地球はイデ隊員の星

連載第5回 放送第4話『大爆発五秒前』

 『ウルトラマン』の1話完結の基本パターンが固まるにつれて、イデ隊員は本来の身上である脇役のポジションに回り始めていく。そういうお話を、前回にしました。第4話のイデ隊員は、さらに引っ込みます。作戦行動の際は本部で留守番。オペレーター役に徹します。
 第3話までのエピソードを改めて考えると、バルタン星人との交渉は失敗するし、意見はみんな却下されるし、作戦上の貢献はほとんど無いイデ隊員です。今回も、登場怪獣の習性の勉強を活かして(その点は後で書きます)「そうだ! ラゴンは音楽が好きだった」と対策アイデアを出せば、かえって凶暴にさせてしまう結果に終わったりして。

 重ねて言いますが、ここまでのイデ隊員はストーリー上は(未だに)道化、無能の人です。しかしそのぶん、往々にして愚者こそ真実に近づく場合がある、という民間説話的には重要な役回りがイデ隊員には与えられています。ウルトラマンはいつも、ハヤタ隊員の姿が見えなくなるタイミングで現れる。なんかおかしい……と、1人だけ不審を覚えているのがその典型ですね。栄えある科学特捜隊の隊員としてガンバルとあんまり上手くいかず、いわゆる天然の感性を丸出しにすればシャープになる。イデ隊員の抱える複雑さは、近代人の矛盾そのものに通じます。
 愚者の自覚を持つ者だけが賢者となれる。原始仏教にはそんな教えがあるそうです。それを思い出すと、今回のクライマックス、ピンチの場面で「ウルトラマンさえ来てくれたらなあ……。ウルトラマン、来てくれ!」と口走るのがイデ隊員であることに、僕はちょっとした戦慄を覚えます。基本パターンをいよいよ決定的にするセリフであると同時に、人知を越えた絶対的な存在を認め、その発現を求める信仰の言葉とも聞こえるからです。また、この場面における野長瀬三摩地の演出は、イデ隊員の真剣な表情をわざわざ仰ぎのアングルでクローズアップするもんだから、特に印象が強い。
 第1話で自分は「M78星雲ノ宇宙人ダ」とハヤタ隊員に自己紹介するウルトラマンが、今後はどんな存在として地球上で認知されていくのか。ジワジワと外堀を埋めていくエピソードであり、核心に迫る役を担うのは、またしてもイデ隊員なのでした。……ちなみに第1話の初放送は1966年7月17日で、この第4話は8月7日。大映の『大魔神』が劇場公開されたのは、同年の4月17日だったりします。ウルトラマンと大魔神は、映画館とテレビで、ほぼ足並みを揃えて登場したのです。

『地球はイデ隊員の星』イデ隊員 ふう。今回はいきなり、重ための角度から始まりました。毎回、なにを書くことになるのか自分でも分からないから、怖ろしくて面白いです。南川竜が脚本を書いた第4話の中身自体はテンポのよい、スピーディな1篇。イデ隊員も前述した以外はいたってコミカルな三枚目でした。
 事故で海底に沈んだ原子爆弾をエラに引っかけたまま、海底原人ラゴンが現れた。ラゴンを何とかしないといけないし、原子爆弾も無事に回収せねば。サスペンスの枷が二重になっており、また、科特隊のメンバーがみな離れた形で行動するのが今回の特色です。ラゴンの行方を調査するハヤタ隊員。休暇先の葉山マリーナでラゴンと居合わせたフジ隊員とホシノ少年。ビートル機で直行するアラシ隊員。そして、本部で指示を出すムラマツキャップと、フジ隊員の代行でオペレーター役になるイデ隊員。それぞれが緊密に無線で連絡を取り合い、顔を合わせなくても作戦を展開していくようすが、とてもカッコイイ。科特隊がいかにふだんからチームとしてまとまっているか、有事の際の心構えを共有できているか、よく分かります。
 ここで管理職のみなさんに提案。新入社員のオリエンテーションの際には、この『ウルトラマン』第4話を見せてはいかがでしょう? 「ホウ・レン・ソウ(報告・連絡・相談)」の大切さを、とても楽しい形で学ぶことができます。……あ、でもダメか。怪獣=取引先やお客様ってイメージの植え付けになるもんな。スイマセン、すぐ却下です。
 (おっとそうそう、第1話では「アキコ隊員」と呼ばれていたのでそう書いてきましたが、第4話では「フジ隊員」に。なのでそちらに倣っています)

 イデ隊員は(おそらくトイレかどこかへ行っていた間に)現場へ向かう任務をアラシ隊員に持っていかれ、「貧乏クジ引いちゃったなあ」とボヤきます。怪獣退治の危険な仕事はぜひやりたい、留守番なんかつまらないわけです。こうした科特隊の気風というか、若々しい覇気、どこかで見たゾ……とよくよく考えると、次郎長親分に叱られるから喧嘩できずムズムズしている子分の姿に似ているのでした。そんな稚気が特に明るい魅力になっていたのが、東宝でマキノ雅弘が監督した『次郎長三国志』シリーズ(52~54)です。
 そう、科学特捜隊って、なんか次郎長一家に似ているのです。今回だと、休暇で出かけるフジ隊員に連れがあるのを知って、イデ隊員とアラシ隊員がちょっとドキンとする場面。チームの紅一点に対する淡い感情が窺えて、とてもチャーミングです。実はなんてことない、相手はホシノ少年だと知った二人が「イサムくん(ホシノ少年)か~」とユニゾンでホッとなる辺り、寿々屋の看板娘お千ちゃんが気になる桶屋の鬼吉と関東綱五郎みたいで、これもまた多福感。そうなると、ムラマツキャップはもちろん次郎長親分で、ハヤタ隊員は参謀役の清水の大政ってことか。
 科学特捜隊には西部劇や戦争映画の独立部隊を思わせるカラーがあると書き、フランス映画の洗練が香るとも書いて。今度はマキノの次郎長一家に似てるときた。我ながら行き当たりばったりですが、それだけ、あのメンバーの設定が職場劇、チーム劇としてよく出来ているのですね。逆に僕より若い世代の人が科特隊に接したら、『踊る大捜査線』の湾岸署や『ONE PIECE』のサウザンドサニー号の連中なんかを重ね合わせられる気がします。ここらへんの楽しさは、今後も折に触れて書いていきたい。

ウルトラマン Vol.2 [DVD] 今回の怪獣ラゴンは、『ウルトラQ』第20話「海底原人ラゴン」に続いての再登場です。その時に発見された、音楽を聞くとおとなしくなる習性が、イデ隊員の口からも語られている。つまり、『Q』と『ウルトラマン』の世界は、実はつながっていたのです! これはけっこうなオドロキだ……。しかし、『Q』のように怪事件が次々と起きる世界ならば、科学特捜隊が所属する国際科学警察機構のような組織に、発足の必然性が十分に生まれるのは確か。僕は内心、『ウルトラマン』は『妖星ゴラス』(62)とつながった世界ではないかと踏んでいたのですが、ここまで、ラゴンがまた現れたという話を堂々とされたら、考えを修正せざるを得ません。
 まあ、それでも、『ウルトラマン』の世界は近未来ではなく、多元宇宙・同時存在であるという僕の仮説、今のところは間違っていないでしょう。海中に落ちてラゴンのエラに引っかかってしまった原子爆弾も、もとは「木星開発用に宇宙ステーションに輸送」するためのもの。そこまで科学が発展しているのに、葉山マリーナでの風俗は昭和40年代前半にしか見えないのですから、やはり我々の住む世界とは、ちょっと違う形で文明が進んだ世界なのです。
 ……架空設定の整合性をあれこれ考えるのは、正解のないパズルを解くようだ。でもなんだか、そこが面白いですねえ。わざわざ悩みたくて試みる、一種のゲームです。熱心なファンのみなさんの気持ち、僕もだいぶ分かってきました。他に例を挙げれば(例えはなんでもいいのですが)、東京が舞台の『白い指の戯れ』と関西ストリップの世界を活写した『一条さゆり 濡れた欲情』。72年に公開された2本の日活ロマンポルノのどっちにも、まるっきり同じ喫茶店が登場する。あれは一体……と大マジメに首をひねってみることが、楽しいわけです。ここでワケ知り顔で、製作条件がどうのこうのと言ってしまっては、ゲームにならないのですね。

 で、せっかく再登場したラゴン。『Q』でのエピソードがいい話(陸に上がって暴れるが、本当の目的は……)だったし、モノクロ画面で映えるフォルムは怪奇的魅力たっぷりだったのですが、今回は精彩なし。かつて人類の前に地球を支配していた一族の末裔という劇的なプロフィールをお持ちなんですが、巨大化してしまうと、天災の一種としての怪獣扱いになってしまい、勿体ない感じでしたね。(この勿体ない感、設定そのものにドラマをもっと描き込めるのではないか、といった反省材料が、シリーズの今後、それに『ウルトラセブン』などに活かされていくのでしょう)

 今回は留守番役だったイデ隊員。冒頭で紹介した、非常に重要なセリフはあるのですが、彼本来の魅力に根差した〈男のなかの男〉度が高いセリフがまるっきり無くて困りました。
  今回は残念ながら消去法で、これ。

 イデ隊員のおとこ語録:第4話 「ムグウ~、塩でした」

 ムラマツキャップに「こういう時(報告待ちの待機)にフジ隊員なら、黙ってコーヒーを持って来てくれるね」と言われ、「コーヒーねえ。ハイハイ……」と、しぶしぶ従うイデ隊員。しかし、キャップは一口すすって渋い顔。呑んでみろ、と言われてこのセリフです。消去法とはいえ、ここにはやはりイデ隊員の良さがあります。上司に入れるコーヒーの砂糖と塩を間違えても、「すみません」とは言わない。そりゃあ、言ったほうがいい場合が多いでしょう。でも、「ムグウ~」という表情に愛嬌さえ備わっていれば、多くの上司はそれ以上は気を悪くしないものです。慣れないお茶汲み仕事でもやってみる、その上での失敗は、怠慢によるミスとは別種なので、求められない限りは謝罪しない。そういう個性を認めるムラマツキャップの度量に拠るところが大きいのですが、失敗した時こそ愛嬌が必要、というスキルは誰にも必要ではないかと思います。

 しかし、しかし。第4話で最も〈男のなかの男〉度が高いのは、実はホシノ少年でした。
  フジ隊員と小さな女の子のもとに巨大化ラゴンが迫る、危機一髪の場面。ホシノ少年は突然飛び出し、「わーいわーい、こっちだぞー、ラゴーン、わーい」と大声を出してラゴンの気を逸らします。な、なんという騎士道精神の発露! さすがは科学特捜隊が将来を見越して育成している(と思われる)少年です。僕は大いに感じ入りました。
  だって、アナタの親しい同僚が、大事なクライアントを怒らせてしまった事態を想像してみてくださいな。一体どうなっとるんだ、と上司が鬼の形相でフロアに乗り込んできます。同僚のピンチ! その時アナタはホシノ少年のようにスックと立ち上がり、「わーいわーい、部長やーい、こっちだぞー」と囃し立て、同僚をうまく逃がすことができますか! 僕にはとても無理です……。いや、余計に話がこじれるから、できたとしても、やっちゃダメですヨ!
  ともあれホシノ少年が見せてくれたのは、勇敢極まる行動なのにカッコワルイから1度見ただけでは印象に残らないという、イデ隊員のお株を完全に奪う真の侠気なのであります。科学特捜隊って、つくづく、いいなあ。

(つづく)

( 2010.9.3 更新 )

(注)本連載の内容は著者個人の見解に基づいたものであり、円谷プロダクションの公式見解とは異なる場合があります。

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2010/09/03/11:08 | トラックバック (0)
若木康輔 ,地球はイデ隊員の星
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