――松浦さん以外のキャストはどうやって選ばれたんですか？

春本　洋人役の梅田（誠弘）さんはオーディションで決めました。書類選考で5人に絞って松浦さんとお芝居を合わせてもらい、いちばんしっくり来たのが梅田さんだったんです。理屈じゃなく相性の問題で、すごくナチュラルに合っていました。

――問題を抱え込んで苦悩する旭とニコニコして行動の早い洋人とはすごく対称的ですよね。梅田さんご自身もポジティブな方なんですか？

春本　それが全然違うんです。梅田さんは脚本を読んだときに「自分は旭タイプだ」と思ったそうです。ただ洋人のキャラクターは理解できると。台本を読んだだけで二人の関係性がわかって、役作りの準備もしなくて済んだとおっしゃっていました。

――佳織役の遠藤祐美さんはどのように？

春本　遠藤さんは大学の同期なんです。日本大学芸術学部の演技コースだったんですが、演技力があるのは学生時代から知っていたので信頼していました。最初から佳織役に考えていました。

――表情が豊かですよね。結婚を控えた女性の様々な感情がひしひしと伝わってきました。

春本　感情の流れを考えて演じることができる俳優なんです。脚本の第3稿ぐらいを読んでもらったんですが、「佳織をもっとこうしたほうがふくらみが出るんじゃない？」ということを積極的に提案してくれて。佳織は最初、旭のことを責めるばかりの嫌な女性だったんです。それを、旭との関係に悩みつつ母親との確執もあるという二つの面をきちんと描くことで、役柄にもふくらみが出るし、家族というテーマに佳織のほうからも近付けることができるしと。遠藤さんの助言が大きかったです。

――そうなんですね。この映画は旭という主人公が恋愛と友情の間で葛藤するところに大きなドラマがあるんですが、彼に同情的な描き方をしているわけではないですよね。私には男同士の友情を重視するホモソーシャル的なものもすごく感じられ、それによってほったらかしにされる女性の心情が佳織を通して伝わってきました。こういうことが男性が書いた脚本によく描かれているなと思ったんですが、遠藤さんの意見が活かされているんですね。

春本　ああ、僕のまわりにも夫のわがままで妻が苦労しているような家庭が結構あったので、もともと女性目線のところはありましたね。そこに遠藤さんの具体的な提案を取り入れてふくらませていきました。脚本は7稿ぐらいまで直したりしていたので、かなり粘りましたね

――台詞も考えられていますよね。最初の台詞は佳織の「ひとり？」というものですが、シンプルなこの言葉が作品のテーマをよく表していて、どんどん効いてきます。

春本　旭と佳織が結婚間近であるという関係性や、彼らの生活感も出しつつ、旭と洋人の関係も端的にわからせる会話ってなんだろう？と考えてあのシーンを頭に持ってきました。もともとはボクシングのシーンから始まっていたんですが。

――脚本でもうひとつ印象的だったのは、同じことを別のシチュエーションで行うような反復が結構あったなと。例えば佳織が出ていってしまったあと、旭が顔を洗ってタオルかけに手を伸ばすとタオルがかかっていなかったというシーンがありますが、その前にも洗顔して顔を拭くシーンがあったんですよね。日常的な何気ない動作の中で、失ったものを思い知って愕然とするという。状況が一変してしまったことが繰り返しの描写で強烈に伝わります。

春本　そのへんは狙っての伏線ですね。結婚式の飾り作りもそうです。最初は佳織に頼まれても全然手伝わなかった旭がだんだん興味を示していき、そのうち自分から作るようになる。そして最後は落ちているのを拾う、と。