッセージをお願いします。
自主映画で至らない部分もたくさんあると思うんですけれど、2018年の自分ができる限りリアルを全部吐き出して作った映画なので、ぜひ劇場で観ていただきたいです。
脚本・監督:守田悠人
プロデューサー:佐藤形而 撮影・照明:田中丈尊 録音:五十嵐猛吏 音楽:大村知也
編集:小本菜々香 助監督:佐藤形而,阿部友馬 特殊メイク:柳川夏子
配給:アルミード ©KAMO FILMS
2020/日本/カラー /16:9/2ch/108 分