イ・ヒョンジュ (監督) 映画『恋物語』について【4/4】
第17回東京フィルメックスのコンペティション部門上映作品
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──今までの韓国映画には多分に男尊女卑的な側面のある、女性は被害者になっていく一方であるような非常に暴力的な映画のイメージがあります。しかし女性の監督が描く映画というのは、心理的にとても繊細な作品である印象が見受けられます。そこには、暴力的な映画に対する反発、反抗というような意識が働かれているということはあると思われますか。
ヒョンジュ 私としては、映画の好みだと思うのですが、あまり刺激的なものが好きではありません。たとえば性犯罪を描く場合にもその犯罪が行われている場面をより盛り上げて、雰囲気を高めて描写する必要があるのだろうか、やり過ぎではないのかなとどうしても思ってしまうのです。女性のキャラクターも今仰ってくださったことと似ていると思うのですが、消耗されるような描かれ方ですよね。たしかに被害者として描かれるようなところが多かった気がして、それではつまらないのではないかなと思いますし、人は映画の中で必ず死ななければいけないのだろうか、そして子どもは最終的に戻って来てはいけないのだろうか、そんなこともよく考えます。また、よく映画の中で男女が出てくると、社会的な雰囲気もあるのか、あるいは映画として作られているからなのか、どうしても男女がふたりきりで同じ部屋にいると変な緊張感が生まれますよね。本作でもユンジュがヨンホという男性と同じ部屋でふたりきりになる場面がありますが、もしかしたら必要以上に観てる人がユンジュが何かされたらどうしようと思ってしまうのではないかなという風に思ったのですけれども、でも決してそれだけではないと思うので、意図的に彼女たちの周りにいる人物を心の優しい温かい人物として今回は描きたいと思いました。なのでヨンホやルームメイトの女友だちヨンウンなどを温かいキャラクターとして私は描きたいと考えました。先ほど言った緊張感を高めるようなものは私は望んでいなかったので、そのようにしました。(ユンジュの通う美大の)教授などほかの人物はジェントルに描きつつ、彼女たちの周りにいる人たちは少し温かい人物として私は描きたかったのです。
──韓国の女性監督による繊細な映画に感銘を受ける一方で、ほとんどがデビュー作であり、二作目、三作目を観ることができていない印象があります。韓国映画界の中で女性監督が作り続けていくとなると、資金集めなども含めてさらに大変な面があるのでしょうか。
ヒョンジュ 私に関しては、本作は韓国国立映画アカデミー(KAFA)の卒業制作として撮った作品であり、まだどこかから出資を受け製作費を出してもらって作った経験がないのですが、最近、コン・ヒョジンさん主演の映画『Missing』(2016)という映画がありました。それを撮ったのは女性監督のイ・オンヒさんなのですが、彼女にとっては久しぶりの作品となりました。よく韓国商業映画の中心地と言われる忠武路(チュンムロ)の中で、彼女が書いたシナリオは以前から好評だったにも関わらず、女性監督という理由で『Missing』を撮るまでになかなか時間がかかってしまった、長い間待たなければいけなかった、と彼女は仰っていました。先ほど挙げた『荊棘の秘密』のイ・ギョンミ監督もデビューをしてから次作を撮るまでに8年ぐらいかかりました。ほかにもビョン・ヨンジュ監督やイム・スルレ監督など名のしれた女性の監督がいらっしゃるのですが、彼女たちも一本撮って次までにかなり時間がかかっているのを見ると、やはりたくさんの制約があるのではないかなと推測しています。
──近年ハリウッドでも女性の雇用賃金の問題が話題に上ったりしていて、世界的に共通する大変な問題なのかなと思います。そういった中でインディペンデントで低予算ではありながら、優れた作品を作られるというのは、とても大切で、観る価値のあるものだと改めて感じます。
ヒョンジュ 韓国では以前インディーズ系の映画に対して支援をする流れがあったのですが、実はここ何年かは支援も減ってしまい、劣悪な状況が続いています。ですが、私が作った『恋物語』を通して、小さい映画にも関心を持てるんだと思ってくださった方も出てきているようなんですね。観てくださった人たちの中には、今までいい映画もあったのに見過ごしてしまっていたことや、いい映画があったのに映画館にかからないのもあったということを知ってくださりはじめました。そういうことが広がっていけば、私も次の映画を撮るために監督として選ばれることもあるかもしれませんし、また本作が小さいながらもひとつの種になってくれたら、広がっていくキッカケになってくれたらいいなと、私も出演してくれた役者もみんな思っています。
──ほかにも最近ではなら国際映画祭の製作ではありますが『ひと夏のファンタジア』があったり、インディペンデント系の韓国映画の良作があったので、今あまりよくない状況になっていると伺い、少し驚きました。
ヒョンジュ そうなんです、予算がないことが本当に多いんです。『私たち』が日本で公開されるという嬉しい知らせ(2017年公開予定)を聞いたので、『恋物語』も日本での公開が決まるといいなと願っています。ぜひよく書いてください(笑)。
( 取材:常川拓也 )
監督:イ・ヒョンジュ 出演者:イ・サンヒ、リュ・ソニョンほか
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