――パチモン007サントラに愛をこめてvol.2
承前――として、いきなり2005年3月25日付けで日本に配信された、
ある男の談話を紹介する――「イアン・フレミングの『カジノ・ロワイヤル』は僕の一番好きな本だ。あれを映画化するのなら、
どうして僕に監督させないんだ? 僕があの話をブロスナンで撮っていたら、アクションやカーチェイスだけじゃない、
原作に近い映画になっていたと思うよ」――byクエンティン・タランティーノ。
――おいおい――
本気だったのか、タラ。彼の近年の作品にはいまひとつ乗れず、周囲の人間の絶賛の嵐に対しても
「栗山千明をありがたがるシノヤマキシンと同じベクトルの感性の男に、本当の漢気は撮れるわけない」などと毒づいていた私ですが、
この発言にはグッときました。前回から引き続き、ジェームズ・ボンド――ひいては、SECRET
AGENTという男子憧れの商売への転職を実現すべくうだうだ考えをめぐらす今日この頃、また楽しいCDを見つけてしまったのは、
この発言の導きなのかしらん。
『OSS 117(仏Universal / 982 458 2)
』
これは、かのお仏蘭西のUniversalレーベルが展開している発掘シリーズ「Bandes Originales de Films
Ecoutez le Cinema」の一枚。フランス映画を中心とした、ヨーロッパの名画の発掘サントラ・シリーズなのだが、まあ、
そのラインナップはここをご覧あれ。
『Universal Music Francais』
(繋がらないことがありますが、その場合は暫くしてからお試しください)
――いい世界でしょ? 公開当時にLPなどで発売されたものにとどまらず、
実際に劇中で使用された音源を惜しみなく収録した中身はもちろん折り紙つき。何気ない風景写真に当時もののポスターを配する、
統一フォーマットのデザインもなかなか洒落た楽しいシリーズである。去年の暮れ、名盤『ザ・キャット』に収録のジミー・
スミスのプレイで著名なラロ・シフリン作曲『危険がいっぱい=les Felins(仏Universal / 982
458 8)』の劇中音楽の完全収録盤が出たときなんかは狂喜乱舞したっけ。
その最新リリース(35枚目)となったのが、ショーン・コネリー=ボンドの人気絶頂時にフランスで製作されたスパイ映画『OSS 117』
シリーズのうち、ミシェル・マーニュが担当した音楽のコンピレーション盤。
『OSS 117』シリーズは、フランスで大人気だったジャン・ブリュースの原作小説を映画化したもの。
007に対する117という数字からしてすでに志が低そうな匂いが漂うが、さすがはパロディ法を制定して、
ジャパニメーションの流用改悪を容認しているお国柄。マリナ・ヴラディやらミレーヌ・
ドモンジョやら豪華なキャストも満腹なゴージャスな作り。本国的には第一級作なんだな、きっと。主役"OSS
117"は数名の役者が演じているが、日本でも劇場公開された『リオの嵐=Furia a Bahia pour OSS 117』
などで主演したフレデリック・スタフォードが特に印象的。わが日本を代表するキザ男、故・田宮二郎やミス・
ユニバースの司会兼アンドリュー星野こと宝田明にも通じる"これこそ昭和の男!"って感じのィヨコワケ・ハンサムな容貌で、
お気楽極楽な空気あふれる影の世界の住人になりきるのに不可欠な胡散臭さを見事に着こなしている。スパイ物の先達たるアルフレッド・
ヒッチコック御大が、逆にスパイ物ブームに振り回されてしまったような迷作『トパーズ』の主演に抜擢されたことも、
如何にこのチェコ出身の俳優が魅力的だったかの証だろう。実際、彼はコネリー降板後のジェームズ・
ボンド役の候補の一人と噂されたこともあるが、ロジャー・ムーアにその座をさらわれてしまった――って、そんな話はさておき。
『OSS 117』シリーズは、音楽も実にゴージャスだ。
哀愁ある巴里ィなメロディを基盤にクールなプレイを決めながらもケッタイなコーラスがからみ、地中海風味や小粋なブラジリアンも
(作品のロケ地に合わせて)節操なく顔を出す、パスティーシュここにありといった感じのいい湯加減なつくりが実にイイ。特に、
『007は二度死ぬ』に先駆けて日本ロケを実現させてしまった『OSS 117/東京の切り札= Atout coeur a Tokyo
pour O.S.S.117』の音楽における大味but珍味な東洋解釈の醸し出すエキゾチシズムは、
21世紀を迎えて早5年の現在でもなかなか新鮮。随所に(笑)を配置しつつ、緊迫感アリ和みアリと多彩に聴き手の空気を演出する楽曲群は、
ラウンジだとかわかりやすいキーワードではくくれない、"変ジャズ"として耳の粘膜を刺激してやまない。
世界を股にかける男を彩るBGMならではの"観光感覚"は聴き手のチャクラを開くのに抜群の効用がある。ボーナス・トラックのリミックス・
ヴァージョンでは音楽の時間旅行まで経験させてくれる(前述の『危険がいっぱい』も同趣向の楽しいオマケが収録されている)。
思えば、60年代末期のボンド・ブームの最中、本家の音楽を担当したジョン・バリーの開発した、エレキ・
ギターを主役に据えたコンボ編成のリズムに、ブラスが際立つオーケストレーションを施した"スパイ・サウンド"は多くの果実を生んだ。
『プリズナーNO6』(作曲:ロン・グレイナー)、映画『殺しの免許証』(作曲:バートラム・チャペル)、そしてその『殺しの免許証』
とほぼ同じ旋律を持つテレビ・シリーズ『キイハンター』(作曲ぅ?:菊池俊輔)、藤巻潤のヴォーカル・ヴァージョンも印象的な『ザ・
ガードマン』(作曲:山内正)、主役ディーン・マーティンが狙撃されるたびに背後のフランク・シナトラの肖像が木っ端微塵となり、
カーラジオからは自身の持ち歌というベタベタな音ギャグが眩しい『サイレンサー』シリーズ(日本のエルヴィス=小林旭は『多羅尾伴内』
などで、この音ギャグを自家籠中のモノとする離れ業を見せた)、若き日のジェリー・ゴールドスミスの溌剌とした小編成ジャズ・
オーケストラがカッチョよく新鮮な『電撃フリント』『0011ナポレオン・ソロ』――などなど、その魅力を語ればキリがないのだが、
あえてこの一枚! として去年の暮れ、突如輸入盤店に並んで、私が腰を抜かした『ドクター・コネリー/キッド・ブラザー作戦="OK Connery "~他に
Operation Double 007 ,Operation Kid Brother ,Secret Agent
00などとも呼ばれる~(伊digitmovie/ CDDM025)』
のサウンドトラック盤は紹介しておきたい。
『ドクター・コネリー~』は、アバウト大国かつパクリ天国のイタリアがでっち上げた泡沫ボンド・モドキ映画のひとつの頂点。主演は、
ショーン・コネリーの実弟=ニール・コネリー。脇を固めるのは、『ロシアより愛をこめて』のヒロイン=ダニエラ・ビアンキ、
『サンダーボール作戦』の悪役=スペクターNO2ことアドルフォ・チェリ…っておい! 「骨までしゃぶる気か?」と問うたら「うん」
と即答しそうなこの面子。さらに本家ボンド・シリーズで英国諜報部部長Mとして11作にレギュラー出演したバーナード・リーと、
その秘書ミス・マネーペニーとして14作に出演したロイス・マクスウェルが本家そのまんまの役で出るにあたっては悶絶モノ。この人たちは
「骨までしゃぶる気か?」と問われれば「骨の髄までしゃぶる」と答えるのだろう、きっと。ロイス・マクスウェルなんて、
本家ではついぞ見せることの無かったガン・アクションまで披露してノリノリだ。
音楽のほうもジョン・バリーのフォーマットに倣い、
パンチの効いた女性ヴォーカルでダイナミックに開幕しジャズいフィーリングで包んだベタベタのスパイ・サウンドだ。だが、
どことなくメロディがおおらかなのがカンツォーネの国ならではの味であり、臍。特に、「ジェームズ・ボンドのテーマ」の主旋律ではなく、
ブラスやストリングスの合いの手的フレーズを随所に取り入れたアレンジはカッコいいはずなのにいかがわしく、
聴いていて困るとしか言いようのない世界を展開している。作曲は誰かといえば、こんなものを書くんじゃない! 巨匠エンニオ・モリコーネ。
しかも、編曲は長らくパートナーを務めたブルーノ・ニコライという万全の布陣。映画のほうも、
ヒッチコック風の巻き込まれサスペンスに端を発し、クライマックスのニール率いるコンバット・チーム(武器はなぜか弓矢)
が敵地に乗り込み大乱闘を繰り広げるクライマックスまで、安い作りながらも一気呵成に突っ走る活劇ならではの魅力あふれるものだった。
改めて調べてみると、監督はアルベルト・デ・マルチーノ。拳銃でヘリを撃ち落す名場面と『黄金の七人』でおなじみアルマンド・
トロヴァリヨーリの音楽がそのスジのファンに名高い『ビッグ・マグナム77』の監督だ。うーん、ビバZ級。
いつも心に東京12チャンネルの深夜映画。
まあ、多いに脱線しつつ、長い文章になりましたが、強引にまとめに入りますと――
一定のお約束を守りつつ――多少怪しいモノもあるが――各々独創性を発揮した"カッコいい"スパイ・
サウンドの群れは今も多くの人に愛されている。だが、
本家ボンド音楽のもうひとつの魅力である"観光感覚"までもモノにしたフォロワーはあまりいなかった。その意味でも、『OSS 117』と
『ドクター・コネリー~』のサウンドは貴重であり、こうしてまとめて聴ける状況が整ったことは、モノ好きの一人としてとてもうれしい。
いろんな意味で妄想好きの、虹を掴む善男善女にオススメの音楽たちです。機会があったら是非! 現実逃避のおともにどうぞ。
――にしても、『ボンド21作目=カジノ・ロワイヤル』は一体どうなるんですかね。
タラの妄想のような原作に忠実な映画化は叶いそうにないですが、個人的にはタラに撮らせてやって欲しいと思います。プロデューサーが、
タラにもう一度『キル・ビル』
に宇宙刑事ギャバン兼デンジブルー兼バトルケニア兼アカレンジャーの中身=大葉健二を引っ張り出した時と同じ手腕と正しい金の使い方を発揮させるよう仕切りきれるなら。
内容? そうねえ、以前から「一度、悪役として出演したい」と公言しているショーン・コネリー、ロジャー・ムーアの二大巨頭はもちろん、
泡沫の夢だったジョージ・レーゼンビーとティモシー・ダルトンに加え、前述のフレデリック・スタフォードや『オーメン3』のダミアン兼
『ジュラシック・パーク』の神経症オヤジ=サム・ニール、筋肉ダンディ=バート・レイノルズ、プリズナーNO6=パトリック・
マクグーハンなど、ボンド役の有力候補と伝えられつつも轟沈した人たちも全員集めて、101匹ボンドが大行進する、コロムビア映画版
『カジノ・ロワイヤル』のリメイクってあたりが、妥当なんじゃないですか?
主なキャスト / スタッフ
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