連載第18回 放送第12話『ミイラの叫び』(中)
2010年の11月から休止していた「地球はイデ隊員の星」、連載を再開いたします。中断が長引き、申し訳ありませんでした。
弁明にやや宣伝も入ってしまいますが、書籍「現代日本映画人名事典」(キネマ旬報社)の執筆に参加し、これが自分のスケジュール管理の失敗で、予想以上のマラソン作業になってしまっておりました。その間、「イデ隊員」の休止はずっとプレッシャーでした。それだけ多くの読者がいてくれたとは自惚れておりません。あくまで宿題のやり残し感でした。(だけど声をかけてくれた数人のひと、ありがとー!) ようやくこうして書き出せてホッとし、同時にやや緊張気味です。またよろしくお願いいたします。
自分自身の復習のためにも、改めて本連載の進め方を整理してみます。
1・イデ隊員から〈理想の男性とは何か〉を学び取ろう。この発想をテーマの軸とする。
2・そのテーマ軸を基に「初代ウルトラマン」の全エピソードを初めて順番に見てみる。
3・イデ隊員チェックは、コラム的に1話ごとに完結させつつ、「初代ウルトラマン」全体について思ったことはなんでも書き、論の材料として散らかしていく。
なにしろ、1話ごとに検討したところでようやく次のエピソードを見ていく進め方を採っていますから、最終的にどんな結果になるか見当がつきません。イデ隊員を「男のなかの男」と尊敬するのはムリでした、なんて結論ももしかしたらあり得る。それに文体も興味のポイントも、コロコロ変わるかもしれません。
どうも「イデ隊員」に関しては、先に全て見て論旨をしっかり固めてから書く論文的作業をしたくないのですね。考える過程をそのまま率直にお見せしたい、といいますか。いい加減な態度のようですけれど、自分としては、頭のなかで推論を繰り返しながら仮説を立てていく「思考実験」に方法論は似てるんじゃないか、と思っています。「思考実験」は物理学者エルンスト・マッハ(音速のマッハはこの人の名前から)が初めて使った用語だそうですが、考察のシミュレーションと言い換えてみれば、もっと伝わりやすいかな。
さて、テキストとなる『ウルトラマン』。第12話まで見てきた時点ですでにもう、未回収の推論だらけ。焦らず、連載休止以来初めてDVDを出して(ホントにストップしてたんだなあ)、もういっぺん第12話を見てみます。
20数分後。……なにこれ、『ウルトラマン』ってメチャメチャ面白いじゃん! あっさりスタート地点の新鮮さに戻ることができました。テンポが良くてカラフル。ミイラ人間のあたりはしっかり不気味で。人間の発掘で眠りを覚まされた怪獣をウルトラマンが倒す、その勇ましさを単純に喜べない複雑なテーゼを織り込み。なおかつ、全編が大らかで明るい。童心に返って云々という割り引いた感覚は全く無いのがまた嬉しい。
再開のエピソードが円谷一(はじめ)演出作であったことは、ラッキーだったと思います。多くのみなさんご存じのように監修者・円谷英二の長男であり、初期『ウルトラ』シリーズのメイン監督。『ウルトラマン』第1話を演出し、主題歌の作詞(東京一名義)も手掛けています。昔は、円谷一が演出の時はまったりしていてコクがない、と思っていたものですが。この人が大黒柱としてウルトラマンらしいエピソードをストレートに撮っているから、他の監督が自分の色を出す工夫ができたこと、今ではすごくよく分かります。
実相寺昭雄著「ウルトラマンに夢見た男たち」(筑摩書房)の、「ロマンチスト」だったという円谷一について書かれているくだりを改めて読むと、親愛の心のこもったいい文章でした。少し長くなりますが、『ウルトラマン』全体を捉える上でもかなり大事な部分を一部引用しておきます。
「一さんの作品を特長づけるものは、そういったロマンティックな気分が、押しつけがましくなく、ある種の大らかさに包まれて、しかも表現が職人的なたしかさに支えられていた、ということだろう。
ときに、そのおおらかさが、ぼくらにはずいぶん大雑把なものとうつることがあったけれども、しまいには、一さんの人柄の発露ということで納得させられるのだった。
つくづく、監督は人なり、だと思う。」
ストーリーそのものは前回に書いているとして、さあ、我らのイデ隊員は、第12話ではどんな姿を見せてくれているか。
怪獣ドドンゴに向かう射撃の名手・アラシ隊員が言います。
「イデ、バリヤー・マシンを出してくれ」
「待ってました」
そう、「イデの発明した新兵器」が初登場。イデ隊員の重要なパブリック・イメージのひとつ、新兵器発明家の面がとうとうお披露目されました。背中と胸に装着するバリヤー・マシンをイデ隊員に渡す時のイデ隊員、どうだいとばかりにニコニコ顔です。
本連載では、イデ隊員を『ウルトラマン』の主要キャラクターでありつつ、ひとりの血肉の通った人物としてその行動・言動を検証しますが、ふだんは職場の三枚目、道化役、なんでもこなすイデ隊員がいつ新兵器を作っていたのか、驚かされます。やはり、「パリに本部を置く国際科学警察機構の日本支部」にあり「怪事件や異変を専門に捜査」する科学特捜隊のメンバーに選ばれたスーパー・エリートだけあります。カタコトながら宇宙語は話せるし(第2話)、過去に出現した怪獣のデータを把握しているし(第4話)、新兵器まで作れる。そういえばイデ隊員には時々、みんなが集まる場にひとりだけいないことがありましたよね。そうか、場を外している間は別室で勉強し、なおかつ新兵器を作っていたんだ!
イデ隊員は〈男のなかの男〉=酸いも甘いも噛み分けていることすら余人に気取らせない本物の人物、社会遊泳術の達人。そう僕が捉えているのは、以前に書いた通りです。
冷静に考えたら、科学特捜隊のなかで最も優秀と見なされて当然の人材です。それが、そうならない。余計な軽口を叩いたり、とぼけた真似をして自分を落とし、ハヤタ隊員やアラシ隊員のほうを立てる。機微に通じているのです。自製の新兵器を見せて、えっへんとなるあたりは真骨頂です。
ただ、分かりにくいと感じる人もいると思います。あんなに自慢げな顔をするイデ隊員のどこが男らしいのか。実るほど頭を垂れる……と昔から言うじゃないか、と。もちろん原則はそうです。しかしですね、イデ隊員ぐらいキレ過ぎるほどキレる男だと、もういちいち謙遜してられないのです。
ハッキリ言うと今はおりこうさんが多いですから、ホント、みなさん競うように謙遜しますよね。よくあるでしょう。お世辞抜きで誉めただけなのに、自己顕示の強い人ほど「いやあ、僕(私)なんかまだまだですからッ」と警戒心たっぷりに跳ね返してきて、だけど目はギンギンに続きを聞きたそうな場合が。こっちのほうが慌てて「そんなことないよ」と何か盛り足さなくちゃいけなくなり、かえってくたびれる。儒教的精神風土がRPG型合理性のもとで変質進化してしまい、謙遜するほうがポイントGETできると幼いうちから学んでしまえるご時世です。素直に誉めてもらえたら素直にありがとうと受け止める。明らかなお世辞は聞き流す。それだけでいいのです。ごくたまに「やーね、もっと言いなさいよ」とか「キミもやっとオレの真価に気付いたか」なんて言って笑わせた後はさらっと流せる人と会うと、こころがおシャレだなあと尊敬しますが、まあ、ここまで来たら人間も師範クラスですから。
真から聡明なイデ隊員も同様で、謙遜にまとわりつく利己がイヤなんです。だから、わざわざ子どもみたいに得意な顔をして、優秀さを自らぼやかしてみせるのです。大陸的感性ともいえるし、とことん含羞と屈折の人であるともいえます。
バリヤー・マシンが効力を発揮した時のイデ隊員のセリフは、以上のニュアンスを踏まえながら受け取って頂きたいです。
イデ隊員のおとこ語録:第12話 「ねえキャップ、見てくれましたね? 僕の作ったバリヤー・マシン、なかなかイカすでしょう!」
毎回の量は3,000文字前後に留める当初のルールが、休止前はなかなか守られませんでした。再開後は守ろう、と決めていたら、話の途中でもうオーバーしてしまった。第12話のイデ隊員にはもうひとつ、語らなければいけないことがあります。
(つづく)
( 2011.11.12 更新 )
(注)本連載の内容は著者個人の見解に基づいたものであり、円谷プロダクションの公式見解とは異なる場合があります。
- 監督:本多猪四郎, 鈴木俊継, 黒田義之
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