地球はイデ隊員の星

連載第11回 放送第8話『怪獣無法地帯』

 「火山噴火のために無人島になっていた多々良島に、2年半ぶりに定点観測所を再開することになり、4人の先発隊が島に向かうことになった。……それから1週間が過ぎた。だが先発隊からは何の連絡も無かった」
  「さらに3日が過ぎた。やはりなんの連絡も無かった。4人のことを心配した気象庁では、島になんらかの事故が起こったものとみて、ついに科学特捜隊に測候所員の救出を要請した」
  以上、冒頭のナレーション。「定点観測所」と「測候所」が少しゴッチャになっているかな。気象観測の場としては同じでも「観測所」はそれに基づいた調査が主で、「測候所」には予報・警報を出す仕事があります。おそらく「測候所」として書いているシナリオなので、以下はそれに準じます。しかしこの測候所も、現在は原則廃止・無人化が決まっています。観測技術の高度化などといった理由があるようで、警報などの業務は、現在は全国の気象台が行っています。

 いずれにしても、警視庁や国際科学警察機構パリ本部のほか、気象庁からも要請を受ける科学特捜隊。実に多忙です。
  そして多忙でも嫌な顔せず、全員で(ホシノ少年は抜き)調査に向かいます。若い組織なんだなあ、やりがいのあるお仕事なんだろうなあ、とつくづく感心します。また、ホントに「なんらかの」事態が発生することが実に多い。多々良島もそうで、地震と火山活動の影響で怪獣達が甦り、測候所を破壊して暴れまわる、想定以上のケースが待っていました。
  先週放送の「バラージの青い石」は、やや重たい話だった。ウルトラマンという存在への内省はいずれ必要だったとはいえ、怪獣をヒーローがやっつける愉しさもさらに打ち出してゆかねば。……こんな反省があったのか、第8話は一転して複数の怪獣が出てくる賑やかな娯楽編。例え放送順に深い意図が無かったとしても、結果としてみごとなバランス感覚です。

『地球はイデ隊員の星』イデ隊員 アマゾン奥深くの秘境へ入った探検隊が、恐竜のまだ生きている世界に遭遇。コナン・ドイルが1912年に発表した小説を25年に映画化した『ロスト・ワールド』が、この手のジャンルの嚆矢と見てまず間違いないでしょう。みなさんはご覧になっていますか? まだならば丁度いい。歴史的作品の確認ぐらいのユル~い気持ちで見ることをお勧めします。ストップ・モーション・アニメーションの技術がまだまだ素朴な、まったりした出来であろうと油断しながら接してもらえれば……。ムフフ。大満足をお約束できますヨ! 肉食恐竜、翼竜、首長竜に凶暴な猿人と、にわかには信じ難いほどたくさん出てきます。僕は途中で、数を勘定するのをあきらめました。戦前モンスター映画の決定版『キング・コング』(33)に先駆けて、連れて帰った恐竜が都市で暴れる場面までしっかり用意されています。そういえば『キング・コング』も、南海のスカル島ではゲップが出るぐらいモンスターが登場しましたね。両作品の特撮スタッフが共通しているのは、SF映画ファンならよく御承知と思います。

 始まりがこうなんだから、むしろ怪獣1頭だけで話を持たせるほうが傍流的発想で、見せ場の大盤振る舞いこそ怪獣映画の伝統に則っているのではないか。昭和「ゴジラ」シリーズの後半を〈怪獣プロレス化=子ども向けの妥協・堕落〉と見做してきた定説こそ、映画史的センスが欠落している。そう反論しようと思えば出来るわけです。
  そんな『ロスト・ワールド』の精神的リメイクとして、この第8話「怪獣無法地帯」は、筋立てのシンプルなところを含めて楽しみたいところです。ソフビ人形のロングセラーであるレッドキングほか、吸血植物も加えたらなんと5頭(種)の怪獣が登場します。初めてウルトラマン抜きの怪獣同士の決闘あり、科特隊だけで退治する怪獣あり(科特隊の標準装備での退治はこれも初!)と、大サービスです。

 せっかくなので、「怪獣無法地帯」のそのまた精神的リメイクである「怪獣無法惑星」についても。『ウルトラギャラクシー 大怪獣バトル』(07~08)の第1話のタイトルです。こちらもレッドキングが〈怪獣プロレス〉のローカル・チャンピオンとして登場します。
  (前説で書いたように)「ウルトラ」シリーズを気にしつつ遠巻きにしていると、いつのまにか新しいウルトラマンがどんどん増え、設定世界もとんでもなく拡がっていて泡を食います。『大怪獣バトル ウルトラ銀河伝説 THE MOVIE』(09)をてっきり完全オリジナルの新作と思い込んで見に行ったら、面白かったんですが置いてけぼり感もけっこう味わいました。それで慌てて、オンデマンドで「怪獣無法惑星」を見たのです。
  タイトル通り、ほんとにバトルに特化。もともと「ウルトラ」シリーズの人気を支えていた怪獣の主役化は、大伴昌司的おもしろがりかたの当然の帰結か……と大いに感じるところがありました。〈怪獣プロレス〉の技も進化していて、レッドキングが(確かテレスドンに)馬乗りになって両の腕で殴る姿は今で言えば、「マウントポジションの体勢からモンゴリアン・チョップ」でした。総合格闘技のテイストまで取り入れてるなんて、芸が細かい! パチパチ、1拍手。

 こうして最近のシリーズにまでレッドキングやらが登場し、現役で活躍しているのを見ると、もはや「初代ウルトラマン」=『ウルトラマン』は古典なのだ、と改めて思います。真の古典とは、現在までなお生命を保つもの、新しいアイデアの泉を指すからです。
  一方で、当然ですが1966年の初放送の段階では、『ウルトラマン』はピカピカの新品。未来派スペクタクルに仕立てた器に過去の映画のアイデアをどんどん取り込んでいるぶん、古い、より正確に言えば今では通用しにくいドラマツルギーも混じっています。
ウルトラマン Vol.3 [DVD]  ピグモンの話です。小さくて人間になつき、生き残った測候所員に水や食料を運んでくれる知能と優しさを持つ、初めて登場する毛色の変わった怪獣。広い意味で怪獣も動物/生物と捉えれば、確かに温和なものがいてもおかしくはありません。レッドキングみたいに問答無用な乱暴者に怯えて暮らすより、人間の傍にいるほうがよい、と生存本能が選択したのかもしれませんしね。
  しかし、このピグモンが、生き残った測候所員や隊員達を襲いに来たレッドキングを止めようとして、レッドキングの投げた大きな岩石に当たり、絶命する。
  なにか報われない最期……。人間サイドからの感謝の言葉が、特にないからでしょう。怪獣側からしても裏切り者のように見える。つまり、ピグモンの決死的行為に対してシナリオ上のフォローがないため、スッキリしない。こういうの、昔の映画を見るとよくあるんだよなあ。

 例えばアメリカの西部劇。騎兵隊の若者に、道案内の太ったインディアン娘が恋をして付きまとう。若者が閉口してそのつど逃げ出す辺りが、ドラマの緊張をほぐす笑いの1挿話となる。クライマックスは好戦的な部族の襲撃。若者がピンチの時、娘が酋長に話をつけようと飛び出す。若者は助かるが、娘は部族の弓か流れ弾かで絶命。少しは悲しんでもらえるが、映画としては目先のアクションのほうが優先で、結局は晴れがましい勝利で終わってエンドマーク。……どうです、こういうピグモンそっくりの脇役の使い方、ずいぶん見たことあるでしょう? 戦争映画や冷戦下のスパイ映画なんかにも多かった。そのくせ、これ、という典型的なタイトルが思い付きません。そこにあまり意味がないからです。
  価値観の違う同士の戦いのさなか、両者の狭間に立ってしまった者は死ぬ他になくなる。そんな悲劇性でテーマを強調する、一種の聖なる生贄としての存在感は、当初は確かにあったのだろうと思うのです。ただ、作劇上の「手」となった途端に意味合いが安くなった。便利に、あとくされなく死んでもらうために、ブサイクやマヌケがより強調されるようになった。三枚目キャラクターのいちばん情けない、つまらない使われ方。言いたかないけど、この安い「手」を使えるだけ使い回して全体の劣化を招いたのが、かつての日本のプログラム・ピクチャーでした。B級の旧作をなんでも楽しむコレクティヴな情熱がどうしても今一つ高まらないのは、そこらへんに対する引っ掛かりのようです。

 ピグモンの扱いは、当時の安易なドラマツルギーを基にしているために残念なことになった……。そう捉えている僕ですが、逆に考えれば、さっき書いた〈価値観の違う同士の戦いのさなか、両者の狭間に立ってしまった者〉の存在を怪獣番組に取り入れたアイデア自体は、すごく進歩的かもしれません。怪獣=退治すべきもの、と硬直化せず、怪獣と人間の共生の可能性を示した、それだけでも高く評価すべきなのは確かです。生き残り、ピグモンに助けられた測候所員は「怪獣達の中にもあんな善良なやつを作った神を、私は信じるようになりました」と呟きます。
  そこで、イデ隊員。待ってました、イデ隊員。
  今回も基本は脇に引っ込み(ただしフジ隊員と2人で魔境を怖がる姿は相当キュート)、「小さな怪獣でも油断はできない」とピグモンを警戒する意見に賛成していたイデ隊員ですが、誤解だったことが分かると、すぐにピグモンにこう言います。

 イデ隊員のおとこ語録:第8話 「ごめんよ」

 とてもカンタンなセリフですが、相手が小さいとはいえ怪獣なのがミソです。今までその怪獣と対峙して、ずいぶん危険な目に遭ってきたのですから。人間になつく場合もあると知った途端、「(疑っていて)ごめんよ」と声を掛けられるなんて、なかなか出来ることではありません。しかもイデ隊員は、「すみません」が口癖のタイプではない。第4話(本連載では第5回)を思い出してください。上司に入れるコーヒーの砂糖と塩を間違えても、それは故意や怠慢によるミスではないのだから、とついに謝らなかった男です。しかし相手を予断の目で見ていたと分かれば怪獣でもすぐに謝り、失礼だったと認める。調子がいいようで、やはりホネがあるのです。
  種ともこのヒット曲は「10円でゴメンね」。イデ隊員はおとこだから、怪獣に「ごめんよ」。
  僕なんかは、なんでもとりあえず「すみません」と言っておくテキトーなタイプですから、締まりの無さを反省させられます。……イデ隊員のようにできるかな!

 今回はちょっとこぼれてしまいましたが、怪獣と戦ったハヤタ隊員が気絶してしまう場面。これは、第7話でしつこく書いたウルトラマンとハヤタ隊員の同一性を考える際のポイントです。
  ハヤタ隊員=ウルトラマンならば、気絶するはずないだろう。そう思いつつ見直してみた崖から落下する場面。これ、どう考えても普通なら即死だよ……。
  大体、第2話の変身の方法もかなりアブノーマルでした。ビルの窓枠に引っ掛かったベーターカプセルを、屋上から飛び降りて掴み、落下しながら変身なのです。どんだけダイ・ハードな思い切りの良さだ、ほとんど宮崎アニメ的でさえあるな! と感心はしていましたが、(俺は死なない)という確信が無ければ、あれは無理でしょう。
  そう、ウルトラマンはハヤタ隊員に(自分が現れる為の)ベーターカプセルを託した時点で、ハヤタ隊員を死なすことがない。どんな事故が起きても気絶や怪我ぐらいに留める。それだけの生命力を与えているのです。そして、ハヤタ隊員もそれを自覚している。
  ハヤタ隊員とウルトラマンは、やはり「一心同体」ということになるのでしょうか。

(つづく)

( 2010.10.15 更新 )

(注)本連載の内容は著者個人の見解に基づいたものであり、円谷プロダクションの公式見解とは異なる場合があります。

『円谷プロダクション公式Webサイト: 円谷ステーション』 2012年3月24日(土)公開「ウルトラマンサーガ」

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2010/10/15/12:18 | BBS | トラックバック (1)
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「ウルトラマン」第8話「怪獣無法地帯」 A あしたはきっとやってくるさ!

どくろ怪獣 レッドキング 有翼怪獣 チャンドラー 地底怪獣 マグラ 友好珍獣 ピグモン 怪奇植物 スフラン 登場

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「ウルトラマン」第8話「怪獣無法地帯」 A あしたはきっとやってくるさ!

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