ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ監督/『その手に触れるまで』

ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ (監督)
公式インタビュー 映画『その手に触れるまで』について【2/2】

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2020年6月12日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開


『その手に触れるまで』場面3 『その手に触れるまで』場面4 『その手に触れるまで』場面5
――主人公を演じたイディル・ベン・アディ自身もモロッコからの移民 3 世だそうですが、彼の家族はこの映画で描かれるイスラムについて、どのように受け止めていましたか?

JP イディルの家族は祖父母の代にベルギーにやってきました。イスラムの信仰はありますが、寛容です。イディル自身もイスラム教の儀式や禊などについてそんなに詳しくなかったので、私たちの友人でイスラムについての専門家が撮影現場でも説明して指示をしました。ご両親もシナリオを読んですぐに出演を許可してくれました。イディルのお母さんは、この映画が公開されたら、イディルをテロリストのような人だと周りの人に思われるんじゃないかと少し心配していましたが、最終的に OK してくれました。イディル自身は実はこの映画で初めて演技に挑戦したのですが、いい人じゃない役をやってみたいと思っていたそうです。熟練俳優が悪人を演じたい、他の人が出来ない役を演じたい、という気持ちで役に向き合っていました。

――イディルにはどのような演出をしましたか?

JP 若くても若くなくても俳優と仕事をするとき、まず舞台美術と小道具を使って 1 ヶ月半ほどかけてリハーサルを行い、準備したものが合わなければ変えていきます。リハーサルでは、ひとつひとつすべてのシーンをやってみます。イディルはリハーサルにすべてのセリフを覚えてきました。どんな話なのか理解してリハーサルに来ているので、彼は少しずつ役を覚えていく、という感じでした。動きもやるしセリフも読んでもらいます。前もって何かをお願いすることはありません。まずは動作を覚えてアクションに入って、セリフを言って、と体を通して覚えていってもらいます。特に「こうしてほしい」と具体的な演技指導はあまりしません。

――本作に限らず、いつも具体的な台詞の指導などはしないのでしょうか。

JP リハーサルを少しずつ進めるにつれて、役者の演技は良くなっていきます。動作をやってみて、小道具の使い方にも慣れてきて、リズムも徐々に完璧になり、台詞も自然にぴったりと合ったものになっていきます。セリフについて「こう言ってほしい」と指導することは稀ですが、イディルは若くエネルギーに満ち、感情的・表現的になりやすいので、そういう時は「もう少し抑えて」と伝えました。セリフを言う間を変えたい場合、「もう少しゆっくり」とか「もう少し早く」とか、「ここで台詞を言って、それから何歩歩いて」などと 伝えます。一番大切なのはリズムです。

――農場の娘ルイーズを演じたヴィクトリア・ブルックも非常に目を引くキャストでした。

L ヴィクトリアはキャスティングで見つけた少女です。アスリートであり、競歩が得意だそうです。映画に出るのは『その手に触れるまで』が初めてでしたが、この作品の後に別の作品で声が掛かっているそうで、演技も続けながら、競歩も続けているそうです。

――エンディング曲はどのように決めたのでしょうか?これまでの作品でもアルフレッド・ブレンデルを使用していますが、彼のピアノの魅力はどのようなところですか?

L ブレンデルのいいところはあえて表現をそんなにしないところです。演奏の仕方が客観的なところ。それが映画にちょうどいい。個人として、何かを表現しようとする感じがない、緩やかなリズムが続くのです。でも、それは、あくまでも、この映画に表現が合うと思ってのことで、情感豊かな演奏が好きな場合もあります。

――新型コロナウイルスが世界に蔓延してしまいました。ベルギーも例外ではなく、非常に厳しい状況が続いています。

L まず、家にいること、ひとに近づかないこと。家族であっても、異物が入ったら手を洗うことが重要です。それが蔓延を防ぐ方法だと思います。はじめのうちは年配の人だけが死ぬ、と言われていましたが、いまや若者も死んでいます。誰も避けることはできない病気です。持病があるひと、糖尿病や肺に煩いがある人は気をつけてほしいですね。今の社会において、健康、文化は公益でなくてはいけません。民営化してはいけない。アメリカの黒人たちを見ると、今の健康危機の犠牲になっています。貧民街では他の地域の人たちの 2 倍の確率の人が亡くなっています。治療も受けられず、栄養のある食事も採れない弱者です。私はこの機会に世界が変わることを期待しています。

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その手に触れるまで (2019年/ベルギー=フランス/84 分/1.85:1 映倫:G)
第72回カンヌ国際映画祭 監督賞受賞
監督・脚本:ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ
出演:イディル・ベン・アディ、オリヴィエ・ボノー、ミリエム・アケディウ、ヴィクトリア・ブルック、クレール・ボドソン、オスマン・ムーメン
エンディング曲:フランツ・シューベルト「ピアノ・ソナタ第21番変ロ長調 D.960 第二楽章 Andante sostenuto」(演奏:アルフレッド・ブレンデル)
英題:YOUNG AHMED 原題:LE JEUNE AHMED 後援:ベルギー大使館 配給:ビターズ・エンド
© Les Films Du Fleuve - Archipel 35 - France 2 Cinéma - Proximus - RTBF
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2020年6月12日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、
新宿武蔵野館ほか全国順次公開

2020/06/05/18:02 | トラックバック (0)
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