ニコラス・ウィンディング・レフン
(映画監督)
映画「ドライヴ」について
2012年3月31日(土)より新宿バルト9他全国ロードショー
カンヌ国際映画祭監督賞受賞作「ドライヴ」のニコラス・ウィンディング・レフン監督が
「ドライヴ」に続き再度ライアン・ゴスリングと組む「Only God Forgives」(12)のタイでの撮影中の撮休時に来日したのでインタビューを行った。70年生まれのデンマーク出身の若き鬼才として注目してきた監督でありながら、日本では24才の時に製作し2年後に公開されたデビュー作「プッシャー」(96)のみが公開&ソフトリリースのみの不遇な監督だが精力的に作品を発表してきた。「プッシャー」は内容だけでなく、撮影も「トレインスポッティング」影響も多分に受けたドラッグ・ディーラーを描いた荒削りの作品ながら光るものがあった。
その後、「BLEEDER」(99)、テレビシリーズ「De udvalgte」(01)のクリエイター/脚本、「Fear X」(03)の後に「プッシャー」をシリーズ化して「2」「3」を発表し興行的にも安定した地位を築く(2010年にはイギリス映画のリメイクも製作された)。そして、テレビにまたも戻りテレビ映画「Marple: Nemesis」(07)の脚本/監督を経て、より野心的な「BRONSON」(08)を発表。刑務所の独房でのチャールズ・ブロンソンに取り憑かれた男を描いた「BRONSON」(08)は現在活躍中の俳優のトム・ハーディの出世作になった。異色の時代もの「Valhalla Rising」(09 ※「ヴァルハラ・ライジング」表記で4月7日より、ヒューマントラストシネマ渋谷にて緊急公開決定)はヘルツォークの「アギーレ/神の怒り」(72)も思わせる力作だった。常にジャンルとしてアクション映画を撮り、映画とテレビを行き来したという経歴はマイケル・マンも思わせる。商業性を考慮し作品を撮り続け、徐々に才能を磨き頭角を著してきた監督である。 (取材:わたなべりんたろう)
ニコラス・ウィンディング・レフン 1970年デンマークのコペンハーゲン生まれ。8才時に家族でアメリカに移住して17才までニューヨークで暮らす。コペンハーゲンに戻るが、93年の23才時に再度アメリカに渡り、アメリカン・アカデミー・オブ・ドラマティック・アーツで学ぶ。作品経歴は上記参照。
――(ニコラスが好きそうな日本のバンドのCDなどをプレゼントしてから)「ドライヴ」は素晴らしい作品でした。「ドライヴ」から想起した作品のDVDを持ってきました(「LA大捜査線/狼たちの街」「ブレイキング・ニュース」「NARC/ナーク」「BRICKブリック」「アウト・オブ・サイト」「要塞警察」「ライト・スリーパー」「ヒッチャー」「クライング・ゲーム」を出す)。
ニコラス 好きな作品が多くあるな(笑)。
――「ドライヴ」のシンセ・ポップとも言えるエレクトリックな音楽は「LA大捜査線/狼たちの街」「要塞警察」「ヒッチャー」「クライング・ゲーム」から影響を受けていますか?
ニコラス 「LA大捜査線/狼たちの街」は素晴らしい作品だよね。ポスターのイメージも覚えている。ワン・チャンの音楽が素晴らしいし、撮影もグレイトだ。「要塞警察」はもちろん影響を受けている。カーペンター作品全般の音楽ということだけど、シンプルなメロディにパーカッションを加えた簡素なサウンドはテンプ・ミュージックとしても良く使わせてもらっているよ。カーペンターの映画音楽は一種の発明とも言えるもので後の多くの作品に影響を与えているし、夜のシーンにとてもマッチするんだ。「ヒッチャー」も素晴らしいね。「クライング・ゲーム」の音楽(ペット・ショップ・ボーイズ、アン・ダドリーなど)は無意識的に影響を受けているかもしれないがよく分からない(笑)。
――ここに持ってきませんでしたが、映画とテレビを行き来しながら一貫してアクションを撮り続けているのにはマイケル・マンを思わせられます。
ニコラス 「ヒート」は偉大な作品だよね。ただ、「ドライヴ」はLAを舞台にしているけど、NYを舞台にした作品、具体的にはスコセッシやウディ・アレン、フリードキンが撮った作品のリアルさを意識した。社会はパーフェクトな人を求めるかもしれないが、そこからこぼれ落ちた犯罪者や社会の裏側に生きる人物に興味があるんだ。
――もともとアメリカ進出第一作として、ハリソン・フォ―ド主演、ポール・シュレイダー脚本の別の作品を準備していたのが作品のラストで主人公が死ぬことにハリソン・フォ―ドと意見が別れて降板したときに「ドライヴ」の話が来たそうですね。
ニコラス ライアン・ゴスリングから連絡があったんだ。「きみの映画のファンだ。何か一緒に映画を作らないか?」ってね。もともと「ドライヴ」を映画会社は「ワイルド・スピード」シリーズのような派手なアクション映画にしたがっていた。でも、ぼくとライアンは全く違う意見だった。もっとリアルながら悪夢的な作品にしたかった。ただ、ライアンと初めて会ったときにぼくは体調が最悪で帰りはライアンに車を運転してもらっておくってもらうほどだった。そんな最悪の初対面だったけど、こうやって素晴らしい作品を共に作ることができた。この映画の方向性を守り抜き完成させたことでぼくとライアンの絆はかなり深いものになったんだ。
――そういう出会いは稀ですよね。スコセッシとデ・ニーロ、スティーブ・マックイーン(監督)とファスベンダー、ティム・バートンとジョニー・デップのようなものです。「Only God Forgives」はルーク・エヴァンス主演のはずが「ホビット」の撮影と重なって、ライアンが主演になっています。
ニコラス またもライアンに助けられたよ。そこまでのコンビになるかはまだ分からないが、そう言ってもらえると嬉しいよ。とても光栄だね。4本組んだマッツ・ミケルセン(「007 カジノ・ロワイヤル」の悪役ル・シッフルで知られる俳優で、ニコラスとは「プッシャー1&2」「BREEDER」「ヴァルハラ・ライジング」/「プッシャー」はミケルセンの映画デビュー作)やトム・ハーディのような素晴らしい俳優と作品を作ってきたが、ライアンとは今後も多くの作品で組んでいきたい(「2300年未来への旅」のリメイクの脚本にもニコラスとライアンは共同で着手している)。
出演:ライアン・ゴズリング,キャリー・マリガン,アルバート・ブルックス,オスカー・アイザック,ロン・パールマン
監督:ニコラス・ウィンディング・レフン 原作:ジェイムズ・サリス(ハヤカワ文庫刊)
脚本:ホセイン・アミニ/撮影:ニュートン・トーマス・シーガル,A.S.C./音楽:クリフ・マルチネス
2011年/アメリカ映画/カラー/シネスコ/ドルビーデジタル/100分/原題:DRIVE/字幕翻訳:岡田壯平
配給:クロックワークス ©2011 Drive Film Holdings, LLC. All rights reserved.