――なぜ山に登るのか?と問われた登山家のマロリーが、
「そこに山があるから登るのだ」と答えたという逸話は余りにも有名だが、
サーファー達が波を求めるのも恐らく同じような理由なのだろう。
5人の凄腕サーファー達が"最高の波"を求めて世界各地を旅して回る様子を追いかけている本作から感じるのも、
サーフィンの魅力にある理屈で図れない部分や懐の深さだ。
だが、率直に言って、
そうしたサーフィンの魔力やサーファーのライフスタイルを伝える作品は、それほど珍しいものではない。
数あるサーフ映画の中でも、本作をひときわユニークな作品としているのは、
日本では余り知られていないブラジルのサーファー達の姿をつぶさに捉えているからに他ならない。
サーフ映画最大の醍醐味である華麗なサーフシーンが、
本作にも随所にちりばめられているのは言うまでもないが、中でも興味深いのがプロ・サーファーという
「職業」にスポットを当てていることと、
見落としがちなサーフィンの危険性について触れていることだろう。
しばしば映し出される真っ二つに引き裂かれたボードや波の直撃を受けて吹き飛ばされる映像は、
ファンション感覚だけで楽しむには余りにも強大すぎる波の力の凄まじさを生々しく物語っている。尤も、
彼らに言わせれば「落ちることもまた一興」らしいが。
また、本作では彼らが訪れる先々でサーフィンするだけでなく、
よく笑いよく食べよく遊ぶ姿を丁寧に記録している。その様子はもはや趣味という範疇ではなく、
生活の中心に一本の芯が通った人生とはどういうものかを我々に伝えてくれる。勿論、
サーフィン三昧の彼らは一人として裕福な者はいないし、昨今の日本的尺度で言えば、彼らは間違いなく
「負け組」だろう。それでも日々笑顔が絶えることなく、自身を「最高に幸せ」と断言できる、
そんな彼らの人生を素直に羨ましいと思う。もしも生きるに値する人生があるとするならば、
本作が伝える彼らの生き様は間違いなくその見本の一つと言えるのではないだろうか。
もしもあなたが、「勝ち組」とか「負け組」
などというつまらない尺度に一喜一憂して思い悩んでいるのなら、
或いは慣れない仕事に対する先行きの不安に押し潰されそうになっているのなら、
迷わず本作を観てみるといい。最高の「負け組」であるはずの彼らが、最高の「勝ち組」
に他ならないということがきっと理解できるはずだ。サーフィンに興味のある人は勿論、
そうでない人(特に人生崖っぷちな気分な人)にもお勧めしたい、
ラテン系ヒーリングドキュメンタリーである。
(文:仙道勇人)
|