今週の一本
(2005 / 日本 / 石井隆)
扇情的なアングルで埋め尽くされた、「村木と名美」の物語

膳場 岳人

 真っ先に断っておかねばならない。筆者は石井隆の漫画家としての顔をそれほどよくは知らないが、映画監督、 あるいは脚本家としての氏に関しては、熱烈なファンだ。よって、彼の作品に対する客観的な視点や距離感を持てないし、持つ必要を感じない。 愛する映画監督が切々と奏でる官能的なメロディを前にして、感情を押し殺した冷徹な分析、批評を施すくらい野暮なこともないだろう。 石井隆の映画を支えているのは女体への熱狂であり、どす黒い妄想であり、暗くてひたむきな情熱であり、血の滾った性器であり、 赤く濡れそぼった性器であり、切り取られホルマリン漬けされた性器だ。ピンク映画の世界以外で、 勃起しながら滂沱するという稀有な体験をさせてくれる現役映画監督を、筆者は石井隆しか知らない。

 『花と蛇2 パリ/静子』は、前作に通じるダイナミックで祝祭的なSMシーンを中盤に収めながらも、 基本的には小ぢんまりとまとまった夫婦愛の物語である。前作で人々の眉をひそめさせた過度に暴力的なニュアンスは息を潜め、 老いた美術評論家とその妻、若い画家とその妹、という二組のカップルに登場人物を絞り込み、 彼らの思惑と情交が交錯するシンプルな筋立てになっている。その分、一つ一つの濡れ場に安定感と凝視の力強さが加わり、 映画の個性と輪郭を明快なものにしている。その明快さは、酩酊を誘う映像美に現れている。ブニュエルの『昼顔』を意識したかのような、 色数と発色を抑えたシックな映像のトーン。そこに降り立つヒロイン・静子役の杉本彩は、完璧すぎるプロポーションに相応しい、 紛い物めいたエレガンスを身にまとわせていて、石井隆の劇画風映画世界にすっぽりと収まっている。

 SM映画なのだから、静子にはジュスティーヌばりに次から次へと「濡れ場」と「責め」が降りかかってくる。 プロローグの気が触れたような夢魔の後、彼女は裕福な家庭の妻として登場する。夫(宍戸錠)による背中へのマッサージ。 その手はやがて臀部に及び、いつしか夫婦のエロティックな戯れとなっていく。その慈しみといたわりにみちた行為は、 石井隆の映画において不吉な出来事の前兆である。『夜がまた来る』の冒頭、永島敏行による柔らかな愛撫に喜悦の声を上げていた夏川結衣は、 その後、目も覆わんばかりの陵辱地獄に突き落とされた。ここでも、静子は非現実的なまでの地獄めぐりに赴く羽目になる。もっともそれは、 時に甘い快楽を伴うものなのだが。

 長い間絵を描けないでいる若い画家(遠藤憲一)に絵を描かせるため、パリに向かった静子。彼女は訪問したアトリエで、画家が裸の妹 (不二子)に乱暴を働いている場面に遭遇する。妹が憤慨して出て行くと、画家の毒牙は静子に向けられる。必死に抗い、 自分のホテルに逃げ帰った静子は、昼間のことを思い出してこれまで「したことがない」と言い張る自慰行為に手を染め、自ら達してしまう。 そして翌日、アトリエを再度訪問するとき、静子は胸をはだけたセクシーな装いになっているのである。こうした彼女の行動に、 フェミニズム的視点からいちいち突っ込みを入れるのは無意味だ。ここで重要なのは映画であって、思想や倫理ではない。 静子は画家に裸になって欲しいと懇願されると、それほどの躊躇もなく脱いでしまうし、さらに「縛りたい」と頼まれると、 素直に両手を後ろ手に差し出す。なぜなら、これは『花と蛇』だからだ。人は、静子の軽やかな受容の精神が、「SM」 という言葉から連想される暗さから、映画を救っていることに瞠目すべきである。

 筆者が本作でもっとも魅入られた濡れ場は、画家のアトリエにおける一連の調教シーンだ。静子は画家によって緊縛され、 言葉や舌で責められながら、いつしか被虐の喜びに目覚めてゆく。『マトリックス』などの予告編ナレーションで鳴らした、 遠藤憲一の冷酷さを秘めたサディスティックな声が、静子の心と身体を荒っぽく嬲る。ベッドに転がされた静子は、 身動きが取れぬ身体に光るような汗を滴らせ、言葉の一つ一つ、愛撫と責めの一つ一つに敏感に反応し、もだえ、あえぎ、 いつしか男を受け入れる態勢が整っている。そこにいたるまでの、繊細で丹念でひたすら扇情的なアングルで占められた夥しいショット――。 すなわちこれがSM映画であり、ポルノ映画だ。クライマックスにはさらに手の込んだ調教場面が展開されるが、 やはり一対一のパーソナルな雰囲気のほうが、杉本彩の顔の表情も親密で淫靡なものになるし、伝わってくるものも大きかった気がする。 こうした場面を一体となって作り上げた役者とスタッフの熱意には、心底敬服した。

 個人的に(これはちょっと……)と思ったのは、静子が携帯電話をバイブにして自慰行為に耽る場面。 携帯電話は石井隆映画の最重要小道具であるし、実際にあれを試みたことのある人間を知っているが、 映像で見るとどうやったって間が抜けて見えてしまう。行為自体の愚かしさをヒロインが恥じらい、くすくす笑いながらも、 ついのめり込んでしまう、みたいな小さな工夫があったほうが良かったかもしれない。……などと、ちょっと余計ごとでした。

 さて映画は佳境にいたり、その隠されていた顔を明らかにする。そこで重要な役割を果たすのが「覗き鏡」だ。 この鏡は画家がヒロインを抱く際に執拗に見せ付けていたもの。静子は行為に溺れる自分自身を見せ付けられ、 そのことによってさらに深みへはまり込むのだが、その鏡の向こうに息を潜めている人物がいたのであった。その人物の正体が明かされたとき、 映画はそのすべてが「村木と名美」の物語の変奏に過ぎなかったことを自ら暴露する。村木と名美の物語なのだから、二人は結ばれないか、 あるいは結ばれたとしても、一瞬の幸福はどちらかの死によって断ち切られることは自明だ。映画はその法則を律儀に堅実に守りきる。 苛烈な鞭打ちによって衣服が破れ、徐々に裸体があらわになるという異様なエンディングは、 遺された者に刻まれた愛の印としてある種の感動を与えるし、SM映画の幕引きとしても完璧に決まっている。 個人的には前作をはるかに凌駕する出来栄えの映画だと思う。

 画家が「真に描きたかった」という静子の絵は、石井隆自身による渾身の一作であろう。 霧のように細かい金色の光が横たわった女体を覆いつくし、この世の外へ葬送しているかのように見える。最後の個展の場面でも、 石井隆自身の絵が数点展示されており(それをアップで撮るといった自己陶酔はさすがにないが)、 いつもながらの名美の絵がさらりと映し出されたとき、胸が一杯になりました。

(2005.5.29)

2005/05/30/13:41 | BBS | トラックバック (14)
膳場岳人 ,今週の一本
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