佐藤 慶紀 (監督)
映画『HER MOTHER 娘を殺した死刑囚との対話』について【3/5】
2017年9月9日(土)~10月6日(金)新宿K’s cinema 他全国順次公開
公式サイト 公式twitter (取材:深谷直子)
――そうですね。人間同士として向き合えば、新しい感情も生まれてくるんでしょうけど、それも実際にはなかなか難しいんだろうなということも考えました。やはり当事者の苦しみは大きいし、さらに事件に付随して起こることでも何重にも苦しめられていくという。この映画では、加害者も被害者もみんな家族となるわけで、そこに複雑な思いがありますよね。娘夫婦が加害者と被害者になるという設定はどうしてそうしたのですか?
佐藤 ひとつは被害者遺族が前もって加害者のことを知っているという設定にしたかったんです。あともうひとつは実際の殺人事件は親族の関係の中で起こるものが多いというのがあってそうしています。
――ああ、確かにそうした近い人間関係の中で愛憎が募ってというものが多いですよね。設定としても、晴美はもともと娘の旦那さんには好感を持っていたわけですから、そこでまた大きな葛藤が生まれたりするわけですよね。
佐藤 はい。
――また、娘夫婦と晴美夫婦という二世代の夫婦の関係もそれぞれリンクするようなところがあって。両方とも妻のほうが優位に立つような関係にあって、娘夫婦のほうでは妻のみちよの行動に疑問を持った夫の孝司が凶行に及んでしまう。母親の晴美はしっかりした普通の主婦ですが、夫婦が住む大きな家は晴美が父親から譲られたものということで、やはり夫は抑圧を感じていたのかもしれないなと。娘を失ったあと夫は豹変して晴美につらい仕打ちをしていくようになりますね。
佐藤 そうですね、両方とも妻のお尻に敷かれていたというところはあるでしょうね。
――近い関係の中でとても複雑な思いが錯綜し、先が読めないストーリーとなっていました。脚本作りにはかなり時間をかけられたのではないでしょうか?
佐藤 そうですね、8ヵ月ぐらいかけて書きました。最初は単純に母親が加害者への面会を重ねるうちに死刑を止めようとしていくようになる話を書いていたんですが、娘を奪われた母親がそういう行為を取るためにはもうひとつ原動力となるものが必要だと感じて、そこを結構考えましたね。最終的には娘のみちよにある秘密があったという設定にしたんですが、それは脚本作りの7ヵ月目ぐらいに入れたものなんです。
――なるほど、それによって晴美も背負うものを持ってしまうわけですよね。孝司の動機も変わってきますし。もともとは単純に妻の浮気に嫉妬して……とかいうものだったということですね。
佐藤 そうですね。孝司は一直線なキャラクターとして作りましたね。
――罪を犯してしまって裁かれる人も、それ以外の人もみんな善悪に関してグレーなところがあり、誰でも一歩間違えたら……というような危うさを持っているんだな、ということを考えさせられましたが、やはりストーリーはとても練って作られたのですね。台詞もとても考えられていたなと思います。夫が晴美に対して「俺たちは会話もできないのか」と言うところがありますが、今まで晴美を避けていた夫がそれを言うのか……と思ったりして、台詞が全部自分に返ってくるようなところが面白いなと。監督のほうでもそういう意図はお持ちだったのでしょうか?
佐藤 台詞はこのキャラクターであればこう言うだろうな、ということを書いていますね。わりと素直にこういうことを言うだろうし。もちろん台詞として現れているのとは違う思いを本人が持っていたというのはありますけど。
――そうですね。ウソは言っていないんですけど、必死すぎて自分も同じことをしているのに気づかない、ということですよね。それがどの人物にもあって、エゴを押し付けて空回りしている人間関係がすごく皮肉だなと。加害者を許す、許さないですれ違う晴美夫婦のやり取りなどでそれを感じました。
佐藤 そうですね、すれ違いで物語を進めていきたかったというのは確かにあります。
HER MOTHER 娘を殺した死刑囚との対話 ( 2016/95min/DCP/カラー/ステレオ )
監督・脚本・編集:佐藤慶紀
撮影:喜多村朋充 音楽:ベンジャミン・ベドゥサック
制作:カロリーネ・クラツキー メイク:桐山雄輔 衣装:市岡昌顕
出演:西山諒、西山由希宏、荒川泰次郎、岩井七世、野沢聡、箱木宏美、木引優子、 西田麻耶
制作プロダクション:Aerial Films 配給・宣伝:渋谷プロダクション
製作:『HER MOTHER』製作委員会(Aerial Films・ラフター・渋谷プロダクション)
© 『HER MOTHER』製作委員会
公式サイト 公式twitter2017年9月9日(土)~10月6日(金)
監督・脚本・編集:佐藤慶紀
撮影:喜多村朋充 音楽:ベンジャミン・ベドゥサック
制作:カロリーネ・クラツキー メイク:桐山雄輔 衣装:市岡昌顕
出演:西山諒、西山由希宏、荒川泰次郎、岩井七世、野沢聡、箱木宏美、木引優子、 西田麻耶
制作プロダクション:Aerial Films 配給・宣伝:渋谷プロダクション
製作:『HER MOTHER』製作委員会(Aerial Films・ラフター・渋谷プロダクション)
© 『HER MOTHER』製作委員会
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