インタビュー
「君と歩く世界」/ジャック・オディアール監督

ジャック・オディアール (監督)
映画「君と歩く世界」について

公式

2013年4月6日(土)より、新宿ピカデリー他にて全国公開中
4月16日(金)~26日(金)、早稲田松竹にてオディアール監督特集上映
(「真夜中のピアニスト」「預言者」) 公式

ジャック・オディアール監督はイーストウッドと同じぐらいに個人的に敬意を持っている方だ。前作の「預言者」のフランス映画祭の上映時にインタビュー予定が来日が無くなり出来なかったことがあり待望のインタビューだった。デビュー作の「天使が隣で眠る夜」公開時に渋谷の映画館でたまたま観たことで大好きになった監督だがキャラクター造形と演出の深みにいつも感心させれてきたし励まされてきた。日本好きのオディアール監督なので「東海道五十三次」のイラストのメガネ拭きをプレゼントしてインタビューを開始した。(取材:わたなべりんたろう)
ジャック・オディアール 1952年、パリ生まれ。父親は監督・脚本家のミシェル・オディアール。エディターとして映画界でのキャリアをスタートさせたのちに脚本家へと転身し、ジョルジュ・ロートネル監督の『プロフェッショナル』(81・未)、クロード・ミレール監督の『死への逃避行』(83)、エドゥアール・ニエルマン監督の『キリング・タイム』(87)などに携わる。ジャン=ルイ・トランティニャン、マチュー・カソヴィッツを主演に迎えたフィルムノワール『天使が隣で眠る夜』(94)で監督デビューし、カンヌ国際映画祭カメラドール、セザール賞新人監督作品賞を受賞。続く『つつましき詐欺師』(96・未)ではカンヌ国際映画祭脚本賞を獲得した。ヴァンサン・カッセル、エマニュエル・ドゥヴォス主演の異色ラヴ・サスペンス『リード・マイ・リップス』(01)ではセザール賞3部門(脚本賞、主演女優賞、音響賞)を制し、1978年のアメリカ映画『マッド・フィンガーズ』を翻案した犯罪劇『真夜中のピアニスト』(05)では作品賞、監督賞を含むセザール賞8部門を独占。そして非情な刑務所内を生き抜く若者の姿を活写した監督第5作『預言者』(09)でもカンヌ国際映画祭審査員特別グランプリ、セザール賞9部門のほか、国内外で数多くの映画賞を受賞。今や名実共にフランス映画界を代表する名匠である。

STORY 南仏の観光施設でシャチの調教師をしているステファニー(マリオン・コティヤール)は、ショーの最中に事故に遭い、両脚の膝から下を失ってしまう。失意の彼女を支えたのは、不器用なシングルファーザーのアリ(マティアス・スーナールツ)だった。粗野だが哀れみの目を向けずフランクに接してくる彼と交流を重ねるうちに、ステファニーは次第に生きる希望を取り戻していく。


ジャック・オディアール監督――本当に素晴らしい映画を作っていただき、ありがとうございます。

ジャック・オディアール(以下、JA) こちらこそありがとう。このメガネ拭きの図柄は北斎だね。気に入ったよ(笑)。

――はい、北斎です(笑)。いつもオディアール監督の作品で素晴らしいと思うのは風景シーンにも全て意図があって小説でいうと行間を読ませるようにとても脳に刺激的なことです。小説に例えましたがもちろんとても映画的な映画という意味においてです。

JA そう観てもらえたのは嬉しいね。ただ、いつも今までの自分の作品と違う作品を作ろうとしているんだ。「預言者」が限られた空間で展開する作品だったから「君と歩く世界」では南仏の陽射しの中で展開する設定にした。男女の話しなのも前作とは違う。

――今までの自分の作品と違う作品を作ろうとしている、とのことですが今までにない映画を作ろうとしているようにも感じます。そして、そこがオディアール監督の作品の素晴らしさだと感じています。

JA 作り手としては自分の前作や過去の作品しか意識していないので分からないが君がそう思ってくれたのなら嬉しいよ。

――他のインタビューなどで今作を監督はメロドラマと言っていますが、それは広義の意味でのメロドラマでとても重層的かつ豊潤な感情が行き交うドラマです。あらすじでは説明しきれない、とらえきれないその豊潤さに感嘆しましたし、ダグラス・サークを想起しました。

JA ダグラス・サークは好きだしもちろん意識していた。今作では他にはトッド・ブラウニングの「フリークス」やチャールズ・ロートンの「狩人の夜」も意識したよ。小説だとゴールディングの「蝿の王」もね。今作は構成だけ考えたんだ。男女を軸としたドラマの構成だ。そこだけ見たらメロドラマというわけさ。そして、いつもこころがけていることだけど観客が予測できないような展開にした。だって日常だって次に何が起こるか分からないじゃないか。その感覚を観客に味わってほしいんだ。だから説明もしすぎないようにしている。

――それは見事なぐらいに達成されています。その構成なんですが普通、映画は「序破急」とも言える三幕ものなんですが今作は四幕目があります。オディアール監督の作品にはいつもその裏切りというか意外な四幕目があります。この類いの通常の映画だったら無いような場所を変えて新たな展開を迎える。近年のイーストウッド作品、例えば「ミスティック・リバー」や「チェンジリング」もその点があるのが面白くなっています。

JA そうだな……その点に関しては同意はするがこういうことだ。今作はアリが息子への溢れる感情を観客に見せたかったんだ。アリはそれまで感情をあまり出さずに本能のままに生きているような男だ。ある意味で無礼だがそこが彼の魅力にもなっている。その彼が今までは動物的な勘で切り抜けてきたが自分ではどうしようもない状況に追い込まれて感情を露わにするところを描くことで彼の成長を見せたかったんだ。

――一つ一つのシーンに関して語りたいぐらいですが時間もないので一つのシーンを挙げます。ステファニーが初めてリハビリルームに行くシーンです。とても強い光をステファニーの顔に当てています。このシーンの照明設計の意図は?

「君と歩く世界」JA あのシーンは本物の病院のリハビリルームで撮影した。ロケハンに行ったときにあの強い光が入る時間が分かった。ふだから撮影時にもその時間に合わせて行って撮影した。

――自然光だったんですね。

JA そうだ。あの強いシーンには2つの意味がある。色の無い病室から色のあるリハビリルームに行ったという見たとおりの意味、もう一つは両足を失って落ち込んで塞ぎこんでいたステファニーが一歩踏み出して次の段階に向かっていること。そのことを際立たせるために強い自然光を使ってコントラストを際立たせたんだ。

――そうだったんですね。そのことは意識していなくても観ている側に伝わってきました。オディアール監督作は撮影、編集、音楽どれもが見事ですがいつも同じ人と組んでいますね。音楽のアレクサンドル・デスプラは「ベンジャミン・バトン」、「英国王のスピーチ」、「アルゴ」、「ムーンライズ・キングダム」など大活躍です。

JA 編集のジュリエット(・ウェルフラン)と音楽のアレクサンドル(・デスプラ)はデビュー時から同じだが撮影のステファーヌ(・フォンテーヌ)は前々作の「真夜中のピアニスト」からだ。気心が知れたスタッフと密に仕事をしたいというのはある。

――編集にはどれぐらい関わるのでしょうか? 今作は2回スクリーンで観て2回目のほうが細部まで分かってより良かったのですが他にもタイトルバックで本編全部を巧みな編集で表現していることにも気付きました。

JA 編集はほとんど関わらない。編集室にも行かないでジュリエットに任せている。

――そうなのですね。意外です。

JA 監督デビュー前に映画の編集者をやっていたからうんざりなんだ(笑)。それは冗談としても脚本を読めば意図していることが編集のジュリエットにはきちんと伝わっているから心配ないんだ。

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君と歩く世界 2012年/フランス・ベルギー合作/カラー/シネマスコープ/R-15/
監督・脚本:ジャック・オディアール
出演:マリオン・コティヤール,マティアス・スーナーツ
原作:「君と歩く世界」(集英社文庫) 後援:フランス大使館 協力:ユニフランス
劇中歌:ボン・イヴェール 「The Wolves (Act I and II)」/「Wash」第54回グラミー賞最優秀新人賞受賞
©Why Not Productions - Page 114 - France 2 Cinéma - Les Films du Fleuve – Lunanime
公式

2013年4月6日(土)より、新宿ピカデリー他にて全国公開中
4月16日(金)~26日(金)、早稲田松竹にてオディアール監督特集上映
(「真夜中のピアニスト」「預言者」の二本立て)
公式

君と歩く世界 (集英社文庫) [文庫]
君と歩く世界
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  • 監督:ジャック・オディアール
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