映画の中の日本文学 Part 1
世界の映画史をひもとけば、どの国の映画も、そこで生まれた優れた文学作品を糧として発展してきたことが分かります。映画大国日本も例外ではなく、その百年以上にわたる歴史を通じて、さまざまな文学者たちの残したテクストが脚本家や監督たちを絶えず刺激してきました。
この上映企画は、フィルムセンター展示室にて開催の展覧会「映画資料でみる 映画の中の日本文学Part 1」(4月4日~7月20日)の関連企画として、展示企画が対象とする大正期までの文学作品を原作とする映画に焦点を当てたものです。個々の文学作品が各時代の文化状況の中でいかに一本の映画に“翻訳”されたかを、9つの名作を通じてたどります。
平成18(2006)年度よりフィルムセンターは、これまで教育機関のための特別映写や一部の共催事業の会場として使用されてきた小ホールを、《京橋映画小劇場》(KYOBASHI-ZA)の名のもと、年に数回、フィルムセンターの主催上映企画にも利用し、さらなる上映活動の拡充を図ることとなりました。
フィルムセンター所蔵作品の公開を中心に、外部団体との共催企画も引き続き模索しつつ、多彩な上映企画の実現を目指します。大ホール・展示室企画ともども、皆さまのご来場を心よりお待ちしております。
料金
一般500円 高校・大学生・シニア300円 小・中学生100円 障害者(付添者は原則1名まで)は無料
観覧券は当日・当該回にのみ有効。開映後の入場は不可。
発券・開場は開映の30分前から行い、定員に達し次第締切。
学生、シニア(65歳以上)、障害者の方は、要証明書。
発券は各回1名につき1枚のみ。
会場:東京国立近代美術館フィルムセンター 小ホール 定員:151名(各回入替制)
2008年4月18日(金)~5月4日(日)まで
※金曜日・土曜日・日曜日のみの上映
4/18(金) | 14:00~『日本誕生』(124分) 18:00~『心中天網島』(102分) |
4/19(土) | 12:00~『にごりえ』(130分) 15:00~『吾輩は猫である』(115分) |
4/20(日) | 12:00~『野菊の如き君なりき』(92分) 15:00~『阿部一族』(106分) |
4/25(金) | 14:00~『地獄変』(95分) 18:00~『痴人の愛』(92分) |
4/26(土) | 12:00~『夜明け前』(142分) 15:00~『日本誕生』(124分) |
4/27(日) | 12:00~『心中天網島』(102分) 15:00~『にごりえ』(130分) |
5/2(金) | 14:00~『吾輩は猫である』(115分) 18:00~『野菊の如き君なりき』(92分) |
5/3(土) | 12:00~『阿部一族』(106分) 15:00~『地獄変』(95分) |
5/4(日) | 12:00~『痴人の愛』(92分) 15:00~『夜明け前』(142分) |
日本誕生 ( 124分・35mm・カラー )
’59(東宝)(監)稲垣浩(脚)八住利雄、菊島隆三(撮)山田一夫(美)伊藤熹朔、植田寛(音)伊福部昭(特技監督)円谷英二(出)三船敏郎、鶴田浩二、原節子、司葉子、水野久美、上原美佐、香川京子、田中絹代、乙羽信子、杉村春子、久保明、宝田明、小林桂樹、加東大介、三木のり平、有島一郎、柳家金語楼、榎本健一、朝汐太郎、中村鴈治郎、東野英治郎、平田昭彦、志村喬
原作:「古事記」「日本書紀」(8世紀前半)
日本神話の世界に正面から挑み、「東宝映画1000本製作記念映画」と銘打たれたオールスターのスペクタクル映画。ダイナミックな時代劇で定評のある稲垣浩らしい迫力ある作品になっており、スサノオノミコトによる八岐大蛇(やまたのおろち)の退治など、多くのシーンで円谷英二による特撮が用いられた。ヤマトタケルに扮して女装にも挑んだ三船敏郎にも注目。
心中天網島 ( 102分・35mm・白黒 )
’69(日本アート・シアター・ギルド=表現社)(監)(脚)篠田正浩(脚)富岡多恵子(脚)(音)武満徹(撮)成島東一郎(美)粟津潔(出)中村吉右衛門、岩下志麻、河原崎しず江、左時枝、日高澄子、滝田裕介、小松方正、加藤嘉、藤原釜足原作:近松門左衛門(1720年初演)
遊女・小春とその馴染み客の心中事件をもとにした浄瑠璃を原作とする、近世文学の映画化の中でも特異な位置を占める篠田正浩の一大実験作。遊郭を現代美術作品のように構成したイラストレーター粟津潔、コントラストの強い撮影を志向した成島東一郎、音楽をシナリオの一要素にまで高めた作曲家武満徹など、さまざまな才能がぶつかり合う稀有な場となった。
にごりえ ( 130分・35mm・白黒 )
’53(文学座=新世紀映画社)(監)今井正(脚)水木洋子、井手俊郎(撮)中尾駿一郎(美)平川透徹(音)團伊玖磨(出)田村秋子、丹阿彌谷津子、久我美子、中村伸郎、竜岡晋、淡島千景、杉村春子、賀原夏子、山村聰原作:樋口一葉「十三夜」「大つごもり」「にごりえ」(1894~95年)
明治の東京の情景描写に長けた樋口一葉の、3つの短篇小説を原作とするオムニバス映画。シナリオは水木・井手という人気脚本家がコンビで執筆したが、下町の言葉に造詣の深い文人・久保田万太郎が脚本の監修者として名を連ねた。文学座の名優たちが演じる庶民の女たちの悲哀を、今井正はてらいのない正攻法の演出でまとめ上げている。
吾輩は猫である ( 115分・35mm・カラー )
’75(芸苑社) (監)(脚)市川崑(脚)八住利雄(撮)岡崎宏三(美)西岡善信(出)仲代達矢、島田陽子、三波伸介、岡田茉莉子、波乃久里子、篠ヒロコ、伊丹十三、前田武彦、岡本信人、篠田三郎、左とん平、岡田英次原作:夏目漱石(1905年)
戦前のP.C.L.作品(1936年)以来のリメイクで、市川崑にとっては、『こころ』(1955年)以来の漱石作品の映画化である。さまざまな些事がとりとめもなく語られるという、この物語の特性を活かしつつシナリオ化したのは、文芸映画の経験も豊富な八住利雄。原作の底流をなす文明批評よりも、ほのかなおかしみを漂わせる作品に仕上がっている。
野菊の如き君なりき ( 92分・35mm・白黒 )
’55(松竹大船)(監)(脚)木下惠介(撮)楠田浩之(美)伊藤熹朔(音)木下忠司(出)有田紀子、田中晋二、笠智衆、田村高廣、小林トシ子、杉村春子、雪代敬子、山本和子、浦邊粂子、松本克平、本橋和子、高木信夫、渡邊鐵弥原作:伊藤左千夫「野菊の墓」(1906年)
15歳の少年・政夫と2歳上の従姉・民子の淡い恋を描き、伊藤左千夫の小説デビューとなった純愛譚。数十年ぶりに帰郷した老人が夭折の恋人を思い出すという形式を取り、回想シーンをアルバム写真のように楕円のマスクで囲む画面作りなどは木下恵介らしい実験精神である。原作の舞台は千葉県だが、映画では木下がロケ地として好んだ信州になっている。
阿部一族 ( 106分・35mm・白黒 )
’38(東宝東京=前進座)(監)(脚)熊谷久虎(脚)安達伸男(撮)鈴木博(美)北猛夫(音)深井史郎(出)河原崎長十郎、中村翫右衛門、山岸しづ江、堤眞佐子、市川笑太郎、橘小三郎、市川進三郎、山崎島二郎、市川扇升、市川莚司原作:森鷗外(1913年)
原作は、乃木希典の殉死に刺激された鷗外が、封建社会の倫理を問うた一篇である。領主から殉死を許されなかった武士が、面目を保つために勝手に切腹し、命に従わない連中とみなされたその一家はさらに窮地に立たされてゆく。「死」という究極のテーマを扱いながら、全篇にわたって抑制を利かせた熊谷の演出が印象深い。長十郎、翫右衛門以下、前進座の俳優たちが総出演した。
地獄変 ( 95分・35mm・カラー )
’69(東宝)(監)豊田四郎(脚)八住利雄(撮)山田一夫(美)村木忍(音)芥川也寸志(出)中村錦之助、仲代達矢、内藤洋子、大出俊、下川辰平、内田喜郎、中村吉十郎、鈴木治夫、天本英世、大久保正信、音羽久米子、猪俣光世、沢村いき雄、今福正雄原作:芥川龍之介(1918年)
平安の都を舞台に、時の権力者と反骨心に満ちた宮仕えの絵師が壮絶な対立を見せる、「宇治拾遺物語」をもとにした芥川の名篇の映画化。文芸映画で評価の高い豊田四郎だが、ここではむしろ迫力ある人物造形に力を入れており、特に錦之助・仲代の演技には圧倒される。芥川也寸志が、父の原作による映画に曲を書いたのはこの作品だけである。
痴人の愛 ( 92分・35mm・カラー )
’67(大映東京)(監)増村保造(脚)池田一朗(撮)小林節雄(美)間野重雄(音)山本直純(出)小沢昭一、安田道代、田村正和、倉石功、村瀬幸子、清川玉枝、内田朝雄原作:谷崎潤一郎(1924年)
ひとりの少女を庇護して育てながら、いつしか逆にその魅力の前に身を滅ぼしてしまう哀れな男を描いた谷崎文学の3度目の映画化である。いずれも大映作品で、京マチ子、叶順子に続いて、原作では数え年15歳の小悪魔ナオミに扮したのは21歳の安田(大楠)道代。他にも『刺青』や『卍』など、谷崎の綴る過剰な愛の世界は、増村保造監督の絶好の主題であった。
夜明け前 ( 142分・35mm・白黒 )
‘53(近代映画協会=劇団民芸)(監)吉村公三郎(脚)新藤兼人(撮)宮島義勇(美)丸茂孝(音)大澤壽人(出)滝澤修、伊達信、細川ちか子、小夜福子、乙羽信子、山内明、宇野重吉、北林谷栄、垂水悟郎、芦田伸介、下元勉原作:島崎藤村(1929~35年)
「木曽路はすべて山の中である」に始まり、幕末から明治にかけての世の変貌に揺れる山深い町の人間たちを描いた近代文学の巨篇に、独立プロ運動ののろしを上げた新藤=吉村のタッグが挑んだ野心作。築地小劇場での初演(1934年)から主人公の青山半蔵を演じてきた滝沢修など、劇団民芸の総出演を得て、高い洗練に持ち味のあったそれまでの吉村作品とは異なる骨太の群像劇となった。
料金
一般500円 高校・大学生・シニア300円 小・中学生100円 障害者(付添者は原則1名まで)は無料
観覧券は当日・当該回にのみ有効。開映後の入場は不可。
発券・開場は開映の30分前から行い、定員に達し次第締切。
学生、シニア(65歳以上)、障害者の方は、要証明書。 発券は各回1名につき1枚のみ。
会場:東京国立近代美術館フィルムセンター 小ホール 定員:151名(各回入替制)
http://www.momat.go.jp/
2008年4月18日(金)~5月4日(日)まで
※金曜日・土曜日・日曜日のみの上映
主なキャスト / スタッフ
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心中天網島―マンガ日本の古典〈27〉 E 忍者大好きいななさむ書房
心中天網島―マンガ日本の古典〈27〉
Tracked on 2009/06/22(月)12:41:20
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