山下泰司さん/『ノスタルジア』ブルーレイ版

山下 泰司 (Blu-ray/DVD制作ディレクター)
映画『ノスタルジア』ブルーレイ版について【2/5】

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(インタビュー取材:飯塚克味 取材企画:わたなべりんたろう)

――山下氏とタルコフスキーとの出会いは?

『ノスタルジア』場面1僕は山口県にいた映画少年だったのですが、月に一度、病気の診察で博多に行くことがあり(子どもの頃から慢性中耳炎で今はもう右耳がほとんど聞こえないんです)、中洲の名画座で、ある日『惑星ソラリス』とジョン・ランディスのコメディ『ケンタッキー・フライド・ムービー』という(笑)、ある意味とんでもない組み合わせの二本立てで上映していた。それが初体験です。岩波ホールのパンフレットも売っていて東京の香りを嗅いだりして。『惑星ソラリス』、長かったけど、ラストはやっぱり『ウオーッ』ってなりましたよね。その後は東京に出てきて映画学生をやってたんで、名画座で『ストーカー』と『』の二本立てを観たりとか、千石にあった三百人劇場の『ロシア映画の全貌』、毎年のようにやってましたよね? そういうところで『アンドレイ・ルブリョフ』を観てすげえなあ、とか。上映時間の半分くらいは寝てたかもしれないけど(笑)、やっぱり画作りは凄いし、長回しとか、ビリビリきましたねえ。

ノスタルジア』は初公開の時にシネヴィヴァン六本木で観てます。やはりあのカメラが引いていくラストは強烈に印象に残ってる。あれは『ソラリス』のエンディングと同じアプローチだけど、もっと高度な表現になってる。その前の9分間ワンカットのロウソクのところも、息を詰めて見るような緊張感でね。あれをいったい何テイク撮ってOKになったんだろうとか、見終わってから考えたりして。当時、タルコフスキーの言わんとすることを理解できていたかどうかは分からないし、今も大して分かってないのかもしれないけど、強烈な映画的体験をしたという満足感だけは確実にあった。『考えるな、感じろ』的な。あの頃、よくいたんですよね。『寝たけど凄い映画だった』って堂々と語る人が(笑)。

これ言うと熱烈なファンの方から怒られちゃうだろうけど、タルコフスキーって今でいう『中二病』の王様みたいな人だと思うんです。彼の映画をしかつめらしく語る人は多いし、彼も実際、思索の深い人ではあったとは思うけど、でもその前にまず、映像ありき。人が見たこともないようなケレン味たっぷりの画を作って、『驚いただろ? な? な?』って言いたいタイプの人なんじゃないかと。今回、『ノスタルジア』をチェックの関係で20回以上見ていますけど、キャラクターが合理では説明のつかない動きをする。たとえばホテルの廊下のシーンでソファーに座ってた主人公がカメラに向って歩いてくるんだけど、芝居としての必然性は全然ないんです。だって主人公の部屋は廊下の向こうなんだから、とっととそっちに行けばいいじゃないかと(笑)。でも、ここでカッコイイ画を作りたいんだよ!と、そういう演出をしちゃう人なんです。そういうのがあちこちにあるから、『意味』とか『話』だけを求めてタルコフスキーを見てると、どうしても腑に落ちなくて、やがて寝てしまったり、DVDを早送りしてしまったりする。確かに普通じゃないんですが、僕や僕と同じ世代の人、要するに最初の『スター・ウォーズ』あたりから映画にのめり込んだ人は『ソラリス』も『ストーカー』もSF映画の中の一つ、という位置づけからタルコフスキーに入ってるから、不可思議なところがあっても、『まあ、ここではこれもアリなんだよな』って思えたりする。SF映画って現実では見ることの出来ない風景、映像が見られる、というのが肝じゃないですか。タルコフスキーの場合、SFじゃない時だって、見たことのないような画、他の映画では絶対に見られない画がいっぱい見られる。それが麻薬のように「ああ、あれがまた見たい」ってなるので、パッケージ・ソフトで持っていたいと思う人が多いんだと思います。

『ノスタルジア』場面2――このブルーレイにはどちらも日本語ですが、字幕が2種類入っていますね。

この映画ではイタリア語とロシア語が使われています。でもこれまでの字幕だと、どこがロシア語でどこがイタリア語だか分からない。レーベルのTwitterをフォローしてくれてる人たちに『言語によって書体を変えてみたらどうだろう?』と聞いてみたら、書体を変えるのがベストかどうかは分からないけれど、どういう方法でか違いは分かるようにしてくれたら嬉しい、という声が多かった。2人だけ『そんなの聞けば分かるでしょ』という人がいたんですが(笑)、それはかなりの上級者だと思って、ブルーレイは通常の書体で統一されたものと、言語で書体を分けている2バージョンを収録しています。2番目扱いになってはいますが、個人的には2つ目の字幕で観た方が面白いと思います。この映画にはタルコフスキーのお父さんの詩人アルセニー・タルコフスキーの詩がいくつか使われてるんですが、最初の方で主人公が『詩の翻訳など不可能だ』って言うところがある。なのに、その詩をロシア語で朗読(というかモノローグに近いですが)するところとイタリア語の翻訳で朗読するところがある。そしてイタリア語で読んだ後に、その詩集は燃えます。それはやっぱり翻訳というものの否定なのか、それとも燃えるという作用でロシア語もイタリア語も融合したのか。そういうことに思いを馳せるキッカケになれば、と思いますね。

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ノスタルジア
発売元:IMAGICA TV 販売:㈱KADOKAWA 角川書店 ブルーレイ 4800円(税抜) DVD 3800円(税抜)
© 1983 RAI-Radiotelevisione Italiana. Licensed by RAI COM S.p.A.Roma-Italy, All Right Reserved.
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2015/03/26/22:52 | トラックバック (0)
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