春本 雄二郎 (監督)
映画『かぞくへ』について【2/6】
2018年2月24日(土)よりユーロスペースにてロードショー!
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――両方とも家族にまつわることですが、もともと「家族」というのが監督にとっての撮りたいテーマだったのでしょうか?
春本 そうですね、僕が学生時代から作っていた世に出ていない習作は、基本的に家族に関する話が多いです。映画って人間がモチーフにならざるを得ないものだと思っているんですね。記録映画でない限りは人間が出てくるから。そして人間って親から生まれ落ちるもので、人間を描けばバックグラウンドには親がいて、家族が絶対出てくると思っています。今回は松浦さんの詐欺被害の事件という出来事から始まった映画なので、そこからテーマへと逆にアプローチしなければならないのが難しかったですね。詐欺被害に遭って借金を返すためにがんばるというだけの話だとテーマが掘り下げられないので、親友の洋人との関係を単なる親友ではなく切っても切れないある意味家族のようなところまで持ち上げて、佳織というこれから家族になる存在と、これまで家族だと思って一緒にやってきた存在と、どっちを取るか?という設定にすれば、家族とは何なのか?というところまで伝えられると思ったんです。
――家族というのは今や血縁だけを表すものではなく、形もいろいろですよね。この映画に家庭として出てくるのは佳織の実家だけですが、男親はいなくて祖母と母と妹という女性ばかりの3世代で暮らすというものですね。
春本 直系家族制度が後退してきていて、昭和の時代の話でしょう、と。「サザエさん」の家族観ってもうないと思うんです。一生結婚をしないとか子供を作らないという選択も確立されていて、「家族」という言葉自体が意味をなさなくなってきているかなと。「自分にとっての家族って何なのかな?」とあらためて考えてもらえたらいいなと思って作りました。
――本当によく練られた脚本なんですが、資料(※)を見るとあっという間に書き上げているんですよね。
※ 映画『かぞくへ』製作過程
企画立案:2014年8月3日 旭役の松浦慎一郎とともに/脚本製作期間:2014年8月24日~9月4日初稿脱稿/以降7回におよび改訂/クランクイン:2014年12月28日/クランクアップ:2015年1月25日/ポスプロ:2015年2月~2016年10月まで/
完成:2016年10月14日
春本 そうですね。僕は大学1年のときに脚本の書き方をすごく勉強したんです。三幕構成とかハコだとか。ちゃんとハコを作って書かないとペラ200枚って書き切れないなと、構成をすごく意識して書いていました。だからシナリオを書く前に構成に時間をかけて、効果的な感情の流れを作ることをすごく考えるんです。納得するところまでハコを詰めたら、脚本は文字で残していくだけで、そんなに時間がかからないんですね。ハコ書きをするところで1ヵ月、2ヵ月ぐらいかかりますけど、脚本を書くのは2週間ぐらいですね。
――リアリティある物語にも独自性を感じます。こういう純朴な好青年がここまで苦しむというのは日本映画が絶対に描かないもので。
春本 そうですね。やっぱり商業の助監督をやってきたことが反面教師となっているのかなと。なんでもかんでも説明したり予定調和にしたりすることに抵抗があるというか。現実問題として世の中ってそんなにうまくいかないものじゃないですか。うまくいく部分もいかない部分もひとくくりで起こることで。そこを観る人にちゃんと感じ取ってもらいたい。ハッピーエンドは商業映画だけで十分だなと(笑)。
――松浦さんにとって自分の経験をなぞって演じるのはどんなお気持ちだったのでしょうね?
春本 松浦さんは、自分自身を演じるにあたって、最初は楽にできると思っていたそうなんです。だけど自分のことだけに思い入れが深すぎてコントロールがしづらい。実際の事件が現在進行形という中で映画を撮っていたこともありましたから。喜多を追い詰めるシーンだとかは自分のそのときの感情を思い出して盛ってしまうようなところがあって、そういうときは僕が「もうちょっと抑えてください」と指示を出していました。
――みなさんの演技がとても自然ですが、リハーサルはされているのでしょうか?
春本 かなりやりました。現場でかけられる時間が少ないことはわかっていたので、リハーサルで芝居は固めてしまって、現場に入ったら即「用意、スタート!」ぐらいの勢いで行かないと撮り切れないなと。最後の橋のシーン以外はほぼ全部リハーサルをやりました。で、橋のシーンは立ち位置と止まり位置だけを決めておいて、あとは抑えないでやってくださいと。
――長回しも多いですが、間をどれぐらい取るかというようなことも決めているのでしょうか?
春本 そのへんはあまり決めていないですね。芝居を見てちょっと長いなというようなときは言いますが、「何秒空けて」とかは言わないです。「日常でやっているように自然にやって」と、それだけですね。実は台本上に結構間が入れてあって、めっちゃ「……」とかありますよ。パンフレットに台本を載せたんですが、見たら間の多さがわかると思います。
出演:松浦慎一郎,梅田誠弘,遠藤祐美,三溝浩二,おのさなえ,下垣まみ,瀧マキ,森本のぶ
監督・脚本・編集:春本雄二郎
撮影:野口健司 照明:中西克之 録音・整音:小黒健太郎 制作:福田智穂 助監督:浅見佳史
音楽:高木聡 プロデューサー:深谷好隆,春本雄二郎,南 陽 海外セールス:植山英美(ARTicleFilms)
配給:『かぞくへ』製作委員会 配給協力:コトプロダクション ©『かぞくへ』製作委員会
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