ジャック・オディアール (監督)
映画「君と歩く世界」について
2013年4月6日(土)より、新宿ピカデリー他にて全国公開中
4月16日(金)~26日(金)、早稲田松竹にてオディアール監督特集上映
(「真夜中のピアニスト」「預言者」)
ジャック・オディアール監督はイーストウッドと同じぐらいに個人的に敬意を持っている方だ。前作の「預言者」のフランス映画祭の上映時にインタビュー予定が来日が無くなり出来なかったことがあり待望のインタビューだった。デビュー作の「天使が隣で眠る夜」公開時に渋谷の映画館でたまたま観たことで大好きになった監督だがキャラクター造形と演出の深みにいつも感心させれてきたし励まされてきた。日本好きのオディアール監督なので「東海道五十三次」のイラストのメガネ拭きをプレゼントしてインタビューを開始した。(取材:わたなべりんたろう)
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――脚本はどれぐらいの完成度で仕上げるのでしょうか?
JA 完璧になるまで何度も仕上げる。今作は前作の「預言者」に続いてトーマス(・ビデガン)と脚本を書いた。でも脚本にはこだわらない。まずリハーサル用に脚本が一つ出来る。
――それはどのようなものでしょうか?
JA 俳優とリハーサルしているうちに思わぬアイデアが俳優から出てくることがある。それをメモしてリハーサルをもとに脚本をもう一つ作るんだ。そして撮影現場でもリハーサルしてアイデアが出たら始めにある脚本とリハで出来た脚本とつき合わせてそのシーンを組み立てていく。
――それであれだけ生き生きしたシーンが生まれるんですね。
JA シネマは正解のない生き物だからね。
――では、あのエンディングは元々のエンデングだったのでしょうか? 違うような気がしています。とても印象的なエンディングですが良い意味で軽さがあるしエンディング用に撮っていないシーンをエンディングにしたように思います。
JA そうだ。あれは本来と違うエンディングだ。本来はアリが試合で勝って子供を抱き上げ、そこにステファニーもいてキスして祝福して終わるエンデングだった。そうしなくて良かった(笑)。一つ教えよう。ベランダでステファニーが車椅子に乗りながらシャチの訓練の動作をするシーンがある。あのシーンは現場でマリオンがやってみて生まれたシーンだ。
――今作の代表的なスティルでも使われるシーンがそうだったんですね。興味深いです。
JA 面白いだろう。そこがシネマの面白いところだ(笑)。
――ボン・イヴェールの音楽が素晴らしかったです。他にもケイティ・ペリーやB-52sの通俗的とも思えるヒット曲をうまく使っています。今作や「リード・マイ・リップス」でもクラブシーンでの使う曲も選曲が素晴らしく音楽好きなのがうかがわれます。
JA 音楽は好きだ。いろいろ聴いている。シネマにとって映画は大事な要素だから使う曲には気をつけている。ただ、ボン・イヴェールは編集者のアイデアなんだ。私は音楽が甘過ぎるなと今でも思っている。甘過ぎなかったかい?
――いえいえ、素晴らしかったです。ボン・イヴェールの音楽にはゴスペルの要素もあり、そのように響いてきました。
JA それなら良かった(笑)。
――今作はフィルム撮影でしょうか?
JA いや、デジタルだ。初めてデジタルで撮った。
――機材は何でしょうか?
JA エピックだ。まだ使いこなせていないと思うんだが君はどう思った?
――素晴らしかったです。使いこなせていると思っていました。
JA いや、まだまだだ。「預言者」は狭い場所での撮影もあってデジタルだと思われるが35mmのフィルム撮影だ。
――35mmフィルムとデジタルの今後を探るプロジェクトをこちらはやっているのでお聞きしたいのですが、オディアール監督は今後デジタルで撮影をやっていきますか?
JA 時代の流れからデジタルを使うようになると思うが、例えば光量の少ない室内はデジタル、屋外はフィルムのように使い分けられたらいいと考えている。
――興味深い意見です。話し変わって、オディアール監督は基本的にノワール映画を作り続けています。ここで同じようなタイプで聞いてみたい監督がいます。トニー・スコットです。去年亡くなってしまいましたが彼もノワール、犯罪スリラーにこだわって作り続けた監督です。彼のことはどう思いますか?(ジョニー・トーも同じ意味で聞きたかったが時間が無く聞けなかった)。
JA トニー・スコットの作品は何というか強迫観念のようにどんどん作られた印象がある。商品のようにね。あまり好みの監督ではないね。ただ、一つだけ好きな作品がある。何だったかな。ブラッド・ピットが出ていた作品だ。
――「スパイ・ゲーム」ですか?
JA 違う。(少し離れたところにいるガールフレンドに)あの映画は何だったかな?
――「トゥルー・ロマンス」ですか?
JA そうだ、あれは面白かったな。彼の作品の中では一番好きだ。
――最後に俳優のことを聞くとマティアス・スーナーツは今作で多くの方が彼の魅力に気付くと思うのですが、起用のきっかけは「闇を生きる男」ですか?
JA そうだ。あの映画を観てマティアスと仕事をしたくなった。だから、「闇を生きる男」の設定と似た部分もアリにはある。
――「闇に生きる男」は素晴らしい作品でマティアスも素晴らしい演技でしたから、彼が注目されて活躍していくのは良いことだと思います。
JA 彼はスターになるだろう。それだけの才能がある男さ。
――今日はありがとうございました。多くの気付きをいただきました。
JA こちらこそ楽しいインタビューだった。ありがとう。
オディアール監督は画像にあるようにフランス人らしく服装もきめていて、特に足元はパープルの靴下にナイキと印象的でした。
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( インタビュー:わたなべりんたろう 撮影:辻岡朔実)
監督・脚本:ジャック・オディアール
出演:マリオン・コティヤール,マティアス・スーナーツ
原作:「君と歩く世界」(集英社文庫) 後援:フランス大使館 協力:ユニフランス
劇中歌:ボン・イヴェール 「The Wolves (Act I and II)」/「Wash」第54回グラミー賞最優秀新人賞受賞
配給:ブロードメディア・スタジオ 宣伝:アニープラネット
©Why Not Productions - Page 114 - France 2 Cinéma - Les Films du Fleuve – Lunanime
2013年4月6日(土)より、新宿ピカデリー他にて全国公開中
4月16日(金)~26日(金)、早稲田松竹にてオディアール監督特集上映
(「真夜中のピアニスト」「預言者」の二本立て)
(集英社文庫)
- 映画原作
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- 監督:ジャック・オディアール
- 出演:タハール・ラヒム, ニエル・アレストリュプ, アデル・バンシェリフ, ヒシャーム・ヤクビ
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