イ・ヒョンジュ (監督)
映画『恋物語』について【1/4】
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第17回東京フィルメックスのコンペティション部門上映作品
第17回東京フィルメックスのコンペティション部門で上映された韓国映画『恋物語』は、若い女性ふたりの間の恋愛、あるいは初恋の感情の揺らぎを繊細かつ率直に綴った、新鋭イ・ヒョンジュの長編第一作目である。韓国国立映画アカデミーの卒業制作として作られたが、極めてオーソドックスな演出で女性同士の恋を特別でない形で温かく描くことに意義を見出した本作は、11月17日より韓国で公開されるやいなや観客動員数1万人を突破し話題になりつつある。多くの韓国映画の中では隠蔽されてきた女性の同性愛を自然で素朴なタッチで見つめた、新しい世代の女性監督によるこの映画は、これまでに注目を集めてきた男たちによる暴力的な復讐劇、あるいは扇情的で過剰なスタイルとは明らかに一線を画すものだ。『恋物語』上映直後のイ・ヒョンジュ監督に題材や演出意図について、そして韓国映画界における女性監督の状況や女性の描かれ方について、お話を伺った。 (取材:常川拓也)
──ヒロインのおふたりについて伺えればと思います。彼女たちは、もともと女優を長くやられている方なのでしょうか。
イ・ヒョンジュ ジス役のリュ・ソニョンさんは、大学で演技を専攻していた方です。ユンジュ役のイ・サンヒさんは、実は以前まで看護師をされていました。彼女はだいぶ後になって映画に刺激を受け、何か映画に関わりたい、自分も何かしたいと思って、その時に作る人ではなく演じる側を目指したそうです。その理由というのが、当時、彼女は映画に様々な部署や仕事があることを知らず、映画と言ったら作る側か演じる側かだと思っていたらしく、それで女優になろうと考えたそうなんです。そして看護師を辞めて、基礎だけ少し勉強した後すぐに女優として活動しはじめました。そのようにして彼女は今どんどん経験を広げているところなのですが、私はふたりの演技を最初に見た時、お互いに違った印象を受けました。一方はすごく繊細過ぎる部分があり、もう一方は少し商業的な演技のトーンがあったので、彼女たちの演技を調節することに気を遣いました。
──映画を作られる時に、あなたは個人的な記憶や体験を大事にして作られる方ですか。
ヒョンジュ 本作の場合は、恋という平凡なお話なので、自分がそのような時にどういった感情を抱いたかをもとにし、そこからどういったエピソードに繋げればいいかを考えながら作りました。
──『恋物語』は、『アデル、ブルーは熱い色』(2013)や『キャロル』(2015)を彷彿とさせますが、ふたつの作品の主人公が10代、または20代前半であるのに対して、本作の主人公の年齢が32歳という点がまず異なっています。彼女は幅広い年齢の人が集まっているような大学院に通っていますね。
ヒョンジュ そうですね。美術を学んでいる美術大生という設定です。
──『アデル』は主人公たちの顔をクローズアップでずっと捉え続ける映画であり、『キャロル』はメロドラマ風な演出をしている映画です。どちらも特徴的なスタイルの中で女性同士の恋愛を描いていたように思いますが、『恋物語』は音楽を抑えつつとてもオーソドックスな撮り方をされています。そのように撮られた意図をお聞かせください。
ヒョンジュ 本作の韓国語の原題は『恋愛談』というのですが、愛と恋とはまた違うものだと思います。日本ではそれぞれ言葉が存在しますが、外国では「恋愛」というのをちゃんと表現できる、ぴったりくる言葉が見つからないような気がします。私の場合にはこの映画において、恋愛というのは、とてもありふれたもの、日常よく接することができるものとまず捉えていました。『アデル』にも美大生が登場しますが、彼女は恋愛をしても何をしても日常生活をやっていけるというところがあったと思うのですが、本作のユンジュの場合は、誰かを好きになってしまったら、ほかのことが何もできなくなってしまうようなところがあります。でも、映画の物語としてはとても平凡なものですので、映画的な演出を何か施すというよりも、日常を描くという気持ちで今回は撮りました。そこがほかの作品と少し違うところかもしれません。
監督:イ・ヒョンジュ 出演者:イ・サンヒ、リュ・ソニョンほか
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