高橋泉監督/『あたしは世界なんかじゃないから』

高橋泉 (映画監督)
映画『あたしは世界なんかじゃないから』について

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第13回東京フィルメックス・コンペティション出品/学生審査員賞受賞

ある復讐のために集められた男たちが、ひとりの女を拉致する。悪意に満ちた不穏な気配に惨劇の予感を抱かせたまま、カメラは登場人物たちのそれぞれの生活でのドラマも映していく。群像劇のパズルのピースがはまっていく快感と、繊細に葛藤する人間の目線から社会的テーマと対峙する独自のスタイルが一層冴える高橋泉監督の新作『あたしは世界なんかじゃないから』は、今年の東京フィルメックスの最重要作の1本となった。見事学生審査員賞を獲得した授賞式直後の高橋監督に、光栄にもお話を伺うことができた。自らの体験に基づく作品のモチーフや映画作りへのこだわり、廣末哲万監督との映像ユニット「群青いろ」での先を見据えた活動に対する思いを力強く、ときに飄然と語ってくださり、映画への情熱と愛情にさらに深い感銘を覚えた。「今」を象徴するような事件を「普遍」に高め、なかなか作品を観る機会が訪れないことへの渇望を訴えると「今公開するのがもったいない」と撮った作品に絶対の自信を窺わせた。「映画を撮りたい」という衝動で錆びない作品を撮り続ける「群青いろ」の活動がますます楽しみになった。(取材:深谷直子

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高橋泉監督2――高橋監督が衝撃を受けられた、いじめられていた人はこれだけの思いを抱えているんだということが映画でとても生々しく描かれていて。いじめられていた芝野役の結さんが爆発して言い合うシーンは壮絶でした。

高橋 あそこは結さんが出てくるところから歌うところまででカットを割る予定だったのに、もうカメラを止めないでそのまま行っちゃいましたね。だからカットバックがないんですけど。言われているバド役の並木(愛枝)さんのカットバックが。もう一気に行っちゃって。

――結さんご自身があの場で高まってしまって。

高橋 泣き叫んでもう小学生みたいになってますけど(笑)、いい効果になりましたね。

――俳優さんもこういう苦しい役をやられるのは大変だったと思うんですけど、演出はどのようにされるんですか?

高橋 僕は脚本でもう半分以上演出しちゃってるので、現場では特に演出はしないですね。脚本を読める役者さんならあのぐらいまではできると思います。

――脚本を完璧に書いて、読み込んで役に近付いてもらってという?

高橋 そうですね。プロではない方も多いですが、撮ってて全然当てはずれな芝居をしているなという人には出会ったことがないですね。

――リハーサルはされるんですか?

高橋 リハーサルというリハーサルはしないですね。動きを確認するぐらいです。

――監督の脚本はセリフの文体がとてもきっちりしていて、演劇的だとも思います。セリフはかなりこだわって書かれていますよね。

高橋 セリフはこだわっていますね。結構言い過ぎとか言われたりもするんですけど、そこは人とは違う持ち味だと思っています。

――俳優さんたちはすごく自然な会話をしているように話すんですけど、それはきちんと書かれた脚本どおりのセリフということで。アドリブとかはないんですか?

高橋 アドリブはほとんどないですね。廣末(哲万)くんが酔っぱらって喋ってるシーンはアドリブでしたけど。あの愚痴ってたところは、2、3言のセリフしかなかったんですけど、ひとりでずーっとクダ巻いてて(笑)。

――ああ、あの酔っぱらいぶりはすごかったですね(笑)。

高橋 「俺だけの純米酒くださーい」って、あれはさすがにセリフにないです(笑)。でも基本アドリブはやらないですね。廣末くんとかは段取りとはまったく違うことをしますけど、僕の中では廣末くんは自由枠なので。

――基本的に脚本どおりに演じてもらうとのことですが、こういう激しいお芝居をするには、先ほどの結さんのようになり切って感情移入することも必要だろうと思います。

高橋 みんな感情は高めてきていると思うんですよね。僕と廣末くんとでずっとやってきている中で、俳優には演技と気持ちの両方がほしいということを思っていて。すべて演技で固めてしまうのも面白くないし、だけど演技だということを忘れて素でやるのも違うし、その中間あたりを出してほしいと。それをアドリブ芝居じゃなくてやりたい。

――撮影で難しかったところはどこですか?

高橋 密室の空気をどうするかというのがなかなか最初つかめなかったですね。復讐のミステリーなので痛々しくするというのは決めていたんだけど、それ以外に何かがないと、というその「何か」が結局当日まで分からなくて。

――室内の空気感を見せていくのは難しいですよね。

高橋 あと、ちょっと上手く描き切れなかったところがあるんですけど。首謀者の由六がお母さんとご飯を食べているシーンが1回あるんですけど、監禁している同じ家で普通の生活も送っているということを描きたかったのに、それがあまりよく分からないですよね。

『あたしは世界なんかじゃないから』場面3 『あたしは世界なんかじゃないから』場面4――ああ、同じ家で暮らしながら家族のやっていることが分からない怖さというのもこういう事件ではよく聞くことですが、確かにそこは今言われて少しうやむやになっていたように思いますね。ただ、密室の中での一触即発の緊張感というのがものすごくて。演出もですが、脚本もすごく緻密に練られているなあと思いました。密室で起こることをジリジリ見せていくようなところも、3組のカップルの別々の生活がいつしか呼応していくようなところも。

高橋 脚本についてはそんなに意識してそうなったわけではないんですけど、仕事でかなり脚本を書いていて、そのスキルがどんどん活きてきているなという気もしましたね。

――エンターテインメント性がすごく洗練されているなと思いました。監督としても、WOWOWの「人間昆虫記」(11)を『ロストパラダイス・イン・トーキョー』(10)で組まれた白石和彌監督と交互に撮られていましたね。面白く観ていました。

高橋 でもやっぱり違うんですよね。自分で撮るときとは、作品との距離が全然。

――他にも商業作品は撮られているんですか?

高橋 あとは携帯ドラマですね。そういう小さいのは何本かやったんですけど、作品と自分の距離がつかみ切れずに終わってしまう感じで。編集までやらないと自分の作品にはならないなあ。

――編集には時間をかけられるんですか?

高橋 そうですね、今回は整音を浦田和治さんというベテランの方にやってもらったんですが、かなり凝ってくれたんですよ。スケジュールとかもありながら。それも『ロスパラ』の方です。自主映画は音がよくないと言われるので、とてもありがたかったですね。

――あと印象的だと思ったのが、3つの章に分かれてそれぞれに意味深なサブタイトルが付いていますよね。

高橋 あれは完全に編集段階で入れようっていうことになりました。

――重い作品があれでコミカルな軽さが出てホッとする感じがします。

高橋 そうですね、重いことを描いているわりには「少し喋ってみませんか?」とかフワッとした言葉を使っていますね(笑)。

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あたしは世界なんかじゃないから 日本 / 2012 / 112分 / HD / カラー / 1:1.85
監督:高橋泉
製作:群青いろ 制作協力:カズモ
脚本:高橋泉 撮影:高橋泉 照明:廣末哲万 録音:ブジさん、川井武、中原潤也
整音:浦田和治 編集:高橋泉 音響効果:中村翼 音楽:Buji
出演:廣末哲万、新恵みどり、並木愛枝、高根沢光、結、カラトユカリ、礒部泰宏、中村倫子
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2013/01/11/16:42 | トラックバック (0)
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