地球はイデ隊員の星

連載第8回 放送第7話『バラージの青い石』(前)

 本連載のテキストにしている〈ウルトラ1800〉シリーズのDVDは、1巻につき4話分収録です。つまり僕は現在、第5~8話を収録した2巻目を購入し、第6話までについて書き、第7話を見たところです。毎回を書ききらないうちは次回を見ないルールにしているものの、DVDのパッケージでおおよその内容は先に分かります。
  パッケージの第7話のあらすじには「中近東の砂漠に、相次いで隕石が落下した。調査に向かった科特隊だが、……」と書かれているので、初めて外国が舞台になる異色編に接する心の備は、前もって出来ていました。小学生の時の(何度目かの)再放送で、ボンヤリ見た覚えがありますし。心の準備なんて大げさなようですが、脚本が第1話以来の金城哲夫(南川竜と共同)だから、目先を変えるのが目的の出張ストーリーには終わらないだろうという予感があったのです。
  予感、的中。まさにその第1回でスルーされたテーマ、〈ウルトラマンは何者として地球に留まるのか?〉に、初めてひとつの理屈が提示される、スペシャルな内容でした。ムラマツキャップが、こう言います。
  「我々人類にとって、ウルトラマンは平和のための大切な神なのかもしれん」

 わあ。いずれそういう話はせねば、と機会を窺っていたのですが、こんなにモロな形で「神」というセリフが出てくるとは。しかもそれは、科特隊一行が中近東の地図にも載っていない幻の町バラージを訪れ、祀られている〈ノアの神〉の像を見た場面でのセリフです。5,000年前に現れたという〈ノアの神〉の像は、なんとウルトラマンそっくり……! あとでゾフィーを始め、ウルトラ兄弟のみなさんが連綿と登場する歴史を踏まえれば、実は昔にも先祖が地球に来ていた、という設定の広がりはSF的興趣に満ちており、とてもロマンがあります。しかし、こうして虚心で、後のことは知る由も無い目で第1話から見ていると、びっくりするなあ。
  ウルトラマンという新感覚の宇宙人ヒーローに、同族がいる。少なくともその可能性が描かれる。ウルトラマンは実は絶対無二の存在ではないのだと、作り手側から示唆しているわけです。後々、このショッキングな設定が非常にうまく利用され、「帰って」来たり、別の「兄弟」が来たりと賑やかなことになるわけですが、放送当時はかなり破格なメッセージだったのではないでしょうか。僕なんかは今、白土三平の「カムイ伝」を読んでみた時を思い出しているほどです(出没しては消えるカムイが本物かダミーかだんだん分からなくなる怖さ)。また、こうした複眼的な揺さぶりが、『新世紀エヴァンゲリオン』を生むパンの種のひとつになったのか、とも。

『地球はイデ隊員の星』イデ隊員 あやうく、イデ隊員のことを忘れるところでした。
  今回はですねえ、第5話ほどナンセンスなコミックリリーフにも走らず、第6話のように傍役キャラに徹することも無く。砂漠の怪獣アントラーに1人で遭遇する単独の場面は適度なもので、バラージの神官の女性チャータムと会って、「美女と怪獣かあ」と、いらんことをまた言ってもやはり適度な範囲。『ウルトラQ』の一平クンと同レベルの、スタンダードな三枚目です。イデ隊員度としてはある意味、いちばん低い。
  ただ、ウルトラマンが現れる時、なぜかいつもハヤタ隊員がいない、と早くから不審を持っているイデ隊員です。こんなエピソードの時にあれこれ言い出すと、ややこしいことになる。控え目にしてくれていて良かったという思いもあります。大体イデ隊員は、ビートルが砂漠に不時着した時に頭を打って流血したのに、包帯を巻いただけですぐに行動を始めている。実はこれだけでも敬服に値する相当なガッツですし、いつもの調子は出なくって当然なのです。

 イデ隊員のコンディションが万全ではない回ですから、そのぶん、「平和のための大切な神なのかもしれん」という重要な提示について、考えてみましょう。
  厳密には、〈ウルトラマン=神〉ではありません。前述の通り、唯一神でもない。あくまで第1話における本人の自己紹介によれば、「M78星雲ノ宇宙人」です。ただ、科特隊や人々が危難の際にウルトラマンに現れてほしいと祈る気持ち、また、本当に現れて怪獣と戦ってくれることへの感謝の念。銀色に輝く、立派でスマートな姿への賛嘆の念。これらにいちばん近いのは、神への(多分に現世利益的な)信仰に近いのですね。ムラマツキャップは、そこらへんの意識を、ひとつの概念として定義付けてみせたわけです。科学は科学でも、人文科学、行動科学の面まで押さえている人のようで、リーダーとしては実に優秀な人です。
  でも、「平和のための」というのは、定義としてならばやや個人的で、勇み足。なにをもって平和と見做すのか、は簡単には結論づけられない問題だからです。『ウルトラQ』『ウルトラマン』の製作・放送当時は、科学や文化の進歩が即、人類の平和につながるという認識が、世の基調となっていた時代でした。しかし一方で、同シリーズはここまででも十分、急速な進歩への疑念や風刺を織り込んでおり、そこが作り手の高い意識、良心の現れでもあるからです。

 だから、ムラマツキャップが「平和のための」と口を滑らせたのは、多分に願望が込められてのことだろう、と僕は見ます。
  第2話の時にも書きましたように、『ウルトラマン』の世界は、バルタン星人襲来以前にすでに宇宙人との接触があり、「宇宙語」が研究対象になっている世界です。国際科学警察機構としては、日本に定期的に現れるウルトラマンとぜひコミュニケーションを取りたいと考えているはずですが、地球上での活動時間に制限があるため、いつもそれは果たせません。緊急時のみ現れ、しかも常に人間の益になる側に立ち、事を収めるとすぐ空に向かって飛び去る。ここまでに唯一登場した宇宙人・バルタン星人が地球来歴までの経緯や目的などをねっちり開陳するのと比べたら、ウルトラマンのほうがよっぽど正体不明です。
  そう、もっと言ってしまえば、ウルトラマンこそが日本本土を支配する宇宙人だと仮定する必要だってあるのです。僕らは(ほんとはハヤタ隊員が変身してるんだヨネ)と知っているから、バルタン星人や怪獣をやっつけてくれるウルトラマンが有難がられるようすを、安心して見ていられる。けど、知らない立場からすれば、まだまだウルトラマンは謎の多い存在です。実は毎回の活躍は、自分がこれから支配すると決めた土地に跋扈する魔物や、宇宙人という名の夷狄を討伐する、自分の国の基盤づくりなのかもしれない……。そういえば、人間の側に立つモンスターの正体を知らない立場から突き詰める。それをみっちりとやったのが、平成「ガメラ」三部作でした。
  しかし、常に現場にいるムラマツキャップは、ウルトラマンには征服欲や邪心などは無いと判断できているのです。今回は、国際科学警察機構パリ本部から同行している連絡員・ジムも、アントラーと戦った後はすぐに飛び去るウルトラマンの姿を一緒に見ています。帰国後は直ちに報告しているはずですから、〈ウルトラマンは日本侵略に成功した宇宙人〉という可能性の検討については、一応はパリ本部でもペンディングになったことでしょう。

ウルトラマン Vol.2 [DVD] ところが、ここには重要な点がまだあります。ウルトラマンがいつ現れるか、つまり、いつベーターカプセルを出してウルトラマンに変身するかの判断は、自分ひとりに(ウルトラマンの信頼によって)任されているハヤタ隊員が、黙ってムラマツキャップの定義を聞いていることです。
  ここでいったん、第1話の、ハヤタ隊員とウルトラマンのやりとりを復習。
  「(ハヤタの乗るビートルと激突してしまい)申シ訳ナイコトヲシタ、ハヤタ隊員。ソノ代ワリ、ワタシノ命ヲ、キミニアゲヨウ」
  「キミの命を? キミはどうなる」
  「キミト一心同体ニナルノダ。ソシテ、地球ノ平和ノタメニ働キタイ」
  わあ、わあ。改めて見ると、なんつうファジーな会話をしているのでしょうか。

 前はあっさりスルーしてしまいましたが、第1話のラストでハヤタ隊員は、「(ウルトラマンは)どこにもいかないさ。彼は自分の宇宙船が爆発して、自分の星には帰れなくなったんだから」と隊員たちに説明します。これまた、よく考えれば、びっくりです。後続のシリーズでは(例えばタロウなんかが)宇宙空間を飛んでM78星雲に帰る場面があると記憶しています。だから、当然この初代ウルトラマンも身一つで飛んできたもの、赤い球体で飛来してきたのもメタモルフォーゼの一種なのだろう、とそんなに引っ張って考えていなかったのですが。地球にやってくる前、ハヤタ隊員と出会う前は、長い宇宙航行となればウルトラマンにも宇宙船が必要だったのだ。或いは、とりあえずはそう説明しておけばよい、とウルトラマンとハヤタ隊員の間で申し合わせがあったのかもしれない……。

 とにかく、地球上でもとの姿にいられる時間は限られているウルトラマンですから、ハヤタ隊員に申し出る「ワタシノ命ヲ、キミニアゲヨウ」からは、そうしてもらわんとオラ困る、行き場所がねえだ、というのっぴきならない事情が窺えます。ファジーなやりとりなのは、ビジネスの契約交渉とよく似ているからです。
  おそらくウルトラマンは、ハヤタが(本連載の第7回で書いたような)好漢、生真面目で善良な青年であることを素早く見抜き、こいつなら憑依して良いだろうと判断、その上で「一心同体」にならないか、と持ちかけています。ハヤタ隊員がウルトラマンの宇宙船との激突によって一度は死んだ、と解釈できるような雰囲気がありますが、そこはウルトラマンが商談において一枚も二枚も上手、ということ。アナタのボディをスナッチングさせて? なんて宇宙人にストレートに求められたら、誰でも断ります。そこでウルトラマン、足元を見られるカードは一切出さないで、ワタシがいないとキミも困るよ、という方向に話題を誘導しているのです。ハヤタ隊員としたら、あんな場で「ワタシノ命ヲ」と言われれば、他に選択肢は無いわけで。実は初代ウルトラマン、けっこう図太い面があったのでは……。

 話が脇道に逸れる一方なのか、それともより核心に近づいているのか、自分でもよく分からないうちにいつもの文量になってしまいました。まだイデ隊員はもちろん、バラージの話もちゃんとしていない。イデ隊員度は低いですが、回を分けることにします。

(つづく)

( 2010.9.24 更新 )

(注)本連載の内容は著者個人の見解に基づいたものであり、円谷プロダクションの公式見解とは異なる場合があります。

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2010/09/24/13:48 | トラックバック (0)
若木康輔 ,地球はイデ隊員の星
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