発掘された映画たち2008-前半
(4/24~5/9までの上映スケジュール)
フィルムセンターは、近年新たに発掘・復元したフィルムを上映する企画「発掘された映画たち2008」を開催します。本企画は、1991年から数えて第6回目にあたり、文化遺産としての映画の価値を再認識していただく場として、多くの方々に親しまれてきました。
今回は、現存する日本最古のコマ撮りアニメーションの『なまくら刀』(1917年)と『浦島太郎』(1918年)のデジタル復元版や、ロサンゼルスの全米日系人博物館から寄贈された入江たか子主演のヒット作『月よりの使者』(1934年)、また、昭和初期にフィルムとSPレコードを同期させながら上映された「レコードトーキー」の復元版、そのほか、映画コレクター・安部善重氏旧蔵のフィルムや、戦後にGHQの民間情報教育局(CIE)が日本人向けに製作した「CIE映画」など、計28プログラム、総計96本の作品群を上映いたします。
この機会に、日本映画史の欠落部分を埋める各プログラムをご堪能いただき、映画保存機関ならではの活動成果をお楽しみください。
下記上映プログラムの上映前に、フィルムセンター研究員による10分程度の解説があります。
4月24日(木)15:00「レコードトーキーの復元」 19:00「発掘されたアニメーション映画」
4月26日(土)13:00「安部善重コレクション1」 5月8日(木) 19:00「CIE映画選集1」
5月14日(水)19:00「バン・コレクション1」 5月15日(木)19:00「バン・コレクション2
料金
一般500円 高校・大学生・シニア300円 小・中学生100円 障害者(付添者は原則1名まで)は無料
観覧券は当日・当該回にのみ有効。開映後の入場は不可。
発券・開場は開映の30分前から行い、定員に達し次第締切。
学生、シニア(65歳以上)、障害者の方は、要証明書。 発券は各回1名につき1枚のみ。
会場:東京国立近代美術館フィルムセンター 大ホール 定員:310名(各回入替制)
2008年4月24日(木)~5月15日(木)/5月23日(金)~6月1日(日)まで
※ただし毎週月曜は休館
4月24日(木)~5月9日(金)までの上映スケジュール
4/24(木) | 15:00~『レコードトーキーの復元 [全16作品]』(計70分) 19:00~『発掘されたアニメーション映画』(計109分) |
4/25(金) | 15:00~『アジアはひとつ』(96分) 19:00~『忠臣蔵』(139分) |
4/26(土) | 13:00~『安部善重コレクション1』(計81分) ※上映前に研究員による10分程度の解説あり 16:00~『安部善重コレクション2』(計83分) |
4/27(日) | 13:00~『安部善重コレクション3「一郎・二郎・三郎(仮題)」』(94分) 16:00~『バン・コレクション1「月よりの使者」』(98分) |
4/29(火) | 13:00~『バン・コレクション2「薩摩飛脚」』(86分) 16:00~『「由比正雪」他』(計103分) |
4/30(水) | 15:00~『「小楠公とその母」他』(計105分) 19:00~『「天明怪捕物 梟」他』(計94分) |
5/1(木) | 15:00~『戦前の普及宣伝映画』(計66分) 19:00~『散りゆく大和櫻 空閑少佐』(計84分) |
5/2(金) | 15:00~『「悲願 千早城」他』(計88分) 19:00~『演芸映画選集』(計69分) |
5/3(土) | 13:00~『戦前記録映画選集』(計103分) 16:00~『戦中記録映画選集』(計103分) | 5/4(日) | 13:00~『戦後記録映画選集』(計66分) 16:00~『「激流」他』(計97分) | 5/6(火) | 13:00~『大都映画1』(計87分) 16:00~『大都映画2』(計95分) | 5/7(水) | 15:00~『大都映画3』(計101分) 19:00~『バン・コレクション3「悲恋華」』(88分) | 5/8(木) | 15:00~『バン・コレクション4「あの道この道」』(77分) 19:00~『CIE映画選集1』(計78分)※上映前に研究員による10分程度の解説あり |
5/9(金) | 15:00~『CIE映画選集2』(計86分) 19:00~『CIE映画選集3』(計90分) |
レコードトーキーの復元 [全16作品] ( 計70分 )
トーキー初期に、サイレントフィルムとSPレコードを同調させる「レコードトーキー」が家庭に普及した。本プログラムはSPレコードの音声をサウンドトラックに焼き込み「トーキー版」として復元したもので、失われてしまった上映形態(短命映画規格)の復元成果でもある。フィルムとレコードはすべて飯田雅三氏から寄贈されたもの。『東京行進曲』は当時の流行歌に合わせて東京の町並みが映し出される作品で、溝口健二監督の同名作品とは関係ない。『江戸子守唄』と『神田小唄』には、岡田嘉子が出演している。『大きくなるよ』は飯田雅三氏の御尊父が当時1歳のご本人の成長を願って製作したホームムービー(復元作業:『黒ニャゴ』と『茶目子の一日』のみハーゲフィルム、他の作品はIMAGICAウェスト)。
月形半平太 (14分・35mm・白黒)
'25(聯合映画芸術家協会)(監)衣笠貞之助(脚)古間礼一(撮)宮崎安吉(出)沢田正二郎
東京行進曲(3分・35mm・白黒) '29(服部小型映画研究所)
黒ニャゴ[デジタル復元版] (3分・35mm・白黒) '29(千代紙映画社)(画)大藤信郎
證城寺の狸囃子(3分・35mm・染色)‘30年代初頭(伴野商店)(監)大石郁雄
小馬(3分・35mm・染色)‘30年(日本キネマ商会)
江戸子守唄 (4分・35mm・染色)
'30(岡田嘉子プロダクション)(撮)木村秀勝(歌)関屋敏子(出)岡田嘉子
神田小唄 (3分・35mm・白黒)'30(十字屋小型映画部)(歌)二村定一(出)岡田嘉子
文部省唱歌 汽車(3分・35mm・染色)'30(内藤友彌プロダクション)(撮)木村秀勝
マリチヤンノヱホン(6分・35mm・白黒)'30(日本キネマ商会)(出)キョウコサン
村祭[デジタル復元版](3分・35mm・染色)'30(千代紙映画社)(画)大藤信郎
國歌 君か代(3分・35mm・白黒)'31(千代紙映画社)(画)大藤信郎
鼠の留守番(3分・35mm・染色)‘31(伴野文三郎商店)(監)大石郁雄
おもちゃの汽車(2分・35mm・白黒)'31(伴野文三郎商店)(画)西倉喜代次
大きくなるよ(3分・35mm・白黒) '31(Iida Pictures)(監)飯田東吉(出)飯田雅三
茶目子の一日[デジタル復元版](7分・35mm・白黒)'31(協力映画製作社)(監)西倉喜代治
文福茶釜(7分・35mm・白黒)'32(伴野文三郎商店)(監)大石郁雄
発掘されたアニメーション映画 ( 計109分 )
日本におけるコマ撮り式アニメーションの第1作は、1917年に公開された『芋川椋三玄関番の巻』(下川凹天)とされているが、今回発見されたのは同年に製作された幸内純一の『なまくら刀』と、翌1918年に公開された北山清太郎の『浦島太郎』である。共に可燃性染色プリントからデジタル復元したもので、日本アニメーション史の起源にせまる大きな発見である。『漫画 瘤取り』は今回新たに可燃性染色プリントから不燃化したもので、過去にフィルムセンターで上映したものより長尺。今回上映する『バクダット姫』は、福岡市総合図書館と共同で復元した「最長版」である。『ガリヴァー奮鬦記』は国税庁が企画した作品で、既存のガリヴァー物語に納税を奨励するメッセージが組み込まれている。
なまくら刀(塙凹内名刀之巻)[デジタル復元版](2分・16fps・35mm・無声・染色)
素材提供:松本夏樹氏、復元作業:IMAGICA、IMAGICAウェスト '17(小林商会)(画)幸内純一
浦島太郎[デジタル復元版](2分・16fps・35mm・無声・染色)
素材提供:松本夏樹氏、復元作業:IMAGICA、IMAGICAウェスト '18(日活向島)(画)北山清太郎
漫画 瘤取り(10分・24fps・35mm・無声・染色)
素材提供:パインウッド・カンパニー '29(横浜シネマ商会)(監)青地忠三(画)村田安司
火の用心(13分・18fps・35mm・無声・染色) 素材:安部善重コレクション
'30(横浜シネマ商会)(監)青地忠三(画)村田安司(撮)飯田光治
古寺のおばけ騒動(5分・35mm・白黒) 素材提供:パインウッド・カンパニー
'36(日本マンガフィルム研究所)(画)(撮)鈴木宏昌
熊に喰われぬ男(9分・35mm・白黒) 素材提供:パインウッド・カンパニー
'48(三幸映画社)(監)オーフジ・ノブロー(大藤信郎)(画)仁間七呂
狐と小鳥 (11分・35mm・白黒) 素材提供:パインウッド・カンパニー
'48(近代映画株式会社)(監)森野佐登志(原)月村正雄(撮)淺野惠(画)里見修
ガリヴァー奮鬦記(9分・35mm・白黒) 素材提供:パインウッド・カンパニー
'50(近代映画社)(監)黒田外喜男、小沢重行(原)山口晋平(脚)鳥羽克始(撮)北村一郎(音)小島和夫
バクダット姫[最長版](48分・35mm・白黒)
'48(三幸映画社)(監)芦田巖(原)若林敏郎(脚)芦田宏昌(撮)河西昭治(音)服部良一
CIE映画選集1 ( 計78分 )
CIE映画とは、GHQの民間情報教育局(CIE)が日本人に対して民主主義の思想を植え付けるために製作した教育映画であり、別名・ナトコ映画とも呼ばれている。近年、桐生市立図書館旧蔵のフィルムが88本(85作品)寄贈されたことを受け、今回そのなかから新たに復元した11本の作品を紹介する。
シー・アイ・イー フィルムスケッチ第13號
アメリカの話題 Themes from the U.S. (9分・35mm・白黒)
アメリカの最新の話題を日本に紹介する作品で、(1)近代的な機械が立ち並ぶ製材所の仕事内容、(2)こどもたちだけで創作し演じる「こども劇場」、(3)10歳の天才ピアニストの日常生活と名演奏が映し出される。可燃性プリントを不燃化した。/'49(東亜発声映画[日本語版製作])
いとしき子らのために Children's Guardian (39分・35mm・白黒)
小学校の用務員を主人公に、先生たちが不正の横行する地域の教育委員選挙に立ち向かう劇仕立ての作品。用務員を御橋公が、地元のボスの子分を花沢徳衛が演じている。/'50(東宝[日本版製作])(出)御橋公、花沢徳衛
戦争花嫁 Japanese Bride in America (30分・35mm・白黒)
「戦争花嫁」とは、主に占領期に米国の軍関係者の男性と結婚してアメリカに渡った日本人女性のことを指す言葉であった。本作は異国の土地で暮らす日本女性が困難を乗り越えてアメリカ社会に受け入れられるまでを描いた劇仕立ての作品。/'52(ニッカーボッカー・プロダクション)
CIE映画選集2 ( 計86分 )
議事の進め方 Using Parliamentary Procedures(22分・35mm・白黒)
'50(理研映画[日本版製作])(監)水木莊也(脚)山田直(撮)廣川朝次郎(音)齋藤一郎(出)島田敬一、花澤德衛、江藤勇、瀨良明、西條悦郎
民主主義的な議事の進め方を紹介する作品で、表決や会計報告の方法などが示される。監督の水木荘也は戦中に芸術映画社で『或る保姆の記録』(1942年)や『わたし達はこんなに働いてゐる』(1945年)の演出を担当し、戦後は三井芸術プロダクションで美術映画を監督した。
交換学生の一年 Year in America(29分・35mm・白黒)
交換留学生としてインディアナ大学に学んだ日本人学生が、アメリカ文化に戸惑いながらも次第に学生生活を満喫してゆくプロセスを描いた作品で、批評的でシニカルな学生の語りが印象的。/'51(フランク・ドノヴァン・アソシエーツ)
病菌はどこにあるか Where Are the Germs?(18分・35mm・白黒)
保健所の食品衛生監視員が、こどもたちが食中毒にかかった原因を究明してゆく劇仕立ての作品で、感染予防の方法を学ぶことができる。/'52(中井プロダクション[日本版製作])
労仂組合員教育 Education in Labor Unions(17分・35mm・白黒)
新しく労働組合に加入した人への教育方法を伝授する映画で、組合員教育の必要性、その具体的な内容や方法論が平易に解説される。/'52(電通映画社[日本版製作])
CIE映画選集3 ( 計90分 )
漁(すなど)る人々 Men Who Fish(25分・35mm・白黒)
漁民たちの貧しく苦しい生活を克明に描くことを通じて、彼らが新漁業法(1949年公布)によって保証された権利を自覚するよううながす作品。/'50(シュウ・タグチ・プロ)
格子なき図書館 Libraries without Bars (22分・35mm・白黒)
図書館法が1950年に施行されたことに伴い、国民に解放された新しい図書館のさまざまな機能が紹介される。/'50(日本映画社[日本版製作])
ディスカッションの手引 Discussion Techniques(23分・35mm・白黒)
合理的で民主的な議論を進めるために、講壇式討議、バズ・セッション、ロール・プレイング法などさまざまな議論の形式の特徴を、アニメーション場面を挿入しながら解説した作品。/'52(理研映画=日本漫画映画[日本版製作])
音楽の森 Tanglewood(20分・35mm・白黒)
マサチューセッツ州のボストン郊外にある「タングルウッド」に集まった若き音楽家たちが、巨匠たちから音楽を学ぶ様子を紹介する作品で、セルゲイ・クセヴィツキー指揮によるボストン交響楽団の演奏場面もある。/'52(MPOプロダクション)
アジアはひとつ ( 96分・16mm・パートカラー )
1972年の沖縄返還直前、布川徹郎や井上修を中心とする日本ドキュメンタリストユニオンが沖縄本島、宮古島、八重山をめぐり、さらに台湾へと移動しながら、日本の歴史の中で国家や民族の枠組みを越境してきた人々を取材した1970年代のドキュメンタリー映画。劣化したオリジナルネガとシネテープが発見され、今回それらの素材から復元した(素材提供:プラネット映画資料図書館、復元作業:IMAGICAウェスト)。/'73(NDU日本ドキュメンタリストユニオン)忠臣蔵 ( 139分・白黒・35mm )
'33(松竹下加茂)(原)(脚)(監)衣笠貞之助(撮)杉山公平(音)塩尻清八、杵屋正一郎(美)吉川観方(出)阪東寿三郎、林長二郎、市川右太衛門、田中絹代、川崎弘子、岡田嘉子、突貫小僧、岩田祐吉、藤野秀夫、上山草人、高田浩吉、堀正夫、尾上栄五郎、坂東好太郎松竹が下加茂と蒲田の両撮影所の人員を総動員した超大作で、林長二郎(長谷川一夫)が浅野内匠頭と吉田沢右衛門の二役、市川右太衛門は脇坂淡路守と垣見五郎兵衛の二役、そして劇壇から参加した阪東寿三郎が大石内蔵之助を演じる。衣笠貞之助のモダンな演出が特徴的で、当時は前篇・後篇あわせて3時間半を越える作品であったが、今回上映するのはダイジェスト版(プリント上のタイトルは『大忠臣蔵』)。後半に『赤垣源蔵』(1938年、阪東妻三郎主演)の場面が挿入されているが、元素材のフィルムに挿入されていたもので、そのまま上映する。なお、元素材の音が悪いため、復元版でもなお台詞は聞き取りづらい(素材提供:プラネット映画資料図書館)。
安部善重コレクション1 ( 計81分 )
2005年に逝去された大阪市の映画コレクター・安部善重氏が旧蔵していたフィルムのうち、可燃性フィルム75本の寄贈手続きが2006年に完了した。今回はそのうち不燃化した8本を上映する。
日活行進曲 曽我兄弟 (14分・18fps・35mm・無声・染色・断片)
'29(日活)(監)清瀬英次郎(原)長谷部武臣(池田富保)(撮)中西与之助(出)久米譲、沢田清
『日活行進曲』は異なる8人の監督が「富士山」を共通のテーマに短篇をそれぞれ演出したオムニバス映画であるが、最終篇「曽我兄弟」の一部のみコレクションに含まれていた。兄の十郎が、父の仇の工藤祐経から屈辱的な仕打ちを受け、弟の五郎が乗り込む場面が残っている。
乙女シリーズ その一 花物語福壽草 (67分・24fps・35mm・無声・白黒)
'35(新興キネマ)(監)川手二郎(原)吉屋信子(脚)川手二郎、荻野賴三(撮)中井朝一(音)伊達三郎(美)久光五郎(出)江川なほみ、久松美津江、林喜美枝、髙倉惠美子、星ルリ子、松山愛子、小松峯子、木村潤子、岡崎光彦、大泉慶治、丘寵児、小島洋々、日ノ本一男、上田寛、新見映郎、ジョー・オ・ハラ
原作は吉屋信子の少女小説で、思春期の乙女の繊細な心と女同士の堅い友愛が描かれる。女学生の薫は、兄のお嫁さんを姉として慕うが、姉は病気で療養所へゆくことに…。当時はサウンド版だったが上映プリントは無声版。
安部善重コレクション2( 計83分 )
肉付の面 (6分・16fps・35mm・無声・染色)
蓮如ゆかりの地・福井県吉崎に伝わる説話「肉付の面」の映画化。姑の嫁いびりの話で、姑が夜道で鬼の面をかぶって嫁を脅かそうとすると、面が顔に貼り付いて取れなくなってしまう。元素材の可燃性プリントのストックが1921年であることから、牧野教育映画の『肉付の面』(1922年)と推測される。/'22(牧野教育映画)
妙好人傳 大和の清九郎 (15分・16fps・35mm・無声・染色・不完全)
信仰心の厚い「妙好人」として知られた大和の清九郎を主人公とする宗教映画で、全3巻中第一巻目が発見された。吉野から京都の本願寺まで毎日何度も薪を背負ってお参りをしたり、亡き父が残した借金を律儀に返済しようとする場面が現存。/'22(東本願寺映画班)(原)(脚)沼法量
光を仰ぎて (15分・18fps・35mm・無声・白黒・不完全)
'32(協立映画プロダクション)(監)金森万象(原)蓮沼門三(撮)松浦茂(出)金子新一、弊原礼子、本田繁美、小泉光子、兒島武彦、岡村義夫、市原義夫、守本專一、嵯峨京子、浦路輝子、澤田慶之助
社会教育団体・修養團の宣伝映画として製作された教育劇映画で、酒飲みで芸者遊びに明け暮れる夫に対して、必ず改心してくれると信じて献身的に尽くす貞淑な妻の美談。物語の後半は欠落しているが、マキノプロダクションで鍛えた金森万象の手堅い演出が確認できる。協立映画プロダクションは1931年に金森が設立した独立プロ。
腹籠りの聖教 信の巻 (16分・18fps・35mm・無声・染色)
蓮如にまつわる宗教映画で、物語の前半は吉崎の坊舎が火災にあった際に、死を覚悟で火の中へ飛び込み親鸞の聖典「信の巻」を救った了顕の殉教話。後半は信心深い父の源右衛門が、親鸞の御真影をお寺から返してもらうために、息子の源兵衛の生首を差し出すという話。若干重複場面があるが、元素材の可燃性プリントの編集のまま上映する。この可燃性フィルムは1934年に検閲されているため公開年を34年としているが、映像のスタイルから撮影はそれ以前の可能性がある。/'34(本派本願寺)
無限の寳 (31分・35mm・白黒・不完全)
'36(振進キネマ社)(監)(原)井上麗吉(撮)川島精二(美)世羅昌一路(出)曽我廼家一二三、木村光子、高波三郎、塩谷つとむ、高石明、保瀨薫、鈴石時子、東大寺一郎、恩田清、加藤あき子、村田三樹子
働かずに酒ばかり飲んでいる主人公が、大金を拾ったことから巻き起こる騒動を描くことによって、勤労のすばらしさを謳った喜劇仕立ての教育映画。振進キネマは1921年に監督の井上麗吉が設立した老舗の教育映画プロダクションで、1920年代末には東京の町屋に500坪の撮影所を所有していた。
安部善重コレクション3
一郎・二郎・三郎(仮題)(94分・20fps・35mm・無声・一部染色)
冒頭のクレジットタイトルやエンドマーク等の指標が欠落しているために題名の特定にいたっていないが、安部善重コレクションの中で最も長尺の劇映画。大学に通う三郎を主人公にして、ばらばらになった家族の絆を取り戻すまでが描かれている。仏教的な単語がインタータイトルに頻出することから、宗教的な教育劇映画として製作されたのであろう。『暗黒街の女』やThe Tigress(共に1927年)といったハリウッド映画のポスターが掲げられている点、また、元素材の可燃性フィルムのストックが1929年のものであることから、1929年から1930年頃に製作された作品であると推測される。/'29-30頃(出)江川宇礼雄
バン・コレクション1
「月よりの使者」
( 98分・18fps・35mm・無声・白黒 )
'34(入江プロダクション)(監)田坂具隆(原)久米正雄(脚)木村千疋男(撮)伊佐山三郎(出)入江たか子、高田稔、水原玲子、中野かほる、菅井一郎、牧英勝、江川なほみ、見明凡太郎、浅田健二、松本泰輔、沖悦児、荒木忍、浦辺粂子
ロサンゼルスの全米日系人博物館から寄贈された伴武氏の遺品(バン・コレクション)の16mmプリントから復元した作品を上映する(復元作業:IMAGICAウェスト)。 入江たか子の代表作『滝の白糸』(1933年)の翌年に製作され、当時大ヒットを記録したメロドラマ。3人の男性から求婚される療養所の看護婦の波瀾万丈の物語。1949年(加戸敏監督、花柳小菊主演)と1954年(田中重雄監督、山本富士子主演)にリメイクされている。
5月14日(水)19:00の回、上映前に研究員による10分程度の解説ありバン・コレクション2
「薩摩飛脚」
( 86分・24fps・35mm・無声・白黒 )
'38(新興キネマ)(監)伊藤大輔(原)大仏次郎(脚)原健一郎(撮)三木稔(出)市川右太衛門、市川男女之助、鈴木澄子、羅門光三郎、松浦妙子、浅香新八郎、歌川絹枝、寺島貢、荒木忍、嵐徳三郎、光岡竜三郎、東良之助、日高松子、桜井勇
フィルムの現存が確認されていなかった1930年代後半の伊藤大輔作品がアメリカから里帰りした。幕府の密偵として薩摩に潜入した神谷(右太衛門)と松村(男女之助)は、敵地の警備兵に追われ、松村は囚われの身になってしまう。神谷は命を掛けて薩摩屋敷へ乗り込む…。1932年に伊藤と山中貞雄が分担して監督した同名映画のリメイク。トーキー作品として製作されたが、発見されたのはサウンドトラックのない無音版。ラストの壮絶な右太衛門のチャンバラは必見。
*上映当日、物語の梗概を記したハンドアウトを配布します。画面が見苦しくなる場面がありますが御理解の上ご鑑賞下さい。5月15日(木)19:00の回、上映前に研究員による10分程度の解説あり
バン・コレクション3 「悲恋華」( 88分・24fps・35mm・無声・白黒 )
'36(松竹蒲田)(監)佐々木康(原)牧逸馬(脚)柳井隆雄(撮)野村昊(音)万城目正(美)周襄吉(出)奈良眞養、八雲理恵子、桑野通子、河村黎吉、日下部章、忍節子、小林十九ニ、飯田蝶子、新井淳、園田豊、本郷秀雄、水島光代、葛城文子幼い息子(日下部)と娘(忍)をやむを得ず手放した母親(八雲)が、十数年後に偶然再会するというメロドラマ。東映京都で時代劇を数多く監督した佐々木康監督が松竹蒲田時代に演出した作品。
バン・コレクション4「あの道この道」( 77分・24fps・35mm・無声・白黒 )
'36(松竹蒲田)(監)佐々木康(原)吉屋信子(脚) 柳井隆雄(撮) 野村昊(音) 万城目正(美) 五所福之助(出)水島亮太郎、水島光代、吉川満子、葉山正雄、岩田祐吉、青木しのぶ、森川まさみ同じ日に産まれた貧乏家庭の赤ん坊と富豪の赤ん坊が誤って取り替えられ、中学生になった時に二人の少女が真実を知らないまま再会するというメロドラマ。主演の水島亮太郎と水島光代は当時「夢心コンビ」と呼ばれて売り出されていた。
料金
一般500円 高校・大学生・シニア300円 小・中学生100円 障害者(付添者は原則1名まで)は無料
観覧券は当日・当該回にのみ有効。開映後の入場は不可。
発券・開場は開映の30分前から行い、定員に達し次第締切。
学生、シニア(65歳以上)、障害者の方は、要証明書。 発券は各回1名につき1枚のみ。
会場:東京国立近代美術館フィルムセンター 大ホール 定員:310名(各回入替制)
http://www.momat.go.jp/