山下 泰司 (Blu-ray/DVD制作ディレクター)
映画『ノスタルジア』ブルーレイ版について【4/5】
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(インタビュー取材:飯塚克味 取材企画:わたなべりんたろう)
――最後に山下さんから『ノスタルジア』ブルーレイのどんなところを見て欲しいですか?
まずはタルコフスキーの映像に耽溺していただければと思います。これまでにビデオソフトとして発売された『ノスタルジア』の中ではこれが最もフィルムにあった情報をすくい取ったものであることは間違いありません。まあ、以前のはそもそもHDじゃないんだから当然と言えば当然ですが(笑)。でも、今回の撮影監督ジュゼッペ・ランチが監修したマスターは、最初見た時、あまりに色が薄いんでビックリしたんですよね。何かの間違いじゃないか?と思うくらい彩度が低い。昔のDVDを見ると色はガッツリ乗っているし、YouTubeで「Nostalghia Tarkovsky」で検索すると、いろんな国から非合法で上がってるものがたくさん出てくるんですが(笑)、そのサムネールを眺めると面白い。全部、色が違っていて、すごくアメリカっぽい色彩のもあったり。いろんな色彩のプリントがあり、それをビデオに変換する際にまたいろんな加工がされちゃってる。
今回のマスターの彩度の低さは明らかにジュゼッペ・ランチのなんらかの意図でそうなってる、ということは感じていたんですが、ブックレットの入稿後にネットで見つけた彼のインタビューでやっとその理由が分かった。その内容はブログに翻訳したので読んでください。つまり、イタリアでは公開時のプリントに「銀残し」のような手法を使っていて、それをやるとコントラストは強くなるけど、色彩は弱くなる。もちろんそれはタルコフスキーとの相談の上で選んだことでしょう。しかし、当時イタリア国外で公開されたプリントまでがそうなっていたかどうかは分かりません。30年も前に自分が劇場で観た時の記憶なんてアテになりませんが、そんなにモノトーンだった印象はないので、違っていたんじゃないでしょうか。なので、今回のブルーレイが、撮影監督がタルコフスキーが決めた質感を初めて日本の皆さんにご覧頂ける機会かもしれない。すごくドライな画なんだけど、単に色が無いということではなくて、ちゃんとしたコントラストもあるし、透明感を感じるんですね。それはロシア時代の『鏡』(IVCさんから出ているこのブルーレイも素晴らしい画質です)のようにむせ返るように濃密な、暖かい色彩とはまったく違う。故郷を離れた主人公=タルコフスキー自身のどこか寒々しい、刺々しくなってしまった気持ちに呼応するルックです。そんな、これまで見たことの無いような、『ノスタルジア』の本来の姿を確認できるのがこのブルーレイだと言っていいと思います。
あと、タルコフスキー映画ではついつい映像の話ばっかりになっちゃうことが多いんだけど、実は役者さんの見た目の造型、演技も素晴らしいんですね。『ノスタルジア』もメインの3人、どれもいいんだけど、やはり主役のオレーグ・ヤンコフスキーは味わい深い。回想シーンから現実に戻る際にふっと寂しそうな表情を見せたりするところなんか見事です。この人、タルコフスキーのお父さんの若い頃の写真によく似てるんですよ。髪型なんかも敢えて似せてるんだと思います。
発売元:IMAGICA TV 販売:㈱KADOKAWA 角川書店 ブルーレイ 4800円(税抜) DVD 3800円(税抜)
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